夜空だけに咲く花──③

夏休みもなかばになった頃、いつも通りに家で絵を描いてると望月さんからメールが来た。

『 遊びに行かない? 』とかの誘いだろうか。そう思いながらスマホの画面を見る。そこには遊びの誘いでもなく、決して嬉しくない事が書いてあった。


『 ごめん。なんかしばらくの間入院することになったで、今度の夏祭り行けなくなっちゃった。』


次の日、僕は望月さんが入院している病院に来ていた。いわゆるお見舞いとか言うやつだ。まぁ、呼び出されたわけなんだけど。

望月さんは一人用の病室にいるらしい。扉を開けると望月さんはよくある病人服を着て腕から管をぶらさげて、窓に向かって変なダンスを踊っていた。後ろから声をかけると望月さんはビクッと跳ね上がって驚き、ギャーギャーと騒ぎながらベッドにもぐりこんでいった。ベッドの隣に置いてある椅子に座って騒ぎ終わるのを待っていると、望月さんは急に静かになって、何事もなかったみたいにベッドの上に座りなおした。


「急に来ないでよね、恥ずかしすぎて死んじゃうかと思ったよ。」

「呼んだのは望月さんでしょ。それにそんな死に方したら墓の前で笑ってあげるよ。はいこれ、お見舞い。」

「えーありがとう。あ、ぶどうだ!私好きなんだよねー。食べようよ。そこの棚にお皿とフォークが入ってるから取って。」


僕は望月さんに言われた通りに近くの棚からお皿とフォークを取りだして椅子に座りなおした。僕はぶどうを食べながら、望月さんに入院について訊いていた。


「全然大丈夫だよ。ちょっと環境が変わったからか疲れが溜まってるだけで、二週間くらいしたらまた遊べるよ。」

「その頃にはもう夏休みも終わって、学校が始まってるよ。」

「あ、そっか。」


僕は望月さんの腕から伸びる管の先を見た。キャスター付きの鉄の棒にぶら下げられた袋の中には、透明な液が入っている。僕は本当に望月さんは大丈夫なのかと少し不安になった。僕には望月さんが何か隠しているような気がした。


「これだと夏祭りも行けないなー。」

「また来年に行けばいいよ。」


望月さんはぶどうを食べながら、頬をむぅー、と膨らませていた。


「そろそろ課題を始めようか。」

「え〜、もうやるのー。まだやらなくて良くない?」

「僕は望月さんに頼まれて来てるんだよ。それにそう言う人は永遠にやらないんだよ。」


僕が今日病院に来たのは、望月さんのお見舞いの他に、望月さんの夏休みの課題を手伝うっていう理由があった。

望月さんが、まだ夏休みの課題が終わってないということで課題を手伝いに来るよう望月さんに頼まれたのだった。素直に承諾すると望月さんは驚いていた。まったく失礼な話だ。

望月さんに机の上に課題を出させ、ペンを持たせて、僕は課題を望月さんに出来る限り丁寧に教えた。休憩を挟みながら、二時間ほどで勉強会は終わった。


「終わったー。ありがとう。冬弥くん冬弥くん教えるの上手だから助かったよ。教師になりなよ。」

「そう言ってくれるなら将来の選択肢の一つに入れてみるよ。」


僕は午後から望月さんのおばあさんが来ると聞いていたから帰ることにした。

その日の夜、望月さんに花火だけでも見せられないか考えていると、ひとついい案を思いついた。

夏祭り当日。僕は望月さんに花火を見せるために病院に来ていた。病室の扉を開けると望月さんはベッドに座って日記のような物を書いていた。望月さんは僕に気がつくとその日記をあわてて隠していた。


「びっくりした、冬弥くんか。こんな夜にどうしたの?」

「望月さん、これから花火見に行くよ。」

「え、花火?でも私、病院から出られないよ。」

「大丈夫、ちゃんと病院の人に許可はとってあるから。ほら着いてきて。」


望月さんは不安な顔をしながらも僕の後ろに着いてきてくれた。


「着いたよ。」

「わぁ、屋上だ。星が綺麗ー。でもなんで屋上?」

「じつは病院の人に聞いたら屋上からだと綺麗な花火が見れるって教えてくれたんだ。あと少しで始まるから一緒に見ようよ。」


望月さんは嬉しそうにして僕の隣に来てにっこりと笑った。


「なになに〜、私のためにこんなことまでしてくれたの〜。」

「僕だって望月さんと一緒に花火を見たかったんだよ。ほら花火始まるよ。」


そんなことを言ってみると、望月さんは照れ隠しかのように目線を僕から花火に移していた。望月さんが目を輝かせて花火を見ている姿はとても絵になっていた。

30分ほどして花火は終わって、僕と望月さんは病室に戻ってきた。


「花火凄かったね。最後の方なんてドカーンってやばかった。ありがとうね、私のためにこんなことしてくれて。一緒に見れて良かった。」

「僕も一緒に見てれ良かったよ。来年こそ一緒にお祭り行こうよ。」

「うん、絶対一緒に行こう。約束ね。」

「うん、約束。」


そう言って僕は誰もいない夜の病室で望月さんと小指を結ばせた。

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