第9話

 あの嫁さんのことが気になり、わたしは昼食の黒パンを一枚残しておいて、あの小屋へ行きました。指示がないのに行くのは初めてです。行ってもいいとは言われていませんが、行くなとも言われていないので、大丈夫かと思って。

 嫁さんは、小屋の横の雑草が生えた地面を錆びついた鍬で掘り起こしていました。

 声をかけると、彼女は、「あの人はいつの間にかどこへ行ってしまっていて、自分はなんとか畑をつくろうと地面を耕しているところ」と言いました。その日初めて、嫁さんの名前がアダレイだと知りました。

 わたしが差しだしたパンをアダレイはたちまち食べてしまいました。よっぽどお腹が空いていたんでしょう。わたしはかわいそうに思って、母に言ってもっと食べ物をもらってこようかと言いました。しかし彼女は首を振り、ここには小川があるし、木の根を掘れば食べられるものもあるからと言いました。

「できるだけ迷惑かけたくないから。あなたのお母さんって、うちの人の弟の奥さんでしょ? 知られたら面倒なことになるし。わたしはなんとかやるから。ありがとうね」

 そう言いながら、震える手で硬い地面になんとか引っかき傷をつけようとするみたいに頑張っていました。

 わたしは地面を耕すのを手伝いましたが、ここが畑になるのはいつになるのか、まるで見当がつきませんでした。

「本当にここにいて大丈夫? 村長さんの家に行ったほうがいいんじゃない?」

 わたしはそう提案したのですが、アダレイは首を横に振りました。

「実は、村に戻りたくないのはほかにも理由があるの」

 そう言って、周りには誰もいないのに声をひそめました。

「村の中で、怪物を見たの。人の形をしているけど、人じゃないものだよ」

 どういうこと?とわたしは尋ねましたが、アダレイはそれ以上のことは話してくれませんでした。わたしは、彼女は少し頭がおかしいのではないかと思いました。なおさらかわいそうなので、わたしはそれからも時々、アダレイのもとへ食べ物を届けることにしました。

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