第7話 委員長は勇者を攻略する?③

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 私は普段からあまり使われていない倉庫代わりの教室に神楽くんを連れてくる。

 どうやら彼はすごくドキドキしているようだけれど、どうしてなのか私には分からない……。

 教室に入ると、窓からは放課後にも関わらず強い日差しがカーテンの隙間から差し込んできていた。

 椅子をササッと埃を払いのけると、彼に差し出す。


「あ、ありがとう」

「別に改まらなくていいのよ……。だって、私と神楽くんの仲なんだから」

「あのぉ……。ちょっと意味がまだよく分かっていないんですけれど……」

「もしかして、神楽くんって覚えてない人だったりする?」

「えっと、何のことでしょうか?」

「そっか……。じゃあ、共通点を教えてあげるね。江奈ちゃん、摩耶さん、そして藍那先輩―――」

「あ、すべて転生してきた人たち?」

「そう。正解!」

「……そう言われても、俺にはまだよくわかっていないんですよ……。どうして、こんなことに巻き込まれてしまっているのかということに……」


 不安そうな顔をする神楽くんに対して、私が出来ることと言えば、真実を話してあげるだけ。

 私が人間だからこそ。


「今から君のことを色々と話してあげるね」

「もとより、俺は一体何だったんですか?」

「そうね。まず、神楽くんは、異世界では特異稀なる能力を持つべき存在……、つまり勇者としてその生を受けたの。そして、僧侶のエナ・ハミルトン、つまり幼馴染の江奈、魔法使いのシャリーナ・オコン、つまり藍那先輩、そして、賢者のユキ・サインツ、つまり私たちと4人で、世界に存在する5つの魔王のうちのひとつ、『闇之魔王ダークネス』の討伐をサインツ諸国連合の王に依頼されたの」

「あれ? サインツ諸国連合で久遠寺さんの名前も……」

「そう。諸国連合を統括していたのは私のお父様よ。私は王の器としては不十分だったけれど、賢者としての権能は一目置かれる存在でね。賢者となって勇者の手助けをするというお告げをもらっていたの。だから、君と一緒に魔王を討伐することになったってわけ」

「そうだったんですか……」

「別に落ち込むことなんて何もないわ。そもそも冒険はとても楽しいものだったんだから! 色んな苦労することはあったけれど、江奈も藍那先輩もきっと記憶の中に残っているのは、楽しい思い出ばかりよ」

「そうだったんですか。それはよかっ―――――」

「ただ、私たちは魔王を倒したのと同時に、相打ちとなって魔王城で死んでしまった」

「え?――――」

「そりゃ、相手は魔王だもの。魔力は無限に使うことができるし、闇の属性と言えども、氷や炎も使ってこれる。いわば、チート能力を持ったような敵ですもの」

「それに勝てたんですか?」

「そう。買ったわ。あなたの最後の一振りでね。でもね、その直前にすでにエナは死んでいたし、最後の一振りをサポートしたシャリーナも死んでしまった。私は生きてはいるけれど、魔力も底を尽きて何もできない状態だった……」

「………………」

「そして、ついに君も最後の一振りのあと、膝から崩れ落ちて、死んでしまった。私は何とかあなたの近くに寄って、手を握りしめたわ。そのとき、魔王が朽ち果てていくなかで一人の少女に形態が変わったの……。私も見間違えたかと思ったわ! でも、どれだけよく見ても、それは少女だった……。つまり、『闇之魔王ダークネス』は少女が闇に取り込まれて生まれてしまった存在なのだと私は認識したの。その『闇之魔王ダークネス』こそが、ユリナール・アロンソ。つまり、摩耶さんなの……」

「じゃあ、摩耶は敵?」

「まあ、そうなんだけど、それは早計過ぎるかも。だって、朽ち果てていくときに現れた少女は泣いていたんですもの……」

「……泣いていた?」

「そう。何だか悲しそうな雰囲気立ったもの」

「そうなんですか……」

「だから、きっと摩耶さんにも何かあるんじゃないかしら……」

「でも、江奈も摩耶もそうだったんですが、その当時の記憶がなくて、俺とキスをすることで、思い出したって……」

「んふふ。そうなのよね。私はね、最後の祈りの時に神様にお願いしたから……」


 私は神楽くんの手をギュッと両手で握り、


「生まれ変わったときには、思い人と結婚させてほしいって―――」

「―――え!?」

「そうだよ。異世界では私は神楽くんのことが好きだったの。でも、賢者の身だったから、そういう関係はご法度だったの。でも、魔王を倒した後は別にいいかなって思っててね。あの戦いが終わった後は、あなたと結婚して幸せな家族計画を考えていたの」


 ああ! 私ってばなんて大胆なことを言ってしまっているのかしら!

 こんなの告白に近いわよね!

 でも、どうして、神楽くんってこんなに反応が薄いのかしら?


「でも、藍那先輩も俺と前世で肉体関係を持っていたって」

「ああ、シャリーナはドスケベだったもの……。それにあの子のレベルアップはアンタとのエッチによって経験値が爆上がりするとかいうチート技もあったし。あんなのズルいなぁ。エッチで気持ちよくさせてもらいながら、魔物と戦うよりも経験値稼ぎできるなんて!」

「委員長がエッチを連呼するのは、どうかと思うかも……」

「それに江奈もそう。僧侶だったから、清らかな乙女で居続けなければならなかったのは分かるけれど、あなたに対して恋焦がれていたのは事実ね。だから、転生してから幼馴染って立場で近づいていたわけだけど、まあ、あの子はそもそも転生前の記憶を失っていたから、敵じゃないかなぁ……て思ったら、普通に神楽くんに告白しちゃうんだもの。吃驚したよ。しかも、その時にキスまでしちゃうから、記憶まで取り戻しちゃった……。そこからは上手く立場を使ってるわよねぇ……。寮でも同じ部屋だから、逐一情報が入ってくるんだもの」

「じゃあ、転校生の摩耶は……」

「そう! あの子が一番厄介なの! どうして魔王まで参戦しちゃうのよ、って感じなのよね」

「参戦って……言われても」

「いいえ。これは女の戦いなの!」

「あ、そうなんですね……」

「ユリナールは、実は魔王の前の段階を私たちは知らないのよ……。だからこそ、どうしてこちらに一緒に転生できたのかすら分からない存在なの……。だからこそ、摩耶さん自身にも色々と訊いてみないと分からないんだけど、でも、そんな簡単に話をすることもできないのよね……。ホラ、今、私たちって恋の好敵手だし」

「言ってて恥ずかしくないんですか?」

「ん? ないわよ。だって、誰かが神楽くんの心を掴んだものが私たちにとっては勝者なんだからね」

「俺の人権はないんですか?」


 ムスッとした表情で、訴えてくる神楽くん。

 私はニコリと微笑んで、


「あら? こんな美少女たちのみんながあなたのことを好きで好きでたまらなくて、それでいて、誰もが結婚したいとさえ考えているのよ。だから、これは私たちの戦いなの」

「でも、俺には呪いが……」

「ああ、『死の宣刻』って奴よね? あれはちょっと厄介かも。そもそも、私がいる前でしか作動しないなんていうのも変わっているし、解除方法がエロいキスとか。みんなしたいに決まってるし。しかも、それがよりにもよって、摩耶さんが最初にしちゃうってのは私たちからしたら、到底納得できることではなかったわね……」

「いや、納得とかそうじゃなくって……」


 神楽くんの抗議なんて無視!


「ま、とにかく、あれは黒之魔女フィアが仕掛けたものなんでしょ? それならば、私たち『近しい存在』に相談をすればいいと思うの。そもそも君だけでは解決できない問題なんだからね」

「はい……。まあ、キスをするというのがちょっと抵抗がありますけれど……」

「んふふ。分かってないなぁ。江奈ちゃんも摩耶さんも藍那先輩もみんなキスをしたんでしょ? じゃあ、どうなるか知らないの?」

「え?」


 ドクドクドクンッ!!!

 神楽くんの胸の鼓動がいびつなほど大きな音となる。

 あ、これは――――。


「『死の宣刻』ね……」

「―――――――!?!?!?」


 私は落ち着いて、彼に身を寄せ、そしてそのまま唇を重ねる。

 んちゅ……。

 そして、そこから唇を舌でかき分けるように入り込む。

 んちゅねちゅ………。

 口内をかき回すように私は舌を出し入れする。

 れろぬちゃくちゃ…………。

 鼓動が正常になるまでほんの数秒。

 私にとって、神楽くんとの初めての濃厚なキスは、心を鷲掴みにするには十分な時間であった。


「ねえ、知ってる? 君と私たちがキスをすると、身体に変化が出るってこと?」

「………………!?」


 神楽くんは首を横に激しく振る。

 すでに私の恍惚とした表情に驚いているのだろう。

 私はスカートをそっとたくしあげる。

 すると、下着の端からツゥーッと液体が滴り落ちている。


「エッチな気分になっちゃうの♡」

「な、何ですか!? それ!?」

「それは私でも分からないの……。きっと黒之魔女フィアが仕掛けてきたものなんでしょうけど……。これが起っちゃうと、一度気持ちよくならないと、元に戻らないの……」

「いや、でも、どうしろと?」

「ねえ、神楽くん?」

「は、はい!?」

「そんなに緊張しなくていいんだよ……。ちょっと私のあそこを指先で刺激して欲しいの……」


 そういって、私は握っていた神楽くんの手を股下に誘引する。

 ぬちゅ………

 神楽くんの指で卑猥な音が出てしまう。


「優しくしてね♡」


 神楽くんは本当に優しいな……。

 彼の私より一回りも大きい指は、私を心の底から満たしてくれた。

 これで私も彼のことを考えたら、江奈ちゃんみたいにシないといけないんだ……。

 何だか、エッチな大人の階段を一段上がったような気がしちゃうな……。


 ―――大好きだよ、神楽くん。




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作品をお読みいただきありがとうございます!

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