第12話 戦闘、帰り道、そして

 10階層でドロップ品を目的としたモンスターとの戦闘に関しては、初めて組んだパーティとは思えないくらい上手く、そして効率良く進めることが出来た。




 まず僕が魔法でモンスターの居る場所と、他の冒険者が居ない場所をいち早く探索する。そして、目的地を見つけたら2人に指示を出して素早く移動。


 モンスターの近くまで来たら僕が魔力を絞った魔法で牽制を仕掛けて先手を取ると、すかさずフレデリカさんが大剣で切り込む。


 フレデリカさんの攻撃がうまく決まったらシモーネさんが弓矢で援護攻撃を加える姉妹のコンビネーション。僕は2人の攻撃中は周囲を警戒しておいて、近寄ってくるモンスターをいち早く察知するようにしながら戦闘を見守る。


 そして、フレデリカさんとシモーネさんが仕留め損なったモンスターが居た場合は、僕が適宜攻撃を加えるなど臨機応変に動く役割を担った。


 最初のうちは3人で声を掛け合いながら動いていた。だけど、途中からは声も必要ないくらいにスムーズにそれぞれの役割をこなしていた。最後には、目で合図すれば察して動けるぐらいに洗練されていった。


 今も戦闘を終えて、倒したモンスターが光の粒子に分解されている途中。


「モンスターはいません、周囲は大丈夫です」


 僕の一言で、戦闘状態を解いて一段落する2人。


「なんだか何時もよりもモンスターの落とすアイテムの内容が良いなぁ」


 光の粒子が消えた場所にドロップ品が現れる。フレデリカさんは現れたアイテムを拾ってコチラに近づいてきた。


「お疲れ様、コレもお願いするよ」


 フレデリカさんが僕に近づいて拾ったアイテムを手渡してくる。


 ドロップしたアイテムは魔法使いの僕が魔空間に保管しておいて、ドロップ品は戦闘の時に邪魔にならないように僕が運ぶ荷物持ちとしての役割をしていた。


「だけど、戦闘が上手く行きすぎて物足りないなぁ。今日はこの剣も振り足りない」


 フレデリカさんが不満を言いつつ大剣を風切り音をさせながら上から下へ素振りをする。


 フレデリカさんの言うように、僕が牽制で放った魔法が上手く当たればモンスターを一撃で倒せてしまう時もあるので、フレデリカさんの普段に比べたら攻撃回数が少ないだろう。


「そうね、いつもに比べて後ろを気にしなくて良いのは本当に楽だわ」


 何故かクロッコ姉妹から非常に厚い信頼を寄せられている僕。


 即席で組んだパーティー仲間に対して、背中を預けて気にしないようにするなんて、かなりの度胸だと思う。


 勘違いかも知れないが、フレデリカさんは初めから、シモーネさんは3階層辺りから連携が更に上手く取れるようになって信頼されているように感じた。


 何故こんなに信頼されているのか分からないが、彼女たちに信じて頼りにされている分は彼女たちの為に頑張ろうと思った。


 


「そろそろ戻ろうか?」


 戦闘が計3桁回数に入る直前にフレデリカさんが地上への帰還を提案。かなりの戦闘を繰り返した結果、フレデリカさんの疲労が大分溜まってきたようだ。


「そうね、思っていた以上にドロップ品が手に入ったから収穫は十分そうね」


 ドロップ品が結構手に入ったので3人で分けたとしてもかなりの額になるだろう。これだけあれば、道具や生活用品を全部買い直せると思う。僕も2人の意見に賛成して地上へ戻ることになった。


 


 帰還ルートはなるべく敵が居ないような経路を探しながら帰る。


「いぁや、エリオットが居て大分楽だなぁ。帰りの道まで魔法を使って探してくれてありがとう」

「疲れてない?」

「まだ全然大丈夫ですよ」


 地上へ出る階段に向かって歩いている途中、色々と負担をかけて申し訳ないと姉妹には言われたがむしろパーティーを組んで僕は助かっていた。


 クロッコ姉妹の持つダンジョン知識、そして連携することで戦闘の負担が減って、しかも道中は他人が居ることでソロで行動する時に比べて安心感があった。


 今までパーティーを組んで行動すると人間関係が煩わしいかもしれないと想像で心配していた。だが、実際に組んでダンジョンに来てみると思っていたより他人と一緒に居ることが苦痛ではなくて、むしろ安心感が得られるんだと実感した。


 まぁ、これはクロッコ姉妹と僕の相性が非常に良かったという理由もあるかもしれない。これらのメリットを考えると姉妹とパーティを組めた事は僕の方が助かっていた。


 そんな風に帰りの途で僕の思いについて姉妹に話していた時にソレは起こった。帰り道だから慢心していたんだろう。


 ソレは先行しているフレデリカさんがキッカケだった。8階層のあるフロアへと到着して、もうすぐ階段という場所まで来た時。フレデリカさんの足元が白い光で溢れた。


「な!」「姉さんっ!」

「危ない!」


 フレデリカさんの足元に魔法陣が現れた。彼女は何らかの罠を発動させてしまったようで、魔法陣が輝きを増していった。この魔方陣が白い光の正体だった。


 発動した罠は魔法陣が発現したことから、魔法によるものだと断定して考える。次の瞬間には、フロア全体に魔法陣が広がったために発動させた人間だけでなく、フロアに入った人全員を対象にした大きな罠のようだった。


 10階層に行く途中で通ったフロアだったはずで、その時は罠の存在に気づかなかった。運悪く、帰りの道中で発動させてしまったようだ。効果は一体何だ? 何を目的とした罠だろうか。目でシッカリと観察し、頭で考える。


(不味い! あれは転移系だ、このローブが無効化してしまうかもしれない)


 僕は魔法の範囲に入っているフレデリカさんを見て間に合わないと悟る。そして、シモーネさんに素早く近づき腕に掴みかかった。シモーネさんはビックリした顔で僕を見たが、説明している暇なんて無かった。


 既に魔法の効果が発動しかけていて、どこかに飛ばされそうという事がわかったので、一か八か賭けに出る。


 もしも、僕のローブが転移の魔法を無効化できたらシモーネさんも範囲に入るかどうか。逆に、シモーネさんの転移に巻き込まれて僕も転移し、3人とも一緒の場所に飛べるかどうか。


 魔法陣から放たれた光がフロア全体を照らす。僕の視界は真っ白に染まった。

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