第8話 勇者は部活動を悩んでる。③

     3


「それにしても、えらいぎょうさんで来たんやねぇ……」


 藍那先輩は相も変わらずブレザーを妖艶な着崩し方で着ている。

 いや、胸なんかすでに谷間の部分が見えていることから言うと、あれは着崩しのレベルで考えて良いものだろうか……とすら思えてくる。

 前かがみで、俺を覗き込もうとすると、思いっきり胸の谷間に目が行ってしまう。


「んんっ!!」


 思いっきりワザと咳ばらいをして、俺を睨みつけてくるのは摩耶だったりするのだが、どうしてコイツはいつもこう俺に対しては厳しいのだろうか。

 そもそも摩耶は俺に対して行為を抱いているようには見えないのだが……。


「どうないしたん、神楽? ウチの胸の谷間が気になるん? ええよ。前世でもしてたように、鷲掴みにして、アンタの舌でしてくれてええんやで」

「ちょ、ちょっと!? 藍那先輩!? それはいくらなんでもやりすぎでしょ!? 私たちはまだ高校生という立場なんですから!」

「んふふ。せやね。でも、ええのん? ウチ、この部室で神楽の初めてはもろたんやけど……」

「あ、あんまり酷いことしたら、父に言いつけて、学園から追放してもらいましょうか?」

「んふふ。先輩に対してもなかなか言うてくれるんやね」

「ええ、これ以上、藍那先輩に暴走されたら、神楽も可哀想なので」


 可哀想って何だよ。俺にとっては、こんなエロいシチュエーションで谷間を拝めるなんて、眼福に等しいんだけれど。

 ところで、何で俺は記憶にないのだが、どうやらここまで言われたら、俺の童貞は藍那先輩によって奪われたらしい。

 どうして俺は記憶がなかったんだ!

 こんなエッチなシチュエーション、絶対に脳裏に焼きつかせたいのにもかかわらず、どうしてか、それが実現しなかった。

 ああ、勿体ない!!!


「でも、摩耶~、大丈夫やったん?」

「何がよ?」


 藍那先輩が囁くように(でも、みんなに聞こえてますけどね……)摩耶の耳元で話しかけると、それに対して鬱陶しそうに摩耶は返答をする。


「ウチと神楽のセックスを見て、濡れとったんやろ? 見えとったで……。股下押さえとるのが」

「――――――!?」

「「「―――――――!!!」」」


 一瞬で顔を真っ赤にして目が泳ぎ始める摩耶。

 に対して、ニヤニヤとする藍那先輩。

 そして、周囲のギャラリーと化していた、俺、江奈、久遠寺さんの三人は衝撃を受ける。


「ま、摩耶ちゃん……」

「そんな心配そうな声出さないで! そして、可哀想な瞳で見つめないで!」

「あらあら……」

「ちょ、ちょっと!? コメントできないわ……みたいな返しは止めてよね!」

「エッチだな」

「直球すぎるわよ!」


 俺ら3人から浴びたコメントにツッコミを入れてはいるものの、その頃には、摩耶の耳はすでに真っ赤になっている始末である。


「べ、別にそういう呪いをみんな受けてるでしょ?」

「呪い?」


 俺が訊くと、摩耶は腕組みをして、俺を睨みつけながら、


「私たち『近しい存在』は神楽、アンタと唇を交わした瞬間に黒之魔女フィアの呪いが発動するようにされているのよ」

「それはどんな呪いなんだ?」


 俺が江奈に訊くと、


「え!? あたしに訊いちゃう!? あのね、キスをしちゃった以降は神楽のことを考えると身体が熱くなって火照りだしちゃうの。もちろん、そ、その……自慰オナニーをすれば、止まるんだけどね……」


 な、何だと!?

 じゃあ、ここにいる藍那先輩、摩耶、江奈、久遠寺さんの4人は俺のことを考えると、エッチな気分になってしまうというのか!?


「まあ、私はそんなに激しくは来ないかな……。たまに江奈ちゃんが布団の中で激しく悶絶してるけど……」


 さらりと爆弾発言をする久遠寺さん。

 隣の江奈の顔は見る見るうちに真っ赤になってしまう。


「ど、どうして知ってたの!? 優紀ちゃん!?」

「どうしてって……だって、一緒の部屋にいてて、下着の減りが早いのはやっぱり気になるじゃない?」

「……ぐはぁ!?」


 江奈がショックのあまり倒れそうになる。

 そっか……コイツらは俺のことを考えるだけでそんなことが……。

 てことは――――、


「ま、摩耶もなのか!?」

「……うぇ!? そ、そんなわけないじゃない! 私はアンタのことなんてこれっぽっちも思ったりしないから健康体そのものよ!」


 摩耶は冷や汗をかきつつも、自身の真面まとも度合いを訴えてくる。

 が、次の瞬間、それはガラスのように音を立てて砕け散る。


「ウチ、知ってるで、摩耶は自慰行為オナニーしてるってことを」

「ちょ、ちょっと!? 私が毎日しているなんて証拠はあるの?」

「ウチが証拠なしで言うてると思うん?」

「ちょっと待って……。あるっていうの?」

「最近、摩耶の家の侍女をやってる方と仲良うなってな? 色々と教えてくれるねん。確か、23時から0時までは侍女は入室禁止にしてるんやろ?」

「な、何の話かしら?」

「まだ、シラ切るん? 使用済みのパンツを洗うん大変言うてたで? ちなみに、これはその一枚な」


 そう言うと、藍那先輩はスカートのポケットから、ジップロックで丁寧に封をされたレース付きの白いパンティーを取り出す。


「そ、それは、私のお気に入りの!?」

「あ、わざわざ自分で認めてくれたんや。ありがとうなぁ~」

「しまった……」


 思わず口を滑らした摩耶に対して、藍那先輩は攻勢をかける。


「キスの回数が多いからか分からないんだけど、夜の時間帯になると神楽のことを思っていなくても、フワフワとした気持ちになっちゃうの! そしたら、条件反射的にまた来ちゃった! と思ってその瞬間に神楽のことを少し考えちゃうから、止まらなくなっちゃうの……。これも呪いだわ!」


 摩耶は自分の正当性をアピールしているようだが。


「でも、最初は何もなくいきなり自慰行為をしたくなるんでしょ? それって絶対にエッチだよねぇ……」

「うん。さすがにあたしでも毎日はないもん」

「さっきも同じ話してたでしょ!? ちょっとは黙っていてよ!」

「「は~い」」


 摩耶の怒りに素直にうなずく二人。

 うん、この二人は策略的だな……。


「まあ、この際、私がエッチかどうかはさておき、今は、この呪いをどうにかしなくちゃいけないと思うの。だって、神楽には『死の宣刻』、そして私たちには『神楽のことを考えると性欲が強くなる』という二つの呪いがあるのよ。それに……」

「どないしたん?」

「たぶん、私にはさらにもう一つの呪いが掛けられた……」


 摩耶が落ち込むようにそう言う。


「私はこの間、私の胸に光の杭が刺されたの。痛みは感じなかったけど、そのあと、神楽と二人きりになると、私の気持ちには関係なく、突き放そうとしてしまう」

「何だそれ? めちゃくちゃツンデレだな……。て、摩耶にデレの要素があったっけ?」

「ひとりエッチしてんのがある意味、デレやと思うよ」


 藍那先輩の一言にすんなりと納得できてしまう自分が怖い。

 摩耶は何か言いたげだが、敢えてこの際放置しておこう。

 

「とはいえ、呪いばっかだな……俺たち」

「ホンマにそうやなぁ……。で、ウチのとこに来たんやね?」

「まあ、そういうわけです。だから、俺はここに入部しようと思います。俺もいつまでも『死の宣刻』のままでは嫌なんで」

「ええよ。ウチが手取り足取り色々と教えてあげるわなぁ……」


 そう言うと、藍那先輩はすでに着崩してはだけそうになっている胸の谷間に俺の腕を挟みこむ。

 あ、柔らかい……ふにゅんふにゅん♡

 と、まあ締まりのない表情になった瞬間に、


「むっ!?」


 意外な人物だった。

 開いた方の腕を奪い取ったのは、久遠寺さんだった。

 大人しそうな久遠寺さんが俺の腕を取り上げ、そのままIカップに挟み込んだのである。

 おおっ!? こっちはもっちゅもちゅ♡


「祐二!!」


 江奈が怒りの声を上げて、俺を頭をガシッと掴み、そのまま胸に抱きしめる。

 そこまでご立派な胸ではないが、優しい肌触りって―――、何でノーブラ!?


「あっあっ♡ 先が擦れて、変な気持ちになっちゃう♡」


 江奈までもがこんなに淫れるなんて!?


「ちょ、ちょっとアンタたち!? 何してるのよ!?」

「ちっぱいな摩耶ちゃんにはできないものね」


 やけに攻撃的な久遠寺さんが摩耶の壁の様な部分を嗤うように見下す。

 おっぱいマウントすげぇ……。


「許せない!」


 摩耶はそう叫ぶと、俺を後ろから抱きしめる。

 そして、触れてならない領域に手が触れてしまう。


「あ。」


 すぐに摩耶の体温が急激に上昇しているのが制服越しからでも伝わってくる。

 お願いだから、手を退けて欲しい。

 が、摩耶もスイッチもはいってしまったようだ。

 そのまま握ってしまったのだ。


「ぬおぅっ!?」

「………お、おっきぃ………」

「ま、摩耶っ!?」

「優しくしてあげるから……ね? いいでしょ?」

「ダメに決まってるだろうが!!! 俺は単に入部しに来たの!!」

「「「神楽(祐二)が入部するなら、私(あたし)も入部する!!!」」」


 俺の身体の自由を奪い取っている藍那先輩以外の三人は声高らかにそう宣言したのであった。

 お、お願いだから、みんな離してくれ~~~~~~~~~!!!!




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 作品をお読みいただきありがとうございます!

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