第6話 クロッコ姉妹
「彼女たちとダンジョンに入ることにしたので、手続きをよろしくお願いします」
「クロッコ姉妹ならば、戦力的にも問題は無さそうですね。わかりました、それでは先に冒険者証明証の再発行を行いましょう」
どうやら彼女たちは名の知られた冒険者のようで、ダンジョン探索について戦力的には問題はないようだ。
ダンジョンの入場許可証を用意して貰う前に、古くなっているという冒険者証明証を再発行して貰うことに。
僕の持っている物はだいぶ古くなっているらしく、過去の実績記録は全て消失して無かったことになってしまうようだ。
何十年も活動していなかったので、実績が全て無くなってしまった事は仕方ない事だと考え諦めよう。今回のダンジョン探索を終えたら旅に出て冒険者としての活動もしないので、あまり自分にとって意味のないものなので気にしないことにした。
「はい、コレで全て終わりました。コチラをお持ち下さい。ダンジョンの入り口前に兵士の方が居られますので、コレを見せて中に入っていって下さい。この証明証は、無くされると入場できませんので、くれぐれも手元から離さないようお持ち下さい」
受付の女性はお決まりの言葉なのかスラスラと淀みなく言いながら、四角形の木の薄い板を渡してくるので、それを受け取る。少し見覚えのあるソレ。ダンジョン入場許可証。ただの木の板ではなくて、魔法の効果が付与されており一般人には偽造できないような作りになっている。しかし、ちらっと見ただけで分かってしまった。腕に覚えがある魔法使いなら結構簡単に作れてしまうのではと心配になってしまう。
指で摘み、そんなことを考えながら受付の女性が話す言葉を引き続き聞く。
「ダンジョンから戻られたら、お手数ですが一度ギルドに帰還報告をお願いします。報告の際には、ダンジョン内で手に入れたアイテムを持って来て頂くように。お願いします」
僕が今日、これから行くリーヴァダンジョンというのは王国が所有するダンジョンなので、内部で拾ったアイテムの3割は王都に渡さなければならない仕組みである。
手に入れたアイテムは、自己申告制なので実際よりも少なめに報告する事も出来るが、後からバレると隠した分の何倍も罰金としてとられる可能性があるので、正確に報告しないと痛い目に遭う。この辺りの仕組みについては、昔と変わっていないなと思い出しながら話を聞き続ける。
「報告に来て頂く期限がありまして、えーっと、エリオット様は男性なので、報告は今日より1週間を過ぎない内にお願いします。1週間を過ぎますと、捜索隊が組まれてダンジョン内に捜索しに行く可能性がございます。くれぐれも報告するのを忘れたり遅れないように、お願いします」
女性なら結構アバウトで、報告に来れる時に来てもらうそうなのだが、男性は安全に考慮して、危険があった場合には速やかに助けに行けるような対策として、厳しく規則が決められているらしい。男性保護法というものが施行された影響で、この辺のルールも作られたらしい。コレは知らない規則だったので、気をつけなければ。
僕の場合、ダンジョン探索は今日一日だけの予定。だから、地上に帰ってきて直ぐ帰還報告に来れば良いだろう。
「説明は以上ですが、質問はございますか?」
「いえ、今のところ気になる事は無いので大丈夫です」
かなり分かりやすく、丁寧に説明してくれた受付嬢。話を聞いた後、疑問に思ったようなことは特に無かった。問題ないと返事して頷く。
「あと、それと……」
「どうしました?」
受付の彼女が、顔をグイッと近づけて囁くような小さな声で言ってくる。なにか、聞かれるとマズイ秘密話のようだ。
先ほど、僕が顔を晒して気絶した時よりも彼女はグッと顔を近づけて、大丈夫なのだろうかと疑問に思いながら耳を彼女の方に向けて、彼女の声を集中して聞く。
「大丈夫だとは思いますが、クロッコ姉妹には気をつけて下さい」
「どういう事ですか?」
顔を近づけたナイショ話は、後ろで言い争っている姉妹冒険者達に聞かれないようにするためのものだったらしい。気をつけろ、とは一体どういう事だろうか。
「本当はエリオット様が彼女たちとダンジョンへ行く事について私は大反対ですが、ギルド受付として強制できないのです。だから、注意だけ」
今日出会った中で一番真剣な顔をした受付の女性が、気迫溢れた顔で言ってくる。
「女は、獣のように本能で生きるものです。クロッコ姉妹ならば多少は安心ですが、絶対は有りません。ダンジョンという閉鎖空間で彼女たちは獣に変わるかもしれないと警戒して下さい。エリオット様自身が、身持ちをしっかりしておかないと大変な事になるかもしれません。特に、妹の方には気をつけて下さい!」
「はぁ、えっと、わかりました」
小声でも、大事な部分は強調するという器用なしゃべり方で忠告される。妹の方、とは表情が少し乏しい彼女の方だろうか。よく分からない話だが、頭の隅に記憶して了解しておく。彼女は顔をスッと元に戻して、カウンターテーブルの向こうで綺麗に座り直す。
「それじゃあ、気をつけて行ってきて下さい。くれぐれも、怪我の無いように!」
「はい、ありがとうございました。それじゃあ、行ってきます」
受付嬢の彼女にお礼を言ってから、僕は冒険者ギルドで出会った2人の姉妹冒険者とリーヴァダンジョンへと向かった。
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