第3話 ツンデレ転校生に付きまとわれる勇者。①
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薄汚れた石積みの建物。
建付けの悪い窓からは冷たい風が吹きすさんでいる。
周囲を見渡すと、そこには同い年位の子たちが、無理やり衣装を着せられ着飾らされている。専用のメイクをする人が順に、女の子たちの顔に化粧を施していく。
どれもこれもが若干厚化粧とも言える。きっとその方が世の男たちの性欲が高まるのだろう。そして、舞台に上がったときに弱い炎の照明でもはっきりと顔の特徴を見ることができるから、そうしているに違いない。
私たちは同じ運命にある。
そう。私たちは今日、売られていく。
ここは奴隷娼婦売買を行っている商館だ。
私の名前はユリナール・アロンソ。商人の一人娘として、両親の愛情を受け取りながら15歳まで育ててもらった。
そんなある日、私たち一家が馬車で次の目的地に移動中に盗賊集団に襲われ、抵抗した両親は暗殺された。私は荷台で荷物と共に震えあがっていたところ、盗賊集団に荷物と共に攫われて、目を覚ましたらここに来ていたのだ。
丸一日、日が経過したとあって、お腹も空いてしまい、抵抗する力も存在しない。
素直に売られていくしかない運命を憂いだ。
「あなたは怖くないの?」
「え?」
私がソファに腰を掛けていたところ、隣で化粧を終えた少女が私に声を掛けてきた。
そばかすが残るあどけない少女だった。
ああ、こんな大人しい子も性欲の餌として大人たちに売られていくのか……。そう思うと自身も売られていく
「もちろん、怖いわ……。でも、こうなることも運命なのだと考えれば、抗えないのかもしれないと自身の中では納得しているわ」
「お強いのね……」
そういうとその女の子は押し黙ってしまった。
強い?
違う。きっと私は弱い。両親が殺されたときに、荷物の隅で隠れて震えていた自分が強いだなんて思わない。
もっと力が欲しい。自分の考えを形にできるような、人の言いなりにならないような、何よりも誰にも屈しない力が欲しい!!
私は心の奥底からそう願った。
「次、11番!」
あ、私の番だ。
私はソファから立ち上がると、横で震えている女の子に、
「じゃあ、お別れね。さようなら」
とだけ言い残して、暗い廊下を歩きだした。
いくつかの角を曲がると、煙草と酒の臭いが充満している場所に行きつく。
ここが売買の場所か―――――。
「さあ、行け!」
「……………」
そういわれると、そのまま私は部隊の真ん中まで歩み出る。
舞台下を見下ろすと、そこには下品な笑みを浮かべる気持ち悪い顔をした豚野郎どもがふんぞり返っている。
「本日、1,2位を争う商品です。普通の少女のように見えますが、エルフの血が混ざっております。ハイブリッドの亜人です!」
ほう。知らなかった。
自身がエルフとのハイブリッドだなんて……。これで嘘でもついていたら、この奴隷商人が叩かれる格好の材料になるのだろうが、司会者は鑑定書まで取り出している始末なのだから、どうやら私はエルフとの混血だったのだろう。両親が亡くなった今、それを教えてくれるのが医学くらいしかない。
このハイブリッドというのもあってか、商品として私は高額で取引されることになった。金貨200枚というのだから、自分自身驚きだ。
「では、ここでご購入されたヨーゼフ様に味見をしていただきます!」
「――――――!?」
味見だと? それはどういう意味だ?
私が困惑している間に客席から、ヨーゼフと言われる男は、100kgは超えるであろう巨体を揺らしながら、私の前に歩みだしてくる。
口からは涎が垂れ流れ、股間はすでに興奮で
犯される――――!?
私は瞬時にそれを理解すると、逃げようとするが、近くにいたゴロツキに身体を押さえつけられる。
「嫌だ! 私はこんなところでこのような男から辱めなど遭いたくない!」
「うるせぇ! 黙っていい子にしてろ!」
「そうだ! これからがお楽しみなんだ! ヨーゼフさんのこれまで
「……ば、ばか! 何をするのよ!!」
お願いです! 神様でも、悪魔でも何でも構いません! 私はどうなっても構わないので、私を助けてください!
私は藁をもすがる思いで、天に祈る。
【……では、貴様の身体を我に授けるがよい……】
「え?」
いきなり頭の中で声がして、私の困惑はさらに深まる。
どういうこと? この声は一体—————!?
そう私が感じた瞬間に、スタンバイモードに入ったかのように、私の意識は半分ほど
何かが憑依した。自身の身体に別の何かが力を漲らせてくれる。
溢れんばかりの力……。これは魔力————!?
身体から暴風とも呼べる風が巻き起こり、自身の身体を捕まえていたゴロツキどもを吹き飛ばす。
そして、目の前にいた巨体・ヨーゼフには、右手を一閃した瞬間に、「ギャッ!」という悲鳴と共にグジュリという音を立てて、首から上が吹き飛んだ。
私(の身体)は『動く対象物』に対して、人差し指を向ける。と、次々と差されたものは、身体の内から爆発したように吹き飛び、悲鳴と共に死体となっていく。
舞台裏から武装した盗賊団がやってくるが、私は振り返ることもなく、左手を後ろに振り払うと、風の刃が飛び、盗賊団の身体が二つに裂けて、壁に叩きつけられる。
5分もかからぬうちに
振り向くとこの後、売られる予定だった女の子たちが私の方を見ている。
私は最高の笑顔で「助かったね」と言った……はずだった。
が、その子たちは――――、
「魔王だわ……。きっとみんな殺される!」
「お、お願い! 殺さないで!」
そういって、走り去った。
私は会場内の鏡に映る、返り血で真っ赤に染まった自身の顔、姿を見て、声にならない声を上げ、会場にいる息のある人々を全員死へと至らしめた。
今、ここに「
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私・摩耶友理奈が校内見学をしてから、早4日が経過した。
私の説得もあり、父からは聖天坂学園への入学が許可された。
書類などに関しては事前に教頭も動いていたこともあって、スムーズに手続きが済み、私は晴れて本日から転校することができるようになった。
いや、むしろ、どちらにも入学していないのだから、私からしてみれば、今日からが高校生の新生活が始まるというものだ。
私は校舎前から黒塗りのメルセデスベンツSクラスセダンから降りると、付き人兼運転手に「行ってきます」と一言笑顔で言うと、そのまま校門を通り過ぎる。
朝の清々しい風が私のロングストレートの黒髪を薙ぐ。
校門から校舎まで続くプロムナードを歩いていると、寮生活をしている生徒たちから珍しい者を見るような視線を受ける。
でも、これは有名税のようなもの。
この聖天坂学園に出資している摩耶家の令嬢だからこそ、このような視線を受けることに関して、そんなに気にもならない。
それよりも、だ。
私が一番気にしているのは、あの神楽とかいう男の所在だ。
あの男はよりにもよって私のファーストキスを奪い、さらに命を救うためと言えども、ディープキスまでさせられてしまったのだ。
まあ、神楽はどちらも記憶がなかったようだから、ノーカウントとしてもいいのだけれども、私はきちんと意識ある上でした。しかも、ディープキスに関しては、せざるを得ない状況となり、私自身からしてしまったのだ。
それに、そのときに私の中に入り込んできた「記憶」、そして神楽のことを考えると鼓動が早くなり、下腹部がキューンと疼くのが何なのか分からない。
とにかく、私は性に対して緩い
て、思ってたらまたキュンッ♡てしちゃってる!? 何でなの!?
表情を必死に隠しながら、校舎前までたどり着くと、そこには教頭自らがお出迎えに来てくれていたりする。
明日以降はぜひとも出迎えないでほしい。
私の高校生活にこのようおじさんは要らないのだ……。
「おはようございます。友理奈様」
「おはようございます。わざわざお出迎えご苦労様です。教頭先生、どうかなされたのですか?」
「いえいえ、教室へのご案内をしないといけませんので」
「それはありがとうございます。明日からは学友も作ってまいりたいので、お出迎えは結構ですよ」
「さ、左様でございますか!?」
えぇ? 何でそんな寂しそうな顔するの?
もしかして、教頭って学校で嫌われてるのかしら……。と、ちょっと不安になる。
「ええ、父からも教育というものを学ぶと同時に、多種多様な見識を身に付けるためにも、たくさんの学友との交流を持つように、と言われておりますので」
「それはそれは、さすがでございますな」
まあ、これは嘘なんだけどね。
そもそも父は下世話な男と交流を持つなんて、最初から嫌がっていた。だから、私を最初は女子校にブチこもうとしていたのだから。
それだけはさすがに嫌だった。
で、まあ、この聖天坂学園に入学を選んだわけだけど……。あの神楽って男が下世話な男じゃないことを祈るだけよね……。
「では、教室にご案内いたしますので。ささっ、どうぞ」
「ありがとうございます」
ここは令嬢スマイルで何とか乗り切るしかないか。
ま、明日からは普段通りの生活が始まるわけだし、今日は転校初日なんだから、きちんと挨拶しないとね。
ちらりと視線が合った人には笑顔で微笑みながら軽く会釈する。ご令嬢としてのいい感じの雰囲気を出しつつ、教室に案内してもらう。
「そうそう。友理奈様は1年1組に転入していただくことになりました。入学試験1位の神楽くんもいることですか――――」
「えっ!? 今、何ておっしゃいました!?」
「いえ、ですので、1年1組……」
「ではなくて、その後です!」
「入学試験1位の神楽くんと同じクラス、ということですか?」
「あ、あの……神楽って人は、私よりも成績を上位で入学された方なんですか?」
「ええ、神楽くんはとても良い生徒ですよ。仲良くしてあげてくださいね」
そ、そんなぁっ!?
まさか、私のファーストキスを奪い(本人談)、それだけでなく私から唾液を交えたキスまでさせたあの男が入学試験1位だったの!?
ぜ、絶対に負けたくない相手が出来ちゃったんだけど……。
私は教頭の話を話半分に聞き流しながら、募るイライラ感を抑えるのに必死であった。
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作品をお読みいただきありがとうございます!
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