第2話 何も知らないお上りさん


「なぁ、あんた大丈夫だったか? さっき吹き飛ばされてただろ」


「見られてしまっていたとは……。問題ない、お気遣い感謝する」


「はははっ、見た目と違ってあんた丁寧なんだな」


 初対面であれば当然じゃないか? なんて思うのは少数派であるらしい。大きな斧を持つその男も例外ではなく、昔からの馴染みであったかのように接してくる。


「モントゥだ。よろしく」


 もっとも、そんな態度に対しいちいち目くじらを立てる性格でもなく。気を悪くすることもなく差し出された手を握り返す。

 気を遣わなくても良いのなら楽であるし、その方が助かると丁寧な口調をやめるモントゥ。


「おう、俺はタースデラだ」


 筋骨隆々といった見た目ではない姿からは想像できなかったが、握手をしたら分かる実力者。

 辻褄の合わない装備には何かしらカラクリがあるのだろうと、それだけで興味を惹かれてしまう。


 戦場となっていた地点から少しばかり離れている城門の前。

 広がる平地に集められたのは、先の戦闘に参加していた者達。褒美の配給や兵士志願者の募集がされ、そこに集まる人をターゲットにした出店がひしめき合い。


 何かの祭りでもしているのかと、そう見間違えてしまうそうな。


「あんた、初めてだろ」


「あぁ、今回が初めての参加になる。どうして分かったんだ?」


「そりゃ、あんだけ盛大に転げ回っていれば誰にでも分かるだろうよ」


「それもそうか」


 改めて言われてしまえば、恥ずかしさが湧き上がってくるというもの。

 頬に熱が帯びるのを自覚しつつ、それを誤魔化したいモントゥは宴よろしく騒き回る者達へと視線を向ける。

 それだけで嫌な記憶から逃げられそうだと、小さく。目の前のタースデラにも気付かれないくらいに小さな溜息を零す。


「ま、あの花を間近で見られたのは良かったかもな」


 笑われるのも悪くはないと。

 そう思えるのはタースデラの人柄のおかげであるのか。

 それとも、嘲笑であるのか気遣いであるのかすら判別できないほどに精神が疲労してしまっているだけなのか。


「そうだな。それに、可憐な少女の最期をみることもできた」


「おっ、あんた花の本体を見たのか」


「花の、本体?」


 言われてから気付く。すぐにでも思い至る結論であったはずなのに。

 無意識の内にその事実を認めたくなかった、ということであるのか。


「あぁ。戦場の花とかなんとかって呼ばれてたあの爆発を引き起こしてただろ?」


 本当に見たのか? と、疑われてしまうのも無理はない。

 一部始終を見ていたのであれば疑問に思うはずもなかったのだから。


 少女が穢呼忌えこきによって無惨な姿にされてしまった直後、起爆したという事実に。


「……あれは偶然じゃなかったのか」


「そういうこった。奴が引き付けて全部吹き飛ばす。これまで何度も繰り返されてきた戦術さ」


「何度も、だと?」


「おいおい、あんたホントに何も知らねぇんだな」


 報酬と飯が美味い。美女が多い。そんな風の噂に乗せられてやって来たに過ぎないモントゥ。詳しい情報など無いに等しかった。

 戦場に咲く花に関しては国軍にかかわる内容であるため知らなくても無理はないのだが、この場にいる者と話をしていればチラと耳に入ってくる内容であるのも確かであり。


「あまり、人と話すのは好まないんだ」


 つまりはそういうこと。

 積極的に人と関わりたくないという性格であったために、そういった情報を得る機会がなかったというわけだ。


「よければ、聞かせてくれないか」


「ふむ……昼飯一回だな。どうだ?」


「よし、デザートもつけてやろう」


「交渉成立だな」


 当たり前のように条件を出し当たり前のようにそれを飲む。社交性はなくとも、フットワークの軽さは持ち合わせていたモントゥなのであった。

 そして、出来の良い料理を出しているというオススメの出店へと二人で向かうことに。話を聞いているだけで涎が出てきてしまい、最早何が本当の目的であったのか忘れてしまったかのように歩き出していく。


 時折変な輩に絡まれたりといったイベントはあったものの、持ち前の気の強さもありトラブルへと発展することもなく。

 香る道標に釣られるままに、タースデラの案内はおまけであるとばかりに出店へと到着。無事に目的の料理を入手することができ、ご満悦の表情を晒すモントゥなのであった。


 オススメしていたのはスパゲッティ。濃い味付けのトマトソースは疲れた体に染みわたると評判なのである。

 おまけに付いてくる大きめのステーキも質が良いという話で、それ目当てで来る客もいるとかいないとか。


「なぁ、なんで友情割引きだったんだ?」


「さぁ。その方が売れるからじゃないか? ほら、セットで買ってくれるわけだし」


「ふぅん、なーほーね」


「料理そのもの以外の興味は無い、ってか?」


 いやいや。そんなことはありませんとも! と、反抗するのは心の中でだけ。

 なぜなら既に料理を口いっぱいに頬張っているからであり、そんなモントゥの姿に呆れ一緒になってスパゲッティを頬張り始めるタースデラなのであった。


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