第21話

 季節が秋となると、空は厚い雲に覆われ、ほとんど日の差さない日々が続きました。その年は例年に比べて天候が悪く、作物がほとんど育ちませんでした。このままでは飢えてしまうと、村長たちは策を講じたようです。

 しばらくして、村長から呼び出しを受け、何人かの子供たちと一緒に集められました。そこで、久しぶりにタリアと顔を合わせました。タリアは、一見普通の奥さんふうで、髪もまとめていましたが、わたしのことは見ようともせず、不機嫌そうな顔で空気かなにかを見るだけでした。集められた中で、わたしとタリアが一番年上でした。

 村長は、わたしたちをあの小屋へ連れて行きました。最後に通ったのが大昔のような気がしました。村長は、荷物を運ぶのを手伝ってほしいだけだと強調し、あの人のことは口にしませんでした。やはり、あの人のことはタブー視されていたためでしょう。

 させられたことは、本当に荷物を運ぶだけでした。あの小屋の前に、袋が載ったいくつもの荷台があったのです。それらを村に運び、整理しました。

 小道の外からは大人たちが運びましたが、ほとんどが子供のメンバーで小道を出るまでは運ばなくてはいけなかったので、一日がかりの仕事でした。

 袋の中身は、芋や小麦などの作物がほとんどで、干し肉や干し魚、ナッツやドライフルーツも含まれていました。これだけあれば、なんとか冬を越せるだろうと、大人たちは胸をなでおろしていました。

 もちろん、わたしも食べ物がやって来たことは喜びましたが、忘れかけていたあの人のことを思い出して心がざわめきました。やはり、あの人はこの村の守護者なのかと。どうしてあの人はここまでしてくれるのかと。

 わたしは、食料の仕分けをしているタリアに近づき、「この食べ物はどこから来たんだろうね」と、さりげなさを装って尋ねると、彼女はそっけなく、「外からとってきたんでしょ」と言いました。彼女は、言いたいことは一方的にずけずけと言うくせに、一度心を閉ざしてしまうと、重い口をなかなか開きませんでした。

 もちろん、あの人が外から塩などを調達していることは知っていましたが、こんなに大量のものを一度に調達してきたことはなかったので、とうとうこの村にも危機が訪れたという気がしてしまいました。それはあの人のおかげで解決したと思われましたが、そうではありませんでした。

 それからしばらくして、再び村によそ者たちが訪れました。前回来た人たちとは、明らかに違う雰囲気をまとった男たちです。

 男たちは、わたしたちがほかの村から食料を盗んだと責め立てました。

 村長は広場で男たちに対応し、村人たちはそれを取り囲んでいました。

「盗んだという証拠はあるんですか?」

 落ち着き払った村長に、よそ者の一人は険しい顔で詰め寄ります。

「女が荷台を山の中に運び込んだのを見た者がたくさんいるんだ。山の中にあるのはこの村しかない。蔵を見せてもらおうか」

「蔵の中を見てどうするんですか。食べ物にほかの村の名前が書いてあるとでも?」

「ほかの村から消えた食料のリストはつくってある」

「食料の種類なんてたかが知れています。そんなリストと照らし合わせることには意味がありません」

「しらばっくれても、盗んだことはわかってるんだ」

「決めつけられても困ります。接収するというなら、こちらこそ、そちらを窃盗で訴えますよ」

 村長の毅然とした態度に、よそ者たちはたじろいだようですが、一人の男が声を上げました。

「俺は荷台を引く怪しい女を見てる。顔に刺青があったんだ。その女がこの村にいるかどうか、調べさせてもらうぞ」

 意外にも、村長はあっさりとうなずきました。

「気の済むまで探せばいいでしょう。ただ、村人に乱暴することは許しません。もしなにかあれば、こちらも制裁することにためらいはありませんよ」

「こっちを悪者みたいに言ってもらっては困る。被害者はこっちなんだ」

 よそ者たちは憤慨し、手分けして「刺青の女」を探すことにしたようです。

 わたしはあの人のことが心配になりましたが、村長は平然とした顔をしていました。あの人になにかあれば村全体がまずいことになるだろうということは、賢い村長にはわかっていたはずです。わたしは、村長に任せていれば大丈夫だ、自分なんかがあれこれ心配する必要はないのだ、と自分に言い聞かせました。

 しかし、とタリアのことを思い出しました。タリアにとっては、これは「あの人のことを外の人に調べてもらう」絶好の機会ではないかと。そして、村長はきっと、タリアがそんな考えを持っていることは知らなかったはずです。

 わたしは、タリアを目で探しましたが、見当たりませんでした。タリアの家に行くことも頭をよぎりましたが、タリアは結婚していて、気軽に会いに行くことはためらわれることを思い出しました。

 自分はなにを焦ったりがっかりしたりしているのだろう、もう関係ないじゃないか、あの人ともタリアとも。そう思うと、なぜか絶望感がこみ上げてきましたが、それもくだらないものとして切り捨てました。わたしには、嫌なものにはふたをする才能だけはあったようです。

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