第2話 編集長命令
5階の会議室には、
部屋の電灯は
「白戸……なんだこのスタンプは」
ヽ(ΦωΦ)ノ<OKッ!!!!!!!
「
え……?
「これが……お礼……?」
「選ぶのに1時間迷ったそうです」
「……」
「……」
「宇宙人だな……」
「阿久津先生なので……」
「でも気に入った。俺も買っておこう」
関谷はスマホを操作して、「やかましい猫」のスタンプを購入した。
白戸よりも一回り以上の年上で、すでに
「
「まだかかります」
「どれぐらい?」
「今年は無理だと思います」
「そうか……」
関谷の顔が
毎年1冊でいいから、「阿久津 対 碇」の月を作りたい。文芸界の名物にしたい。その想いは関谷も白戸も同じものだ。二人はすごい物を書く。そして書かれたすごい物は、なんであろうと話題性を勝ち得て、多くの人の目に触れてほしい。すごい物をこっそりと出すのと、すごい物を大々的に発表するのでは、その結果部分である「評価」にまで大きなちがいが出る。極論、どんなにすごい物語も、まずは知られなければ興味を引かず、興味を引かなければ読まれない。
それぞれ衝撃的なデビューと異なる属性、充分な因縁を持つ「阿久津 対 碇」は、普段は小説を読まない人たちですら触れる話題性がある。それは、昨年11月の「『レッドゲームZERO』 対 『月と太陽の影』」で証明されていた。
「……ま、碇先生は拾いもんだ。俺たちが発掘したんでも育てたんでもねえ。いきなり、目の前に浮かび上がった
「わかってますよ。それに、僕と阿久津くんの力だけでもありません。彼をとりまく様々な人……特に、ある人物の圧倒的ファム力のおかげです」
「ファム力?」
「『
「お、おう……?」
「男子を戦場に送り込む、女子の視線が持つ力です。単位はシヅキかマイ」
「あ、うん……大丈夫か? 阿久津先生にやられてないか? その……脳とか」
「たぶん……最近は、中国地方に
「阿久津先生、よくあそこから持ち直したよな……」
「それも、ある人の圧倒的ファム力のおかげです」
「ファム力……」
そう、ファム力……
白戸、これからはファム力の時代か……?
ええ、おそらく……
そうか……
「とにかく、碇先生はこれからです。長い目で見れば、必要な時期だと判断します。そして、彼は
「わかった。担当のお前がそう言うなら、俺は口を出さん。実際、去年一昨年と、うちと文芸界を盛り上げてくれただけでも、感謝に
白戸は静かにうなずくと、ゆっくりと切り出した。
「それで、編集長。本題は?」
関谷はにやりと、口の端をつり上げる。
「わかってるだろ。この時期だからな」
そう言うと、関谷は机の上に置いてあった大きく膨らんだ茶封筒を、ずいと押し出した。
白戸はその茶封筒に手を伸ばさず、やや緊張した
やっぱりか……
「その中から5人、好きにツモれ。で、15作まで
「……
「もちろん。碇先生は2年連続でうちのトップセールスだ。担当であるお前にはおいしい思いをさせないと、周りに示しがつかん」
「……この仕事は……難しいですね」
「なんだ、お前らしくもない。大丈夫、お前はツいてる。そして運も実力の内だ」
「ツいてるのは、否定しませんが……」
ま、頑張れ。お前の晴れ舞台なんだからな。ファム力ファム力ぅ~
関谷は白戸の肩を力強く叩くと、ガッハッハと笑いながら会議室を後にした。
白戸は茶封筒の中から、A4サイズの紙の束を取り出す。
その一番上には、次のように書かれていた。
『××年度 星月社インターンシップ候補者リスト』
以下の者たちから5名を選び、
『第42回
一次選考委員とすること
失敗は許されない、選ぶ人を選ぶ仕事――
白戸は、大きく息を吐いた。
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