第5話 勇者は先輩と淫れた関係になる③
3
「本っ当にどこに行っちゃったのかしら……アイツは……」
私・摩耶友理奈は焦っていた。
だって、今日は前の「死の宣刻」からちょうど一週間経過した日なのだから。
つまり、今日、「近しい存在」と一緒にいるときに、神楽の身体に「死の宣刻」が訪れることになる。
そうなると、「濃厚なエロいキス」というリセット作業を、誰かがしてあげなくてはならない。
しかし、このリセット方法を知っているのは、今のところ、神楽と私と神楽の幼馴染の江奈の3人だけ。
つまり、他の「近しい存在」の前で、もしも、「死の宣刻」が発動してしまったら、助けようがない。もちろん、24時間以内に私か江奈が見つければ、エロいキスをしてリセットすることは可能だが……。
スマートフォンを取り出して、LINEで江奈に神楽の所在を訊いてみる。
え? どうして、江奈のLINEアカウントを持っているのかって?
も、もちろん、恋に関してはお互いライバルだけど、それぞれお互いの情報を知ってはおきたいものじゃない?
と、まあ、様々な理由でLINEアカウントの交換をしたのだ。
江奈からは、『今日は部室棟の方に行ってると思う』と返信があった。
そんなわけで部室棟にやってきたのだが、一体どこを探せばいいものやら……。
全く以って縁のない部室棟にやってきた私はさらに困難を極める。
それは――――――、
「あ! 摩耶さんじゃない?」
「え!? 摩耶さんってあの摩耶さん!?」
「本当だ! 部活に入られるんですか?」
部室棟にいる子たちから矢継ぎ早に声を掛けられ、部活の勧誘を受ける。
これでは、神楽のところにたどり着くのは至難の業だわ……。
「いえ、今日は人探しで来たのよ」
「あ、そうなんですね! ちなみに誰をお探しですか?」
「えっとね、神楽くんなの」
笑顔でそういうと、周囲の空気が一気に固まったような気がした。
え? 私、何か誤ったこと言ったかしら?
「どうしてアイツなんですか?」
「あはは。ちょっと用事があってね」
「あんな学力だけのエロガキの相手なんかしてたら、摩耶さんもいつかきっとアイツの手に堕ちますよ」
ひぇぇぇぇぇぇぇっ!?
何か、すっごく神楽の評価悪いんだけれど!?
てか、すでに私も彼とキスもしているし、神楽のことを考えると身体が疼いて仕方ない。
これってもう手に堕ちてるのかなぁ……。いえ! きっと違うわ! だって、性行為まで至ってないの!
「あはははは……。私がそんな尻軽に見えるってこと?」
私はムッとして、腕組みをしながら相手に圧を掛けていく。
「あ、いえ、そういうわけではないんですよ……。ただ、摩耶さんのことが心配で……」
「ご心配ありがとうございます。でも、私は私の心も身体も自分自身で守れますから」
私は彼らの前で凛とした態度でそう言い切る。
が、内心はひやひやしていたのが事実である。
そりゃそうだろう。私はさっきから言っている通り、神楽のことを考えるだけで、濡れ濡れになっちゃう女の子なんだから……。
「そういえば、アイツ、5階に行こうとしてたな……」
「え、でも、5階ってほとんど廃部状態になった同好会だらけじゃない?」
「そうだよな。何だか、薄気味悪いからあんまり5階まで登らないから……」
「……そうなんだ。てか、それって学校の怪談とかじゃないよね?」
「あ、摩耶さんも実はちょっと怖がってたりします? 大丈夫ですよ。そういうのじゃないですから。ただ、周りがほとんど閉店している商店街のような感じです」
いや、普通にそれはそれで怖いでしょうが……。
「でも、そこに行ったのよね?」
「5階って言ったら、あのオカルト先輩の場所だよね?」
「ああ、あれはちょっと変わってる人だからなぁ……。喰われてなきゃいいけど」
「喰われる!?」
「あ、摩耶さんは知らないんですよね。『呪術・法術研究会』ってのが5階にあってね、そこのリーダーが藍那紗里奈先輩なんだよね。高2の中でも、成績優秀でさ、学年でもベスト5に入るような人なんだけど、性格にやや問題ありなんだよね。顔は美人だし、スタイルもいいんだけど、やっぱあの性格だとね……」
「……え? そんなにキツイの?」
「いや、違うんですよ……。摩耶さんの前で言うのは、あれなんですが、藍那先輩はエロいんです」
「――――――――!?」
「まあ、そういう反応になりますよね?」
さもありなんといった感じで私の反応に返答してくるバスケ部員。
いや、そうじゃなくて、私は名前を再び思い出した。
確か、ここにいるのは藍那紗里奈。
もしかしなくても、魔法使いだったシャリーナ・オイコンのことを指しているのよね。
あの女は
「……ちょ、ちょっと、私、行ってくるわ!」
私は他の部員たちに見送られつつ、階段を5階までダッシュで上がることとなった。
絶対にシャリーナが前世でカグラに何をしていたのかも、きちんと魔王直属の諜報部から聞いていた。
男から精というものを全て吸い尽くし、自身のレベルアップに役立てる秘法である「黒淫魔法」を完成させていた、と。
そんな彼女が現世に戻ってきて、普通の精神状態で神楽を見つめるはずがない。
間違いなく神楽を性行為の対象として見るに決まっている。
で、神楽はそれを拒否するかと言えば……。
「あのエロガキには絶対に無理じゃない!!」
5階まで上がると、廊下の奥の方から声が漏れている。
もう、嫌な予感しかしない。
「んくぅ♡」、「おほっ♡」、「お、奥ぅ……♡」とどれもが嫌らしい声でしかない。
私は思わず頭を抱えてしまう。
そっと「呪術・法術研究会」のドアを開くと、そこは学校の校舎内とは思えない淫れた空間であった。
しかも、タイミング悪く絶頂の瞬間だったようで、身体を仰け反らせながら、痙攣している姿を目にしてしまう。
そして、彼女は何度も神楽にキスをしていた。
心の中で何だか怒りのようなものが込み上げてくる。
私はドアを勢いよく開けていた。
藍那先輩は弾き飛ばされるように、神楽から離れ、服を着始める。
「きゃっ! アンタ誰や!?」
「私は摩耶友理奈よ。神楽を返して!」
「んふふ。まさか、ここで魔王が登場やとは思わんかったわ」
「―――――!? あなた、知ってるのね?」
「そうや。ウチは生まれたときから、前世の記憶を持っとってん」
「やっぱり、シャリーナ・オコンね!」
「名前を憶えてもろてるなんて嬉しいわぁ~。それに神楽を返してほしいなんておかしくない? もともとウチらのパーティーの一員やったはずや……。それを魔王に返すとか意味が分からへんわ」
「まあ、前世はそうだったかもしれないけれど、ここでは各々が神楽に好意を示していけばいいのよ」
「そうや。だから、ウチは神楽の初めてをもろてあげてん」
「で、でも、神楽は気を失っているから、気づいてないみたいよ」
「それが残念やわ。折角、ウチの中で果てたというのに……」
藍那先輩はにやりと意地悪く微笑み、
「こうやって、ね」
と、敢えて見せつけてくる。
「じゃあ、先生たちに藍那先輩が部室で淫らな行為をしていたということを訴えますね」
「そんな怖い目ぇして、そんなんしても無意味なんは、アンタもよう知ってるやろ?」
「何が言いたいの?」
「ウチらはみんなで神楽の横という椅子取りゲームをしとるんやで? アンタもそろそろ意識し始めてるんやろ? まあ、この子のこと、本当に救いたいっちゅうんやったら、また、ウチのところに相談においで」
そういうと、藍那先輩は身だしなみを整えて、部室から出ていった。
その場に残された私はどうしようもなく複雑な気持ちになってしまう。
「私は彼のことが好―――――」
私がそう言おうとした刹那。
「……痛っ!? ……」
胸元に白く眩い光に包まれた杭が胸に突き刺さる―――!
何、これ!? 燃えるように熱くて、それに痛いよ―――!
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