キョウキョウの思いつき・未完作品集

第14話 切り札

　ここで出し惜しみしていては、二人を助けることは出来ない。

　そう悟った僕は、切り札としているとっておきの魔法を使うことにした。しかし、この魔法を使うのも一か八かの賭けだった。

　なぜなら、この魔法を一度使うことで魔力も空っぽ、体力も使い果たすことになるので、二人を連れて逃げるだけで精一杯になりそうだったから。ここで失敗したら、打つ手がなくなってしまう。

　転移した時には、パーティーメンバーの三人が別々になるのを防ぐことが出来た。

　しかし、魔法陣で知らない場所に飛ばされてしまい、飛ばされた先にはドラゴンが配置されているという最悪な状態。バラバラにならなかったことは成功だったと言えるのだが、全員が罠にかかったという意味では大失敗だった。

　そして、今回の賭けは成功するだろうか。不安に思いながらも、他に良いと思える方法が思いつかない。

　一日に二回もこんな危機的状況に陥って、生死を賭けるような状況はいつ以来だろうか。頭の冷静な部分で、余計な事を考えながら魔力を最大まで開放した。

　とっておきの魔法とは、時間に対して魔力を干渉させる事。

　フレデリカさんの走る速度が遅くなり、ドラゴンはいつもに比べてゆったりとした動きで口を開いて炎を吐く。

　ドラゴンが吐いた炎は、ゆっくりとした動きで僕に向かってくるのが見えていた。自分に迫ってくる炎から、視線を外さない。

　そして、僕が抱きついているシモーネさんは緩慢な動きでドラゴンから目を離さないように、視線を動かす。そんな状態の中で僕だけが普通に動けている。周りの動きは、どんどん遅くなっていく。

　やがて、フロアに居る僕を除いた全ての人間が動きを止めた。

　何が起こっているか説明すると “時間操作”を魔法で再現して、時間の流れを遅くしたのだ。

　時間を止めている間に転移させられた場所であるフロアの状況を見回して逃げ込める場所がないか探す。

　フロアの地面には、何かの腐った茶色の物体や白い棒状の物がバラバラと散らばっていて、いくつも積み重なって地面に落ちていた。

　コレが最初に感じた匂いの原因かと思いつつ通路を探しながら考える。

　ダンジョン内ではモンスターの死体は光の粒子になって消えていくが、人間の死体は消えない。

　つまり、ここに落ちているものはそういうことだろうと思う。もしかしたら僕達が今居る場所は、ダンジョン内部ではないのかもしれない。なので、モンスターの死体の可能性もあるかな。

　地面と壁は、先程まで居たダンジョンのような岩を繰り抜いた感じではなく石畳が敷き詰められていて、先ほど居た場所とは大分雰囲気が違っていた。やはり、別場所にあるダンジョンなのか。転移したから、かなりの距離を飛ばされた可能性がある。

　フロアを見回して見つけた通路は二つ。薄暗くて見えない場所に、他の通路があるかもしれない。魔法で無理やり時間を止めて観察しているために、これ以上選んでいる余裕が無い。

　僕はシモーネさんを両腕に抱え込んで、フレデリカさんのいる場所へと向かった。フレデリカさんを背負って、死ぬ気で今居る場所から一番近い通路へと逃げ込む。

　逃げ込んだ通路で、しばらく行った場所で二人を下ろす。そろそろ限界だったが、フレデリカさんが大剣を握りしめていた。時間を戻した瞬間に振り回されると、僕が危ないので、手から外して遠くの方へと遠くの方へと投げた。

　それで力を使い果たしてしまい、強制的に時間の流れが普通に戻った。

「はぁ、っはぁ、はぁ」

　魔力も空っぽで、体力も底をついていた。そして、心臓が性能限界までドンドンと脈打っているために、肺が繰り返し空気を要求するために息を荒げて呼吸する。

　とっておきを使ったせいで、案の定戦闘が出来ないぐらい消耗した状態になった。しかし、二人は無事に怪我なくドラゴンとの戦闘から離脱できた。

「っ、エリオット！」「エリオット君！」

　時間操作を止めた瞬間に、時間が元通りになった一瞬何が起こったか分からないと言った顔をしたフレデリカさんとシモーネさん。

　しかし、僕が地面に座り込んで息を荒げているのを見て声を上げた。

「これは一体……？　私は死ぬ気でドラゴンへ突っ込んだはずだが、どうなっているんだ？」

「さっき居た場所とは全然違う所に居る。エリオット君が転移の魔法を使ったの？」

　シモーネさんは、ドラゴンと遭遇した後に僕が転移の魔法を使って逃げ出したと思ったようだが、ソレは違う。

　僕はまだ息が荒れていて、言葉を出して答えられない。シモーネさんの転移したのかという疑問に、首を振って否定した。

　僕の消耗状態を見て、質問できる場合じゃないと分かったのか2人が質問を止めて周辺の警戒に入った。

　一体これからどうしようか考える。ドラゴンから逃げることは出来たが、僕達が居る場所がわからない、魔力も体力も使い果たしてしまった。

　これからの先を不安に思いながら、一先ず息を整えることに専念した。