第7話 委員長は勇者を攻略する?①

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 最期の一撃――――。

 私の目の前では、勇者・カグラが魔王に光の剣を胸に貫いていた。

 魔王城には断末魔が響き渡り、その声が振動となって魔王城を激しく揺らす。

 辛うじて立っていた私もバランスを崩してしまい、そのまま倒れ込んでしまう。


「きゃっ!?」


 疲労感と虚無感で何かをしようという気にすらならない。

 もう、立ち上がることすらできない。


「そう……。これが死ぬってことなのね……」


 いつの日か、私は師である今亡き大賢者様に教わったことがある。


 ――――死は終わりであると同時に始まりである、と。


 だんだんと意識が朦朧としてくる。

 そんな中で、視界に飛び込んできたのは、カグラが地面に伏したことだった。


「カグラ……。ダメです……。あなたは生きて……」


 私はそう呟きながら最後の力を振り絞って、彼のもとに這いずって近づく。

 彼を仰向けにすると、息も絶え絶えといった様子で、時折口から吐血している。

 戦いの中で内臓を痛めつけたのであろう。

 だが、僧侶はすでに死んでしまった。賢者である私もすでにMP《マジックポイント》は、底を尽きた。傷を治すことは最早難しい。

 万事休す―――。

 そう思ったとき、倒れていた魔王の身体に異変が起こり始める。

 ボロボロと崩れ落ち、朽ち果てようとしている。

 これで世界は安寧の時が再び訪れる―――。

 そして、私は見てしまう。

 崩れ朽ち果てる魔王の身体が一人の少女となって、行くことを………。


「……な、何なの!? あれは……」


 確かに少女だ。

 長い黒髪にふっくらとした双丘がそのシルエットからも分かる。

 だが、その少女は力なく、そのまま倒れ伏してしまう。


「……何だったの……あれ……」


 私は力なくそう呟くと、徐々に視界が狭まってくることに気づいた。

 ああ、遂に人生が終わるのか………。

 きちんとこの戦いを完全勝利で終えていたら、私は…………。

 そっと私はカグラの手を握る。


「……私はあなたと結ばれたかった………」


 潤んだ瞳の影響で、視界が朧げにしか見えなくなってしまう。

 ダメ……。こんなときにそんな希望に縋り付こうだなんて………。


「……私は賢者という身だったから……。職務を全うするまで耐え忍んできたというのに……」


 はらりと涙が頬を伝う。もう、涙を拭う力すら込み上げてこない。


「……神様……、もし、私の我が儘がひとつ……たったひとつ叶えていただけるなら、生まれ変わったときには、思い人のお嫁さんにさせてください……。本当に我が儘でごめんなさい………」


 私はそういうと、カグラの手をキュッと握った。

 カグラが握り返してくれたかどうかは分からない。

 私も皆を追うように心臓が止まってしまったから―――――。



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「委員長! このノート、返却しておいてくれー!」

「はーい!」


 数学の山田先生の声が教室に響く。私はそれに対して、にこりと微笑みながら、返事をする。

 私は次の教科の準備をすると、そそくさと教卓の所にクラスメイトのノートを取りに行く。

 順番もバラバラで配りにくいことこの上ないが、私は教室に良く通る声で、


「では、数学のノートを返却しますので、お名前を読んだら返事をしてくださいねぇ~」


 山田先生のような緊張感のある声ではなく、どちらかというと自分で言うのもあれだが、おっとりとした声だと思う。でも、私の声は教室によく通る声だったりする。

 名前をひとりひとり呼んで返却をしていくと、クラスメイト達はみんな素直に受け取りに来てくれる。


「委員長! ありがとう!」

「委員長! いつも大変だね!」

「委員長! 今度、ねぎらいたいから一緒にお茶でも行かない?」


 まあ、たまにナンパのようなものもされてしまいますけれど、そういうときは必ずと言っていいほど、


「はいはい! 優紀ちゃんが困ってるでしょ! 色魔どもは離れなさい!」


 江奈ちゃんがいつも私を守ってくれる。江奈ちゃんがシッシッ! と男子生徒を追い払ってくれる。


「ありがとう。江奈ちゃん」

「あはは! 何てことないよ! そもそも、ああいう邪まな考えしか持っていない変態どもはいつかキツイお灸を据えないといけないんだから!」

「まあまあ。そんなに厳しくしなくてもいいわよ。私と一緒に一緒になってもそんなに面白いことなんてないのにねぇ?」

「いや、優紀はもう少し自覚した方が良いよ。アンタに近づいてくるのは、そ、その豊満なお胸の所為もあるんだから!」

「ええっ!? この胸にそんな秘密が?」

「秘密なんかないわよ! そもそもそのIカップのお胸が男どもの性癖に突き刺さってるのよ」

「そっかぁ。みんな、おっぱい好きだもんねぇ~」

「ちょ、ちょっと!? アンタがいうと何だか語弊があるわ……」

「そうかしら……」

「ええ、とってもエッチに見えちゃう……」

「それこそ、言い方がエッチなんじゃないかしら……」

「うぬぬ……。私の所為にするの!?」

「まあ、そんなことはないけれど……。そうだ! 神楽ちゃんに訊いてみない?」

「いや、それはもっとダメでしょ! どう考えたって二次元のおっぱいばかり見てるから、それこそ優紀がいやらしい目で見られちゃうわよ!」

「そう? 別に私は神楽ちゃんだったら、私のおっぱいを好きにしてくれてもいいよ~」

「だから、語弊が……て、ええっ!? 好きにさせちゃっても良いの!?」


 江奈が私に突っかかってくる。

 と、同時にそれは江奈のおっぱいが私のおっぱいにぶつかり合うことを意味している。

 私と江奈は身長的にはそれほど差がない。

 単に前面のお胸のサイズが些かことなるくらいだ。

 むにゅむにゅむにゅにゅん―――!!!


「「「―――――――!?!?!?」」」


 突如、教室がざわついてしまう。

 あらあら……。まあ、江奈ちゃんもそこそこお胸はある方だから、私とぶつかり合えば、何が起こるかくらい想定済み。

 尻相撲ならぬおっぱい相撲、ということになる。


「ゆ、優紀ちゃん!? ちょ、ちょっと止めてよ!」

「うふふ~。どうしたの~? 私は突っかかってきた江奈ちゃんを抱きしめてあげただけだよ~」

「だ、だって、抱きしめながら、揺り動かすから……。服が擦れて……」

「折角、可愛らしさもある高校生になったのに、いまだにスポブラで誤魔化しているからいけないのよ。あんな防御力の低いブラにはこういう攻撃が効くわ~」

「ああっ♡ だ、ダメだよぅ♡」


 制服のカッターシャツがスポブラをこすり合わせて、江奈の敏感な先っぽを何度も攻め立てる。

 少しずつ江奈の幼い表情かおに赤みがさしてくる。

 周囲は女の子同士の「おっぱい相撲」に興味津々なものの、凝視すると変態扱いされそうなので、ジロジロ見ることはせずに、目線のやり場を困っている素振りをしながら、チラチラと様子を伺っているようだ。

 私の様なおっとりとした感じの女の子ではなく、幼いけど活発な江奈のほうがヨガっている表情はエッチに見えるものだ。


「……も、もうダメ……」


 江奈はハァハァと荒い息をしながら、顔を真っ赤に染め上げていた。

 恥ずかしさもあるだろうが、当然ながら、気持ち良さにだろう。


「うーん。そろそろいいかな」

「……ふぇぇぇ……♡」


 私は江奈をおっぱい相撲から解放してあげると、席に着かせてあげる。

 江奈は涙を少し浮かべながら、


「優紀!? アンタ、クラスメイトの前で何てことするのよ!? へ、変な声出ちゃってたじゃないの!?」

「そうねぇ……。利発な女の子が、あの悶えようはギャップがあっていいんじゃない?」

「いや、そういうのギャップ萌えとか言わないから! てか、私のキャラが崩れるでしょう!?」

「大丈夫だって。江奈が神楽ちゃんのことを好きなのは、クラスメイトならみんな知ってることだし」

「いや、何てことをサラッと言うんですか!?」

「でも、嫌いじゃないでしょ? 優しい勇者は好きなはずだよね?」

「――――――!?」


 私の意味深な言葉に、江奈は一瞬固まってしまう。

 この言葉の意味が分かっているということは、すでにそういうことか、と私は勝手に判断する。


「今日の放課後、少しだけ神楽ちゃんを借りてもいいかな?」

「いや、祐二は私の所有物ではないですから……。それに、今日は居残りで課題を済ませてから帰りたいって言ってたので、教室にいると思いますよ」

「そうなんだ。じゃあ、ちょっと彼とお話をしちゃえるわね」


 そう言う私に対して、彼女は冷たい視線を投げつけてくる。


「どうかした?」

「二人きりだからって、優紀のおっぱいで誘惑したらダメだからね……」

「そんなことするわけないじゃない。二人っきりで襲っちゃったりしたら、江奈が可哀想だもん」

「どうしてそこで私が出て来るのかは理解できませんが、分かりました……。絶対にエッチなことなしですからね!」

「もう! どうして信用してくれないの?」

「私にエッチなことした人がそれを言います?」

「うふふふ♡ そうね! 私ったらうっかりさんだったわ♡」


 私にとっては彼との距離はそれほど遠くはない。

 けれども、これから先のことを考えると一気に詰めておいても、そろそろ悪くないタイミング。

 だから、今度は私から仕掛けてみよう。

 別に裏切るつもりはないけれど、これはそれぞれの戦いなんだから仕方のないこと……。

 私はこれまでの私とは違うんだから―――――。




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 作品をお読みいただきありがとうございます!

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