第7話 ダンジョンへ行く前に

「さぁ、行こうか!」

「行きましょう」

「二人共、チョット待ってくれないか」


 早速、ダンジョンへ行こうと意気込んでいる2人の女性達を呼び止めて、ちょっと待ったをかける。その前に、確認しておくべき大事な話がある。


「ん?」

「どうしました?」

「ダンジョンへ向かう前に、まず自己紹介から始めよう」


 ダンジョンの中へ入る前に、まずは互いについて知っておいたほうがいいと考えた僕は、少し時間を割いて話しあおうと二人に提案してみた。ダンジョンへ行く途中にある街の広場で話し合いの場を設けるのはどうだろうか、と。


「わかった」

「そうね。まずは、お互いのことを知ることから始めましょう」




 広場に来てみると、人はそんなに居なくて静かだった。朝を少し過ぎて、昼間にはまだ遠いような時間帯だからだろうか、利用者は少ない。僕たちは広場から隅の方に陣取って、目立たないように三人で話を始めた。


「さっきは、姉さんがいきなり声をかけてごめんなさい。迷惑じゃなかった?」

「え!? もしかして、迷惑だったのか?」


 2人は冒険者ギルドでの最初の出会いを話題にして話し始めた。


「いいえ。僕は、そんなに迷惑だと感じませんでしたよ。それよりも手伝ってもらって、ダンジョンに入ることができるんで助かりました」


 僕がそう言うと姉の方がニンマリと言った笑顔を妹さんと思われる女性に向かって浮かべる。


「ほら、大丈夫だって!」

「彼が親切で優しい性格だからよ。普通の男性は、あんな風に女が男性に声をかけるなんてビックリして警戒されるに決まってるわ。それにこの前だって、同じように声をかけたら無視された事だって有ったじゃない」


 再び2人の言い争いが始まる。しかし彼女たちの言い争いは、本当に険悪なムードと言うわけではなくて、じゃれ合うような互いの仲の良さを感じる。


「い、いや。あれはさぁ、私が馴れ馴れしくしすぎたからで……って今はそんな事はどうでもいいよ、シモーネ。それよりも自己紹介しよう!」


 しかし、冒険者ギルドであったように言い合いが続いていくかと思ったが、僕の方を気にして直ぐにやめてくれた。


「えっと、じゃあ私から」

 笑顔を浮かべている女性から。


「私は、フレデリカ・クロッコ。人族の27歳よ。で、こいつが私の3つ年下の妹」


 側に立っている女性を親指で指して示すフレデリカさん。


「シモーネ・クロッコ。不本意ながら彼女が姉で、私は妹をしているわ」

「姉妹で冒険者をやってるんだね」


 本当の姉妹で冒険者をやっていると言うクロッコ姉妹。2人の自己紹介を聞いて、次は僕の番かと思い自己紹介をする。2人の姉妹の視線をビンビンと感じる。


「僕はソートソンという森のエルフで、エリオットって言います。歳は227歳」


 エルフの価値観を人間に当てはめると227歳と言っても、青年と呼ばれる頃だ。ソートソンに住むエルフ達の平均年齢は1500歳を超えていたみたいで、自分は彼ら彼女らに比べるとまだまだ若造である。


「やっぱり、エルフだったんだ」


 エリオットさんは、先ほど僕と冒険者ギルドの受付との話を途中から聞いていたそうで、僕がフードを取った瞬間に横顔と特徴的な耳を見てエルフだと予測していたそう。


「それで、何故1人でダンジョンなんかに?」


 シモーネさんが不思議そうな顔で聞いてくる。この世界の一般的な男性は荒事を非常に嫌う傾向にあるため、男性冒険者なんて非常に少ない。そんな中で、ソロで活動しようとしている僕のような人を初めて見たという。


 僕は、王国に関わることだから本当のことを話すべきか、どこまで話せそうかなと頭を整理して語った。


「実は、故郷に帰る旅のために資金を稼ごうと思いまして」

「え? お金稼ぎの為にダンジョンに入ろうとしてたの?」


 これから一緒にダンジョンを攻略する仲間だから嘘はつきたくないので、ある程度までの事情を話すことにした。僕の答えに疑問をいっぱい浮かべたシモーネさん。やはりエルフという種族に、お金稼ぎなんて俗っぽい事は似合わないと世間一般では思われているのだろうな。


「あ、ごめんなさい、驚いてしまって。お金稼ぎということはダンジョンの宝物狙いなの?」

「いいえ。 モンスターを倒してドロップ品を集めて売ってして、ある程度稼ごうかと思っていました」


 ダンジョン内で時々発見できる宝物は、見つけることが出来れば大金を手に入れることができる。しかし、見つけるのは非常に難しく運と実力を兼ね備えていないと発見できない。


 ソレに比べて、モンスターのドロップ品はモンスターを倒していけばドロップしてくれるので宝物より期待できるので有効だった。僕は、そのドロップ品を狙ってダンジョン探索を進めていくつもりだった。


「あのよ、馬鹿にするわけじゃないんだけど、男のあんたがモンスターをどうやって倒すつもりだったんだ?」


 彼女たちは不可解な表情で僕を見ているので、何のことだろうと思ったがフレデリカさんの言葉を聞いて、そういう事かと思い至る。この世界の男性の殆どは筋力が弱くて頭もあんまり良くないし虚弱体質というのが、この世界に生きる人達の共通認識だった。

 男性は弱い生き物であるという考えが世間の一般常識で、だからこそ守るべき存在として国で保護されている。


 それに、彼女たちの大きな身体に比べて僕の身体は非常に小さく見えるだろう。だけど僕には魔法の力があった。


 自慢するようで恥ずかしいが、僕は自分の事を結構優秀な魔法使いであることを自負している。だから、1人でもあまり問題なくダンジョン探索に行けると考えていた。僕は魔法使いであることを2人に説明する。

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