第8話 異世界の日常
やはり目覚めると家畜小屋だった――
異世界、2日目。
セラピムはいない。一人でやっていけということだろう。やたら喉が渇いていたが、蛇口からでた水はとても飲めそうになかった。オレは空になった革袋と昨日セラピムから受けとったカードを持って部屋を出た。お隣への挨拶は出会ったときにでも、また、、
朝の穏やかな日差しのなか、"知恵の実"をかじりながら我が家を見あげる。どうやら5階建てのようだ。普段なら、エレベーターなしの最上階でなくて良かった、とか思うところだが、そんな
同じような建物が道の両側にならんでいる。1階がお店になっているところもある。映像でみたヨーロッパの街並みを古くしたような感じだ。行きかう人も、みんな歳が若いことをのぞけば普通の世界と変わらない。オレは、近くにあった文房具店に入った。初めて通う学校で必要なものを自分でそろえる小学一年生のような気分だ。ノートとペンと一番安そうなカバンを持ってレジに行き、首からかけていたカードを渡す。
――残高がたりません。
「え!そんなにするの?」
いや、持ち金が少ないだけか…
ペンをあきらめ、鉛筆にして店をでた。バイトでも探そうか、いや違う(こっちで生活安定させてどうする!)。オレは、帰り道で迷わないように、家からの地図を書きながら学校へと向かった。
教室に到着すると授業はすでに始まっていたが、とくに何か言われるわけでもなく、オレは昨日と同じ席に座った。リナはいない。隣は空席だった。昨日の様子だとすぐに新しい恋をみつけてひとつ上のクラスにあがったのかも知れない。
――オレはまったくのゼロ。
教室内を見わたす――男女それぞれ10数名ずつ。女子はほとんどが乃木坂のだれか、もしくは韓国中国のキレイ系の女優のようだった。こっちの世界にきたとき理想の外見にしてもらったのかも知れない。ただ何とも思えない、、薄い布切れ一枚の服、なかには下着もつけてない子もいたが、エロい想像すら浮かばない。永遠の命のせいか?子孫を残すという本能がかなり薄れているのか。神との(むりやりの)誓約を、寿命が減っていくほうにすべきだったのか、、
ヒマすぎて、ひとまず黒板の文字をノートに写してみる。言葉は分かるが読み書きができないので見たことのない文字をそのまま書き写す。勉強というよりデッサンだ。無意識に、男性教師までノートに書いていた。
――休憩時間、さっそく早退しようかと悩んでいると、一人のショートカットの女子がやってきた。
「まじめに勉強してるんだね」
活発そうなその子が気さくに話しかけてきた。
「いや、そんなんじゃないよ」
ノートをのぞき込むその子の衿元から小ぶりな胸が見えた。オレは一応、目線をそらしたが、その活発女子は気にする気配はなかった。
――やっぱり逆にしておくんだった、、(←誓約本来の意味を忘れている)。
「なにこれ田中先生⁉そっくり!」
(――あの教師、田中っていうんだ…。異世界なのに普通。)
「絵上手なんだ」
「いや、まあ、、ヒマだったんで」
「真面目に勉強してるのかとおもった」
「いや、勉強は苦手」
「ハハ。私も全然ダメ。一緒だね」
――大きい瞳に小さい鼻、薄い唇。明るい性格。いまのオレにも感じとれるどこかエロい雰囲気。"実世界"ではモロ好みのタイプ、だった、――きっと。
まぁ、"実世界"で出会ったとしても、"別世界の人"なので、どちらにしても地味なオレが接点を持つことは皆無だろうが、、
「わたしは、カナフ。みんなはカナって呼んでるの。あなたもそう呼んで」
「カナ。――よろしく」
「あなたの名前は?」
「えっと、(たしか――)ジェソク」
「ハハ、えっとぉぉ、って、自分の名前でしょ。ジェソクってちょっと変わってるね。わたし変わってる人すきよ。今日、放課後予定ある?なかったら一緒に帰ろっ」
「ああ。もちろん」
当たり前のように返答してしまったが、身の程をわきまえた距離を保つべきだったのか。恋愛以前に好印象な人間関係の始めかたを全く考えずに生きてきたことを、今になって思い出した。
そのあとカナは、授業中、ときどきオレの方をふり返って笑顔をみせた。
――ここから見る景色は、はじめてだった。
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