第8話 勇者は部活動を悩んでる。①
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「なあ、江奈……。どうやって部活って決めればいいの?」
「え゛……突然すぎるね、祐二」
気だるそうににサンドイッチをかじっていた江奈は怪訝な表情をこちらに投げかけてくる。
そういえば、江奈って………。
「江奈ってどこか部活に所属してたっけ?」
「うん。まだだよ。まあ、あたしの身体じゃあ、運動系は過度にしすぎると、病院送りにされちゃうからね。だから、今のところ文化系の部活動を探してるところって感じかな……」
「別に部活って入らなくてもいいんだっけ?」
「いや、まあ、いいけれど、入らなかったら祐二が言ってた『高校生活ラブコメ化計画』というものはどうするんだね?」
「ああ……。そうだよ。俺としたことが、何かをやり残していたと思ったら、それだよ!」「まあ、まだやり残したというほど通学してないけれどね」
「おい、そういうこと言うなって」
「だって、本当のことじゃん。まだ、5月だよ」
「ああ、そうだったな」
そうなのだ。
俺たちが入学してからまだ、今は5月ようやく2か月目に突入という状態だ。先週のゴールデンウィークと世の中が浮かれている間も、ここの学校はある。
よく教師から暴動が起こらないものだ。
と、いうよりも聖天坂学園という学校そのものが、カレンダーの暦を基本として運営されている関係で、ゴールデンウィークの5月3~5日の3日間は休みだったものの、それ以外は普通に学校は運営されていたのである。
もちろん、全寮制のこの学校で3日間の休みなどそれほど自由なことができるわけではない。ともなると、学校を使って自習をしたり、体育系の部活動の連中は、合宿のように学園を使っている感じだ。
ちなみに俺は4月から色々とゴタゴタに巻き込まれたこともあって、不十分であった復習をする時間に充てた。
もちろん、その横には江奈がいつも笑顔で課題を取り組んでいたのだが。
そんな時に、ふと久遠寺さんが言っていたことを思い出す。
「江奈も恋の好敵手である」ということを―――。
今まで中学時代にそんな感じで見たことのない江奈をいきなり意識するようになったのは、放課後に呼び出されて、彼女からの告白とキスをされたときだ。
あれ以来、俺の中では江奈は普通の幼馴染ではなくなった。
明らかに江奈を異性としてみるようになってしまった。
江奈も少し行動に変化が出て来ていて、これまでは男勝りな感じで、俺の腕を引っ張ったりしていたのが、なくなった。
別にしてほしいという期待があるわけではないが、何だか江奈のいいところを失ったような気がして寂しくも感じる。
「ねえ、祐二? 何考えてるの?」
「……え? あ、ごめん……。ちょっとこの1か月を振り返ってた」
「まあ、色々あったもんね……」
「ああ、お前の告白から始まったな……色々と」
「ぶふぅっ!? 祐二!? こういう大衆の面前でそれを言うのはデリカシーがないよ! もう少し考えて!」
「いや、でもな……。あの時以来、お前のこと、幼馴染というだけの枠組みで見れなくなったっていうか……」
「……え……?」
俺は少し照れていたのかもしれない。
自然と江奈と視線が重ならないように逸らしてしまう。
江奈は食べかけのサンドイッチをお盆にポトリと落としてしまう。
「お、お前まで固まるなよ……。変な空気になるだろ?」
「いや、そんなこと言われたら変な空気になるに決まってるじゃん! てことは、あたしのことを異性として見てくれてるってこと?」
何かに期待するようなワクワクとした高揚感のある瞳で俺の方を見てくる。
うう……。何だか鬱陶しい。
が、ここで冷たくするのは可哀想だよな……。
「まあ、そういうことだよ……。それにあの時のキスで俺らの前世のことも思い出して来ただろ?」
「うん。そうなんだよね。でも、全部思い出せた感じじゃなくてさ……。たまに夢で再現される時があって、現実的にはおかしな世界なのに、なぜか、あれ以来納得できちゃってさ……。ねえ? もう一回キスしてみる? そうすればさらに思い出せるかも?」
「……ば、バカ! そんな簡単にキスが出来るわけないだろうがよ!」
「ええ……。何だか冷たいなぁ……。でも、他の女とはしたんでしょ?」
「……え!?」
俺の反応を見て、江奈は頬をプーッと膨らませてしまう。
「ズルいなぁ……。私とは一回だけなのに、摩耶さんや藍那先輩となら何度でもできちゃうんだぁ……」
あれ? 久遠寺のことは? もしかして、気づいていないのか?
俺はその違和感に対して、反応してしまう。
「な、なあ……。江奈と同じ部屋に委員長が入ってるんだよな?」
「うん。そうだよ」
「何か変わった様子ないか?」
「ええっ!? 変わった様子!? うーん。そうですねぇ……。最近お風呂上りに体重計に載って絶句してましたね」
あ、それ聞いたらダメなヤツ。絶対に本人が起こってくる奴じゃない?
そんなフラグを立たせたのは明らかに江奈だった。
「……ねえ、江奈? 私が何を見て絶句したって?」
「ひぃっ!? 優紀ちゃん!? どうしてそんな怖い顔して、立ってるの!?」
「何でもないわよ。単に私のプライバシーにかかわることをベラベラ喋る不届き者を成敗しようかと思ってね」
怒りが込み上げているのが分かるが、その震えで立派なお胸も震えてしまっては、恐怖よりも性欲の方が打ち勝ってしまいそうになる。
久遠寺はテーブルにお盆を置き、
「私もこれからお昼なの。委員長会議が入っちゃったから、落ち着いて食べられないの」
「いや、だから醤油ラーメンって、しかも大盛りじゃないか!?」
「何? 何か問題があるの?」
ドスの効いた声に俺は大人しくなってしまう。
久遠寺は美味しそうにスープをレンゲで飲み、そのまま麺を食らっていく。
「良い食いっぷりだな」
「まあね。時間の余裕はないんだからね」
「ま、喉詰まらせるんじゃねーぞ」
俺は憎まれ口を久遠寺に叩く。
その雰囲気を見ていた江奈が、
「ねえ、どうして祐二は優紀ちゃんと仲が良いの?」
「え? どうしてって……」
「だって、今まで接点なんかなかったよね。それなのに、仲良く話してるよね?」
「「――――――――」」
俺と久遠寺がお互い視線で訴え続ける。
お前が何とかしろ、と。
「あ、分かった! もしかして、祐二がおっぱい好きで、優紀ちゃんのストーカーまがいなことをしたとか?」
ぶふぅっ!?!?!?
さすがに吹き出すわ! 何てこというんじゃい!
「そんなわけないだろ!? どうして俺がそんな変態行為するんだよ!?」
「え……。でも、おっぱいは好きだよね?」
「……。嫌いではない」
「やっぱり、あたしのでは物足りないかなぁ……。摩耶ちゃんよりは十分にあると思うんだけどなぁ……」
「ちょ、ちょっと!? 誰が私よりも胸があるですって!?」
「「「あ……」」」
江奈の摩耶のちっぱいに対するディスりは残念ながら、本人の耳元に届いてしまう。
で、憤慨したのはいいが、どうして食堂という皆のいる場所でするのだ……。
これでは俺がすべて巻き込んでしまっているようにみえるではないか!?
コホンとひとつ咳ばらいをして、摩耶は俺の隣の席に着く。
何やら久遠寺の表情が険しくなるが、摩耶にとってはどこ吹く風といった感じだ。
あー、久遠寺にとっては摩耶は、泥棒猫にしか見えていないのか……。
「で? 誰の胸がちっさいって?」
「摩耶さんのお胸が私より小さいんです!」
「うぐっ!? 改めて言われると意外と刺さるわね……。効果抜群だわ!」
「お前はポ●モンかよ! て、そんなことはどうでもいいんだよ。とにかく、江奈、分かっておいて欲しいことが一つあって、摩耶とお前がどういう存在かは知ってるよな?」
「うん、異世界からの転生組なんでしょ? それは祐二にキスしたときに、記憶が復活したから大丈夫」
「いや、大丈夫じゃないんだよ。お前の記憶は断片的に欠けてるんだよ。久遠寺さんは俺らのパーティーの賢者だったユキ・サインツなんだよ」
「え!? そうなんだ!」
「ちっ、コイツが……」
「摩耶さん、普通に憎しみしか感じられないよ?」
「大丈夫よ。憎しみしか与えてないから」
「さすが、『
「ふんっ! 何とでも言いなさいよ。最後まで手をしっかり握っちゃって……。えっと、最後の言葉は何だったっけなぁ……。確か求愛してたわよね……、あの状況下でも。愛に飢えてたの?」
「う、うるさいわね! あなたにはどうでもいいことよ? あなただって、最後は泣いていたじゃない」
「ち、ちがう! あれはそういう涙じゃない!?」
「そういうってどういう? 何焦ってるの?」
「なんだ!? やるのか?」
「受けて立つわよ!」
俺は止めに入ろうとするが、その必要はなかったようだ。
久遠寺のIカップが弾み、結果として摩耶は板状の胸がそれを受け止めて、そのまま後ろに倒れたのであった。
うわ。絶対に可哀そうなヤツじゃん。
おっぱいでマウント取られた挙句、その
「あらあら~、摩耶さん、ごめんなさ~い!」
そういって久遠寺は摩耶を抱き起し、Iカップのお胸を枕の様にさせて、頭を撫でる。
うあ。それ、オーバーキルって奴ですよ……、委員長。
摩耶はというと、悲しさのあまり瞳から大粒の涙が溢れ出ているのであった。
て、あれ? 俺、何の話してたんだっけ……。
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