第9話 異世界の日常 その2

「先に外で待ってて、ジェソク」


 カナがそういうので、バベルの校舎?の入り口が見える石垣に腰かけて下校するカップルたちを眺めていた。ほんとうに幸せなのかどうか今のオレには分からない。羨ましいとも思わない。("実世界"の)学生時代はメチャ羨ましかった。そして、今のオレは――


「おまたせ」


 カナが薄紫のキャミソール的な服でやってきた。


 ――そう、一応、相手がいる。



「着替えたんだ」


「うん。どう?」


「びっくりした!とっても似合ってるよ」


(――これで正解なのか分からなかったが無難に、、)



「うれしい!」


(――本当にそう思っているのかどうかは今のオレには分からない。)



「じゃあ、行こ!」


 カナはオレの腕をとって――とは、いかなかったが、かなり至近カップル距離で歩いてくれる。周りの男子たちの視線がこちら側に、と言うか、カナに注がれる。


(やっぱり、カワイイという認識で間違っていないようだ。)



「どこに行くの」


「私、おなか空いちゃった」


「ああ」


 ――!


「そういえば、お金が、、(いきなり情けないセリフ。文房具買ったのミスったか、、)」


「そっか、来たばっかりだもんね。でも大丈夫。いいところあるから」


 カナは優しくそう言うと、路地の細道をどんどん進んでいった。



「ここよ!」


 カナについていった先では、修道士風の男女が数名で、無料のパンを配っていた。


「ああ、カナフさんお久しぶりです。最近は礼拝にこられませんね」


「ごめんなさい。色々忙しくて。でも、神さまに謝らなきゃいけないことができたらすぐ行くつもりよ」


「カナフさんは自然体が一番です。いつでもお待ちしてます。神の御恵みを」


 修道士風の男子はそう言ってカナに(昨日食った味気ない)パンを渡した。オレにも一応。


 それからオレたち二人は、青い幹の巨木がある池のほとりに腰を下ろし、カナが飲み物代わりに小ぶりなスイカのような果物のジュースを買ってきてくれた。二つに割った皮がそのままカップ代わりだ。


 ――女子におごられてしまった。悪い気はしない。というか、幸せな気分。怠惰な生活を送るうちに軟弱な性格になってしまっただろうか。今のオレの価値判断は地盤が緩みすぎて何が正解なのか分からない。成り行きに身も心も任せることにした――神秘的でこころ穏やかにさせるロケーション、傍には魅力的なカナ。まぁ、この無味乾燥な食べ物でさえも――


 …あれ?


 カナがその色白の手で割った味気ないパン(のはず)。


 しかし、その中には、おいしそうな具が入っていた。一方、オレのは確認するまでもない例のヤツのカッチカチになったやつ、、



 ――オイ、コラッ!修道士!お前、何の宗教だよ‼(←タダでもらっておきながら愚痴る小さい男)


「――(俗物め…)」


(↑ オマエもな。)




 カナはその様子をみて笑っていた。


 そして、自分のパンを半分わたしてくれた。オレもそれにつられ、フルパワーで二つに割った自分のパンをわたす。


「いらない」


「……(だろうね)」


「ハハ、ウソ。ありがとう」


 渡したパンを一口かじる。


「――美味しくない。ハハ」


 それでもカナは、自分のパンと交互にオレが渡したパンも全部食べた。

 


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