第7話 目立つ
璃々佳は今の状況を整理しようとした。
真尋はいったい何者か、彼女はどうして周りからこんなに注目されたか、そして自分は何かおかしいことをしたか、璃々佳はさっぱり分からなかった。
この町では、椎名家と真尋のことを知らない人はほとんどいなかった。しかし、たった一年半前にここへ引っ越してきた璃々佳は、その少数派の一人だった。引っ越しても、璃々佳は相変わらず隣町にある中学校に通い続けたため、地元にいた時間はかなり少なかった。彼女は大体自分の家にいるか、あるいは頼の家で遊ぶことが多かった、街中を歩き回ることがあっても、母親の店にある商店街へ行くぐらいだった。頼と高等部の話をしていた時だって、内容は入試や勉強関連のことばっかりだった。彼は同級生の話を滅多にしなかったので、普段一番多く言及したのはよく自分の家に遊びに来た遼だった。
みんなのアイドルみたいな椎名真尋が見知らぬ女の子と、仲良さそうに校内で歩き回ることがどれほどのビックニュースなのか、璃々佳はその重大さを全然知らなかった。
一方の真尋は、璃々佳の手を握ったまま、嬉しそうに彼女と一緒に始業式の会場であるホールへ向かった。
周りの人たちはこの光景を見ながら騒いでいたのを知っていても、真尋にとってそれはどうでもいいことだった。彼女はただ初対面の璃々佳を助けたいと思っただけで、周りの反応はさすがに大袈裟だなと思った。
ただ璃々佳は自分のことを知らないと気づいた瞬間、真尋はこう思った。
「この人なら、私のことをちゃんと見てくれるかもしれない。椎名家の真尋ではなく、椎名真尋という人間と真剣に向き合えるはず」
真尋は友達がいないわけじゃないけど、みんなは彼女という人を知る前に、彼女の家のことを先に知ってしまった。そういう先入観があったので、真尋はいつも周りに集まっていた友達を疑っていた。彼らは本気で自分という人間と友達になりたいではなく、椎名家の真尋と仲良くなりたいだけかも。
地元にいる限り、自分のことを知らない人と出会う可能性は限りなくゼロに近かった。だから、目の前にいる璃々佳はまれの存在だった。だとしたら、ありのままの自分と友達になれるじゃないか、真尋は密かに期待していた。
1年A組の列を見つけて、真尋は自分より背が少し高かった璃々佳の前に並んだ。そしたら、後ろから璃々佳の声が聞こえた。
「あのう、椎名さん…」
「はい?」
「私はどこか変ですか?」
「どうして?」
「さっき、掲示板からホールまで歩いて来た途中、たくさんの人が私たちの周りにうろついて、そして私たちのことをずっと見ていました。やっぱり、みんなは外部生を…」
「あれは恒松さんのせいじゃありませんので、心配しないでください」
「それどういうことですか?」
「よ!璃々佳ちゃん~」
真尋が答えようとする前に、遼の声が後ろから聞こえて来た。そして、彼の隣に頼がいた。
「まさか同じクラスなんてね、璃々佳ちゃん~」
「ちゃん付けはやめてって言ったよね、遼くん」
「いいじゃん、一年以上の知り合いだから。そして、これからの1年はクラスメイトだし」
「なれなれしく呼ばないでよ、周りに誤解されるから」
「俺は彼女がいないし、誤解されても平気よ!」
「こっちは平気じゃないから」
「それより、お前は一気に話題の人になったよね、入学早々に」
「ええ?私は何をした?」
「あなたじゃなくて、あなたの隣にいる椎名さんがやらかしたことだ」
璃々佳はすぐ真尋の方へ振り向いて、説明を求めるような目で彼女を見つめた。そしたら、遼は勝手に真尋の代わりに騒ぎの理由を説明し始めた。
「天下の椎名真尋と手をつなぎながら、校内に歩き回るって、今までこういうやつがいないから。璃々佳、お前はやるなあ!」
遼の言葉の意味を理解できず、黙っていた頼は二人の会話に割り込んだ。
「ほら、始業式はもうすぐ始まるだから、話はここまでにしようぜ」
真尋は苦笑して、璃々佳に何も言わず前へ向いた。やっぱり、バレたかな。もう少し知らない方がいいのになあ、と真尋は思った。せめて、他人からの口ではなく、璃々佳に自分から説明したかった。
*
始業式が終わり、生徒たちは自分の教室へ移動することになった。
先ほどの会話が途切れてしまったせいで、璃々佳は疑問だらけの状態のままだった。でも、教室へ移動する途中、真尋は数人の女子に囲まれた状態で、璃々佳は声をかけたくても、全然できなかった。
クラスの生徒の多数は系列中学校から上がって来たので、みんなは自分の友達と一緒に座れるように席を選んだ。これを見た頼は璃々佳にこう言った。
「良かったら、ここはどう?俺らはいつも窓際の一番後ろの席に座るから、ちょうど俺のとなりはまだ空いているよ。まあ、気に入らなくても、ただ3か月の辛抱だ」
「助かるよ。頼はとなりにいたら、心強いですよ」
「大袈裟だな。そのうちみんなと知り合ったら、きっと居心地良いになるはず、どこに座っても、誰がとなりにいても」
「そうなるといいね。ところで、さっきの椎名さんだけど、彼女は何者ですか?」
「まあ、説明すると長くなるんだけど、学校内では一応有名人で、人気者というか…」
「何それ?説明にならないじゃない?」
「璃々佳が知りたいなら、椎名さんに直接聞いてみれば?俺なんかの言葉に頼らず、自分で彼女のことを知った方がいいと思う。ほら、俺の言葉のせいで変な目で椎名さんを見たら、良くないなあ…」
「またまた、慎重になった!もっとはっきり自分の考えを言えばいいのに、人の目や考えに気にしすぎると、自分も辛くなるでしょう?」
「朝から説教しないでくれ、頼むから」
「はいはい、今日はこれでおしまい」
「しかし、君はさあ、初日から結構目立つ登場だよ。俺と遼は学校内に入った前、すでに君と椎名さんの噂が携帯メールで届けられ、本当にびっくりした!」
「そこまでなったの?でも、私は目立ちたいなんて狙ってないけど」
「椎名さんと一緒にいたら、注目されるのは当たり前だから。それに、君は外部生でもあるし、余計に目立つ。まあ、椎名さんの目立つと比べたら、別次元の話だけど」
これを聞いた璃々佳は、何となく真尋のことをこう思った。
「入学早々から注目されるの数時間はこれほど大変なのに、椎名さんはずっと注目されるって、本当に可哀想だね」
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