第12話 ヒマつぶしのつもりがエライことに‼ その2
武器屋にも若い男がいた。武闘派でも武器オタクでもない、店番を暇そうに手伝っている風の、店主の息子か、もしくはバイト、、
年齢不詳のこの世界では親はいないだろうから、バイトの方だろう。パートナーができた男女は、子供が生まれるまえに成就してこの世界から消えるか、倦怠感と戦いながら試行錯誤するしかない――きっと。いまのところ子連れは見ていないし、、。
"経営者"は、いるかもしれない。経済力は真の愛にも大事だ――オレの考えは、今、そのレベル。
取りあえず、一番安い弓矢と縄を買う。
(異世界とはいえ、直接ナイフや剣で、生き物をぶった切るには抵抗がある。)
――カードの残高は大丈夫なようだった。
成り行きで始めた神殿修復のバイトだが、案外給料は良かったらしい。公共事業…?まぁいい、とにかくカナありがとう!あとはとっ捕まえた獲物を売りさばくか、自分で、"いきなり獣ステーキ"的なものを始めればいいだろう。
目的地は、セラピムから連れてこられとき、上空から見えた緑地帯。
ここまでの少ない経験で、ここに暮らす人たちは連れてこられたときの記憶がないようだ。と、すると、案外穴場なのでは、、。正々堂々と戦うことだけが正義ではない――。
…正義かもしれないが、頭を使うほうが理にかなっている――ネットやテレビの、頭よさそうな人たちもそんな風なことを言っていた気がする。
オレは店の外を見た。店の敷地内の"知識の木"にラクダが繋がれていた。店内にはオレの他に客はいない。
「あのラクダ、君の?」
オレは聞いてみた。
「いや。飼育放棄されたヤツをここの主人が引きとってきた。今はオレが仕方なく世話してる。もし、代わりに世話してくれるなら連れて帰ってもいいぞ」
――仕方なく、って、、。そもそもラクダの飼育放棄ってどういう経緯?
オレが店員の方を振り返ると、カウンターの上にラクダ用の"鞍"をのせ、オレの方に押してよこした――目は合わせない、、。
――よっぽど世話がいやなのか?
“大望は労働力によってかき立てられ、絶望は怠惰によって慰められる。” モンテスキュー
ともあれ、貰うことにした――。
だって、デカイ(死んだ)獲物担いで帰りたくないから。
オレはゆっくりと手綱を引きながら自宅へと向かった。
「お前の名前はセルバにしよう!セルバンテスから名前をとった」
セルバもご機嫌そうだ。
「これで"足"も手に入った。上手くいくときは上手くいくもんだ。ラクダなんて普通結構な値段するだろうに――」
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』なら、ただちにエンディングだ(夢)。
「ありがとう。カナ!そして、バイト君!」
オレは自宅アパートの前の"知恵の木"にセルバをくくりつけると、夜にのどが乾かないように知恵の実を数個落としておいた。
「ドンキ・ホーテとその相棒。いい冒険が始まりそうだ!」
オレはセルバにハグして、明日に備えるためにアパートへと入っていった。
その後、セルバが不服そうな目でオレの背中を見ていたことは、そのときのオレには気づけなかった。
(因みに、"ドン・キホーテ"の愛
――もちろん、セルバが不満なのは、名前のことではなく、新しい飼い主が貧乏だったことだった…。
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