第4話 ラッキースケベで命が救われる勇者。①
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私、エナ・ハミルトンは僧侶として神のご加護を受けし身です。
と、言っても別に両親が僧侶だったとかそういうわけではありませんでした。
私は両親からある日突然、教会に預けられたまま、そこで第二の人生が始まったと言っても過言ではありません。
私が6歳の時に両親は蒸発し、それ以来、自身の父は教会兼修道院の神父様でした。
初めて使えた魔法は、治癒魔法でした。
修道院の図書館で寂しさを紛らわすために、たくさんの本に私は逃げ込んでいました。
そこには僧侶としての心得や魔法に関する書籍がたくさんありました。
私はいつかきっと両親が迎えに来てくれるものだと信じて、「必要とされる子」になろうと必死に書籍を読みました。
そして、10歳のとき、神父様による適性検査が行われました。
私は「僧侶」として光魔法の使い手とだけ神父様から言い渡されました。
その時の表情は何かを私を恐れているような感じを受けました。
光魔法は治癒だけでなく攻撃などもあります。アンデッド系を倒すのには浄化魔法など光魔法が打って付けだったわけです。
4年後、私は図書館にある光魔法のほとんどを習得していました。
鍛錬の結果、詠唱時間の短縮も可能となり、軍隊に付き添って、実戦演習も行いました。
そして、いよいよお迎えが来ました。
両親ではありませんでしたが、お相手の方はとても優しいカグラという名の男性の方で、私とともにある目標を成し遂げたいと願い出てきた。
私はそろそろ居心地の悪くなってきた修道院を抜ける良い機会だと考え、二つ返事でその願いを聞き入れて、修道院を後にした。
とはいえ、戦いが続くと、僧侶として身を清めるのも難しい。
私はカグラに申し出て、近くの泉を使って沐浴を行っていた。
その時だった、魔物からの襲撃を受けたのは―――。
ザザザザザッ!!!
と、草木な唸ると同時に、触手型モンスターがヌルヌルとくねらせて間合いを取ってくる。
私は咄嗟に近くに置いてあった魔法の杖を掴み取ると、
「風の刃!」
私の声に呼応するように、杖からはかまいたちのような風の刃が生み出され、触手型モンスターを切り裂いていく。
しかし、それで戦いが終わるわけがない。触手たちは再び生え変わり、今度は自分たちのターンだと言いたげに、私に向かってくる。
私は杖で払いのけながら応戦するが、両足と両腕に触手が絡みつく。
ヌルヌルとした粘液物質が肌に付着して気持ち悪い。
「きゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」
私は触手型モンスターに弄ばれる。
沐浴中ということもあり、装備品を全て外していたことで、防御力はほぼないに等しい。
触手が動くごとに粘液が身体に広がり、嫌悪感の身が高まっていく。
そして、ついに――――、
「ひぅんっ♡」
触手は私の敏感なところを攻め始める。
「あぁん♡ もうやめて! そこは……い、いやぁ………」
私は触手に弄ばれて終わってしまうと考えたその瞬間。
森から現れたのは、カグラだった。
「ぬあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
剣にはすでに魔法が掛けられた状態で、攻撃速度が倍以上に上がっていた。いわば、神速剣だ。さらに風魔法も
切り刻まれた触手はボロボロと黒い消し炭のように朽ち果てていった。
私が呆然とそれを見ていると、カグラは剣を収め、こちらに近づいてくる。
すると、彼が愛用している「風のマント」を私にかけてくれる。
「モンスターが出ることも想定していたつもりだったが、恐い思いをさせてすまなかった……。エナが無事で良かった」
「……あ、ありがとうございます」
私はそっと立ち上がると、彼が差し出した手を掴む。
私はそのままカグラに身を寄せる。
「怖かったです……。少しだけこうしていていいですか?」
「ああ、エナにこのような思いをさせてしまったのは、自分の不注意だ。だから、その償いとしてこのくらいは別に構わない」
私はそう言われて、カグラをギュッと抱きしめた。
私はきっと顔を真っ赤にしていたに違いない。カグラに目を合わせられない。
「……もう……。こんなことされちゃったら、本気で好きになっちゃうじゃない……」
私は誰にも聞こえぬような声で、そう呟いた。
私は人生で初めて、こんな感情になった。
そっか。これが人を好きになるってことなんだ――――。
1
あたしは今、一体、何を見せられてしまっているのでしょうか……。
図書室で勉強していたら、忘れ物をして教室に取りに戻ってきたのです。
すると、教室から物音がしたので、誰かいるのだろうかと、こっそりとドアを少しだけ開いて見たんです。
すると、そこには神楽と摩耶さんが話をしていたのです。
神楽とキスをすると呪いが発動して、神楽のことを考えると発情する?
一週間に一度訪れる『死の宣刻』?
魔女による呪い?
私自身に少し思い当たる節もありましたが、あまりにも情報量が多くて驚いていたのです。
ただ、分かるのは、摩耶さんもあたしと同じ異世界からの転生者ということ。
そして、私は驚きの言葉を彼女の口から聞いてしまった。
「私は魔王だったのよ……。アンタ達に倒されたね……」
俯きながら、悲しそうでそして悔しそうな表情をしながら、摩耶さんはそう言いました。
私たちが倒した魔王も転生していたの!? そして、それがよりによって摩耶さん!
そこであたしはふと気づきました。
そっか。だから、転校初日に摩耶さんはあたしに対して凄い嫌悪というか憎悪のこもった視線を向けて来たのか。
あれ? でも、何ででしょう?
彼女は別に勇者カグラに恋している関係ではなかったではありませんか……。
それなのにどうして彼女が今回の転生に関係しているのかしら?
魔王が勇者に恋をする?
それこそおかしな話だ。いや、そういうライトノベルがあっても別に問題ないとは思う。だけれど、摩耶さんが神楽を好きになる理由はいったいどこにあるのかしら……。
結局、あたしの中での結論には達しなかった。
そして、意識を再び二人に注意したときのことだった。
祐二が胸を掻き毟るように苦しみだした。
え!? 一体何が起こってるの?
摩耶さんが毒を盛ったの!?
にしては、彼女も焦っているじゃないの。
「うあぁぁぁぁぁぁ………」
「神楽!? この症状は、『死の宣刻』!? もう! フラグなんか立てるんじゃないわよ! 今、ここで見せてあげるわよ!」
「あがががががが………」
あたしは思わずドアを開けて、飛び込もうと思い、ドアに手を掛けたその時。
……んちゅ…ちゅぱちゅぱ……ちゅるちゅる……
普通のキスではなく、舌を絡めてくるようなキスを見せつけられた―――。
祐二の辛そうな表情が和らいでいき、落ち着いた呼吸を取り戻す。
摩耶は唇を離すと、顔を真っ赤にしながら、
「どう? 信じる?」
「……信じるしかねぇじゃんか……、こんなの」
あれが『死の宣刻』の症状とリセットする方法って言うの!?
あんなキス、祐二としたことなんかないのに……。
「分かっておきなさいよ。きっとあの子と一緒でも起きる可能性はあるのよ?」
「あの子って……江奈のことか!?」
え? あたし!?
あたしがどうして関係してくるの?
「そうよ……。あの子も『近しい存在』だもの……」
その表情を見て、何となく悟った。
きっと摩耶さんは祐二との関係を割かれたくないようだ、と。
あたしたちが彼女にとって邪魔な存在なんだ、と。
「と、とにかく、校内でいきなり倒れるのだけは止めてよね! こんなキス、周囲の人に見られたくないんだから!」
「あ……うん。努力できるなら努力する」
「そうね! ま、私と一緒の時だったら、私がキスで目覚めさせてあげるから! 他の女に奪われないように気を付けることね!」
そう言い切ると、摩耶さんは教室の前のドアから立ち去った。
入れ違いの様にあたしはドアをそっと開けて、教室に入る。
「あ? 江奈か? どうしたんだ?」
何もなかったような素振りをするんだ……祐二は……。
何だか頼られていないような気持ちになって少し傷ついちゃうかな……。
昔から、あたしが身体が弱かったから、そうだったんだけれど、今も相変わらずって感じだ。
「……え、あ、あの、今日はあまり乗り気じゃないから一緒に食堂でお茶してから帰ろうかなって思って、呼びに来たの」
「お、そうか。じゃあ、俺も用事が終わったから帰るよ」
そっか。用事はやっぱり摩耶さんとのことだったんだ。
あたしは無言でつまらなさそうな顔をしてしまった。
何だか、意地悪な女みたいだ。
「そうだ! 今週末に駅前の商業施設の方に買い物に行かないか? 江奈、この間、ソフトクリームの店を教えてくれたじゃないか! あれ、一緒に行こうぜ」
「え? それってデート?」
「……えっ!? うーん、まあ、そうだな。デートだな」
「分かった。あたし、凄く嬉しい。今週末ね! じゃあ、今週も一生懸命、勉強、頑張れそう!」
「そっか。じゃあ、約束な!」
祐二はいつでも私に優しい笑顔を振りまいてくれる。
あたしが心配することのないように。
あーあ、本当にあたしって祐二に頼りっぱなしだなぁ………。
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