第2話 神との誓約
オレは性家電の電源を切り、一応、下半身を毛布で隠した。
「僕の名はセラピム マコト」
「あ、はい。どうも、、」急に部屋の中でパタパタ浮遊している堕天使に話しかけられても返事に困る。「日本、、人?」二酸化炭素の発車ベルでしかないような意味のない返答をする。
「日本に遣わされた天使」
「そう、、」人は、自分の視野でしか物を見ることができない。オレの日常は、もう堕天使をも飲み込み、これを同化する。「――で(ご用件は)?」いつもの癖。相手に不快感を与えずに早く会話を終わらせる会話、の自分の部屋バージョン。
「絵を書くのか?」堕天使らしきその物体は机のうえのスケッチブックを見て言った。
オレの目にはコンビニ弁当の空容器と同じぐらいにしか映ってなかったので、堕天使に言われるまで気にしていなかったが、壁にも油絵が無造作に立てかけてある。書いた翌日には、破ってすててしまいたいと思った作品。なぜ捨ててしまわないかというと、正解が見えていないから、捨てるならすべて捨てるしかない。
以前はバイト代をため、小さな画廊で個展をやったりしたが、今では趣味以下だ。
「まぁ、たまに」
――早く帰ってくれないかな、、閉じた動画はもう少しでいいシーンになりそうだったのに…。
「で、要件だが」
「はぁ、」
「今から転生して恋をしてもらう」
「?」
「週6だ」
「バイト?」
「違う」
「はぁ、、」
「オマエの理解は関係ない。これは神からの命令。辞退はできない」
「神がオレに、、暇なの?」
「罰当たりな!」
ゆるキャラ堕天使は可愛く怒った。
電流ビリビリとかあるわけではない。
「命令だ」
「はぁ」
「さもなければ、オマエの命をもらう」
「はぁ」
日常になった客体は、主体となり、自分の頭のなかで自分と会話している感覚になっていく。半径1.5メートルのダラダラとしたファンタジー。部屋のなかにいるときの、ボーッと物思いにふけるいつもの日常と変わらない。
「――と言っても殺す訳ではない。寿命を一気に縮めるのだ」
「どうぞ」
「え?」
「どうぞ」
「あ、いや、、命が惜しくないのか?」
「長生きして特に何かあるわけでもないだろうし。転生とかして痛い目にあうよりは」
「痛くはない。恋をするだけだ」
「辞退で」
「だから!神の指示は絶対だ!」
――神か。何か小さな
セラピム マコトと名乗る天使は、オレの無反応に怒ってイラついているようだ。
「ならばもうひとつの選択肢だ」
「選択肢もなにも、、」
「なにっ!」
「――(やはりメンドくさい)」
「ならば…」
セラピムは、仕切りなおして言った。
「寿命をのばす。異世界で本当の恋をみつけなければ、オマエは永遠に死なない」
「……」
永遠の老後のことなどは考えていない。身内に世話になったまま身体だけ生き続けるのは今のオレの年齢から想像しても、最悪の状態だ。
「困るだろ?」
セラピムは満足げにオレを見ると、再び、仕切り直して言った。
「寿命をのばす!異世界で本当の恋をみつけなければ、オマエは永遠に死なない!」
……あとで、誰かに伝記にしてもらうつもりなのか?
「さて、異世界へいこうか」
セラピムの小さく見えた翼が部屋いっぱいに広がり、オレは闇に包まれた。
そして、突然の交通事故にあったわけでもないのに異世界へと連れ去られることになったのだった。
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