第2話 爆乳の美女に唇を奪われる勇者③
4
「どうかしたの?」
黒崎先生が俺を抱き起すようにしながら、声を掛けてくれる。
が、俺は
どこかで会ったことがあるような気もするが、ただ、今それがどこだったかが思い出すことができない。
何とももどかしい気持ちでいっぱいになった。
「いきなりぶつかって、助けることなく立ち去るなんて失礼な子ね」
「……え、ええ、そうですね……」
俺はぶつけた後頭部を摩りながら、返事をした。
とはいえ、やはり意識は黒崎先生ではなく、先ほどの摩耶という女子生徒が気になった。
着ていた制服は明らかにウチのものではなかった。とはいえ、近隣の学校ののものでもないようだ。
俺がもう見えるはずないのに廊下の向こうを見つめていると、突如視界は褐色の肌で覆われる。
いや、というか、これはおっぱいだ。
その辺の男ならば、きっと抱き着いて、退学確定路線であっただろうが、俺にはここを踏み止まれる能力がある。
まあ、そんな能力そのものはないのだが、そこで抱き着いたら俺の高校ラブコメ計画が破綻してしまうという考えから、飛びつかない。
拝めばいいのである。南無南無~。(チーン)
「先生、俺の顔はもう少し下です。そんなに胸部を俺の目の前に出すのはやめてください」
「胸部だなんて……。おっぱい嫌いなの?」
「そういう問題ではありません! て、他の生徒がいる前で何て質問するんですか!? それでもあなた、教師ですか!?」
「まだ、見習いの卵みたいなものよ」
「実習なんだから、ひよこくらいにはなってるでしょうが……」
「あら、上手く言ってくれるのね。お礼にパフパフしてあげましょうか?」
「だから、人前で止めてください!」
「大丈夫よ。どうせ、誰も見てないから」
「え……?」
「さてと、じゃあ、次はどこに連れて行ってくれるのかしら?」
「いや、次が最終着点だと思いますよ。職員室ですから」
「あら、二人の楽しい小旅行もこれでお終いってことね? 寂しいわぁ~」
といって、黒崎先生は俺の左腕を抱きしめて、おっぱいに挟んでくる。
うあっ!? すっげー弾力!? てか、もう死ねるかも!?
おっぱい好きとしては最高のシチュエーション!? ああ、俺の人生、もう終わるわ……。
て、あれ? 何か、甘い香りが鼻孔をくすぐってくる……。
「んふふふ♡ ようやく、隙を見せてくれたわね。
何を言っているんだ?
黒崎先生は自身の力で立てなくなった俺を抱くように支える。
やっぱりおっぱいでかいね……、じゃなくて、俺はどうしてしまったんだ?
いや、何も考えられないぞ……。
あれ? 意識が落ち込んでいく………………。
5
私は校内見学を終え、職員室前で付き添ってくれた教頭先生にお礼をした。
今回の校内見学は、摩耶家が出資している聖天坂学園の運営状況の確認をするだけでなく、それともう一つの理由があった。
それが――――、
「わざわざお時間を割いていただいてありがとうございました」
「いえいえ、とんでもございません。摩耶さんがお越しいただけるのであれば、なお一層、学園教育を行っている教員たちにも力が入ることかと思います」
「そうですか……。それはとても嬉しいお言葉ですね。転入の件ですが、真面目なお話ですが、父にお願いしようと考えております」
「おお! では……」
「はい。ぜひともお世話理になりたいと考えております」
「そうですか!」
「まあ、もちろん、まずは父にその点でお許しを頂かないといけないのですが……」
「良いお返事を期待しております」
丁寧なお辞儀をする教頭に対して、私もそれに返辞として深々とお辞儀をする。
こういった場でも摩耶家の令嬢として立ち居振る舞いに関しては、色々と指導されてきた。
もちろん、お嬢様としての教育に関しては、小学生までに琴、華道に茶道、日本舞踊といった各種芸能だけではなく、勉学に関しても各種検定を中学卒業までに受験してきた。おかげで友人関係に関してはあまり良くはなかったかもしれない。程々の学内での友人というものはいたが、基本的に放課後は習い事のおかげで、基本的に自由というものはなかった。
でも、私にとってはそんな「自由」はいらなかった。
自己研鑽に繋がる様々な習い事は自身を磨くことに繋がったのだから。
まあ、それなりの自負というものもあるわけで。
「では、私は部活動などもう少し自由に見学してから、帰りますので、先生はお仕事の続きをされてください」
「え? あ、はい。かしこまりました。では、ここで失礼させていただきます」
そういうと教頭は職員室へと消えていった。
私は付き人にも先に車に戻っておくように伝えてあった。
少し一人になりたかった、と言えば嘘ではない。
もう少し気楽に校内見学をしたかった。
高校生活くらい、もう少し自由にさせてもらってもいいわよね。
そこでもう一つの候補だった女子校とこちらの学校のふたつを悩んでいたために入学時期が遅れてしまった。
別にどちらの学校の入学試験も問題なくクリアしていたようで、文句を言われることはなかったが、ただ、ひとつ不満だったのは、私はこちらの学校の入学試験でトップではなかったということ。
トップは5科で498点だったという。いや、普通に考えてもそんな点数取れるのは化け物だろう。
かくいう私は495点だったので、私もその化け物の類に分類されることになるのであろうが、それでも1位でなかったというのは腹立たしいものである。
そいつを見つけて追い抜かなくては、何とも私のプライドが許さない。
それも理由のひとつとなり、聖天坂学園高等学校への入学に決めた次第である。
私が部活動を見て回ろうと思い、振り返ると視界の端に怪しい影を捕らえる。
「て、あれはさっきの……」
そう。視界が捕らえたのは、先ほど、私とぶつかって破廉恥な行為をしてきた男であった。
「と、言っても、何だか、部屋に入らされている感が強いわね……」
私は気になり、その部屋の前に移動する。
放課後のそこそこいい時間ということもあって、職員室前を移動する生徒はほぼいない。
まるで人払いの魔法でもかけられているのかというくらい、人の気配を感じることもなかった。
私は灯りの漏れている部屋の前で立ち止まる。
そこは生徒指導室―――。
あの男子生徒が何かしでかしたというのだろうか。
男子生徒は生徒指導室の椅子に座らされると、その前に褐色の女が仁王立ちになっていた。
これから怒られる、もしくは説教が行われるのであろうか。
「本当に面倒を掛けさせちゃって……。大人しく私の術に堕ちていれば良かったのに……」
褐色の美女の言葉に明らかな違和感を覚える。
どうも説教っぽくない。
というか、「術に堕ちる
綺麗に装飾された爪の目立つか細い手が不規則な動きをする。すると、それが紫色の光を描いていく。
ええっ!? 何!? CG!? どうやってるのあれ!?
私は目の前で起こっていることが理解できなくて、一種のパニックになる。
そして、その動きが繰り返されるうちに、虚空にひとつの陣形のようにも見える文様が描かれる。
な、何なのよ、あれは!?
「さあ、じゃあ、神楽にもゲームを仕掛けてあげる」
そういうと、褐色の美女は、舌をべろりと出して、そのまま神楽の唇を舐めあげ、そのままキスをし始める。
……にゅちゅ…くちゅ……ぐちゅぱぁ………
淫靡な唾液の混ざるキスが目の前で続けられ、私は腰が抜けてしまいそうになる。
は、破廉恥すぎる!?
その行為は1分ほど続けられ、そして時間が経つと虚空の文様が消え、キスも終わった。
「んふふ……♡ これであなたの命もどこまで持つかしら?」
そういうと、男子生徒の身体がビクンッ! と痙攣して、椅子から転げ落ちる。
私は思わずいてもらってもいられなくなり、勢いよくドアを開ける。
「あんた! 何をしたの!?」
「あらぁ? いたの? いたならちゃんと声を掛けてよね。ユリナール・アロンソ……」
褐色の美女は私の方を振り向く。何とも妖艶な微笑みを浮かべたまま。
身体が一瞬にしてゾクッと寒気を感じる。
何これ!? 殺される!?
それにユリナール・アロンソって誰のこと!?
「あら、その顔だと、まだあなたは自分のことを分かってないのね。それは残念だわ! お昼のキスで目覚めたと思ったんだけど、やっぱりもっとエッチなキスをしないとダメみたいね。あの江奈って子みたいに……」
「え、エッチなキス!? あ、あんたが何を言ってるのか分かんないんだけど? まずは私の質問に答えなさいよ!」
「ええっと何だったっけ~?」
「しらばくれないでよ! この男に何をしたの?」
「んふふ♡ ちょっと呪いを掛けてあげたの」
「呪い?」
「そうよ。この子には別の呪いがすでにかかっているの。その術式にさらに上書きをしてあげたって感じかしらね」
「何それ? 本当に言ってることが分からないんだけど!?」
「私は優しい魔女だから、教えてあげるわ。この発作みたいな症状はね、『死の宣刻』という呪いなの。症状が出始めてから24時間以内にあることをしてあげないと神楽は死んでしまうのよ。それにこの症状は1週間に一度、この神楽に近しい人がいるところで起こるの。だから、近しい人がいるからすぐに助けることができるのよ」
「何それ? そんなの呪いでも何でもないじゃないの! 解除方法が分かっていれば、今すぐにでも助けてあげられるじゃない!」
「そうね。あなたも近しい人だから……」
「はぁ? 私はこんな男、知らないんだけれど?」
「まあ、こちらの世界ではね……。でも、以前は近しい存在だったのよ。とーってもね……」
意味深な含みを残して、んふふ♡といやらしく語ってくる。
うん。絶対にこの女は私の敵だと思う。
だ、だって……あんなにおっぱい大きいなんて絶対に許されないわ!
私だって絶賛成長中の女子高生なんだけれど、それでもあの反則的なサイズは絶対に許せない。
私は距離を取って睨みつけながら、話を続ける。
「あ、そう。で、どうやったら救われるってのよ! そのあることって何をしてあげればいいの?」
私が聞くと、さらにいやらしく微笑んだと思った瞬間、私の顔の横に彼女の顔があった。
――――え? 速過ぎない?
私は死んだと思った瞬間に、耳元でこっそりと教えるように彼女は呟いた。
「眠れる森の美女と一緒よ……。舌を絡めてキスをして、唾液を彼に注入してあげるのよ♡」
「―――――――!?」
私の身体はぞわっと身の毛が逆立った。
えっ!? 「眠れる森の美女」ってそんなエッチな作品だったっけ!?
いや、内容にも確かに彼女の正気度合いを疑ったが、それ以上に最後、私の耳に息を吹きかけて、ぺろりと舐めてきたのである。
「……あぁんっ♡」
「あら、お耳が弱いのね……。とっても可愛いわ、あなた♡ 昔と一緒ね」
「もう! 何のことか分からないって言ってるでしょ!」
私を勢いに任せて腕を振るう。
が、彼女には
「じゃあ、あとは任せるわね。私のキスじゃ、勇者様は目覚めないんだから。あと、私のことは『近しい存在』以外には他言無用よ」
そういうと、褐色の美女はニヤリと微笑んで、部屋を去った。
部屋はドアの締まる音と同時に、静寂に包まれた。
て、ちょっと待って!?
この状況で誰かに見つかったら、私がこの男子生徒を殺害したような状況じゃない!?
「も、もう! やるしかないじゃない!?」
私は神楽と呼ばれていた男子生徒の傍に駆け寄り、そっと私の膝に頭を載せる。
そして、私は一つ深呼吸をしたうえで―――、
「……んちゅ……ちゅぱちゅぱ……くちゅ……」
私、何してるのかしら……。
唾液を交えるように舌を絡めて、静寂に包まれていた部屋には私がキスをしている音だけがする。
きっと私が変な緊張感に包まれているからかもしれないけれど、その音が大きく感じる。
その時に、私の中に何かが流れ込んでくる……。
な、何この感覚は――――!?
私は慌てて唇を離す。30秒ほどのキスだったが、私にとってはもっと長くしていたような気持ちになった。
私は彼の心臓に耳を当て、鼓動が動いていることを確認して、慌てて生徒指導室を去った。
何なの!? あの頭の中に入ってきた「記憶」は―――――。
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