第5話 姉妹の冒険者

「なぁ、そのダンジョン私達と一緒に潜らない?」


 後ろから聞こえた声に向かって振り向くと、視線の先には女性が2人立っていた。見ただけで分かるぐらい、僕よりも身長が高い女性達がいつの間にか側に立っていて思わず圧倒される。


「(うわぁ、でかい女の人だ)」


 彼女たちを見てそんな当たり前な感想が、頭に浮かんだ。1人は真っ赤に光る太陽を思わせるような輝く笑顔を浮かべている女性。身長は180センチ以上あるだろうか、僕と比べて30センチもの身長差があると思う。頭1個半ぐらい高いか。


 そのために僕の目線のすぐ先に、彼女の非常に豊満な胸が飛び込んでくる。彼女が身にまとっている服装も露出が多くて、日に焼けた小麦色の肌に思わず目が惹きつけられそうになって、何とか我慢する。


 もう1人の女性は先ほどの女性と対照的に、青く静かな月を思わせるように表情が鋭かった。だが先ほどの女性と同じように、いやそれ以上に露出が多くて目のやり場に困る。肌も先ほどの女性とは対照的に色白で、目に眩しい。しかも、彼女の豊満な身体つきは非常に色っぽくて鋭い表情とのギャップがたまらない。いやいや、何を考えているんだ僕は。


 2人の女性は表情こそ違うが、顔立ちが非常に似ていると思った。もしかしたら、姉妹なのかもしれない。


 低身長の僕は目線を上げて、対して彼女たちは見下ろすような感じで目線を下げて互いに視線を合わせる。すると笑顔の彼女が再び言った。


「もし良かったら、私達と一緒にダンジョンに潜らない?」

「えっと、僕とですか?」


 急な彼女の提案に、思わずそれだけしか返事ができなかった。何故彼女は急に僕に声を掛けてきたんだろうか。もしかして、先ほどのやり取りをすべて見られていたのかな。疑問に思っていると、彼女は更に言葉を続けた。


「さっきの話をちょっと聞いてたんだけど、ダンジョンに入りたいんだろ?」


 先ほど観察した時にコチラに注目していると思っていたが、どうやら僕と受付嬢の会話も聞いていたようで、ダンジョンに入りたいが入れない僕の現状を全て把握されているようだった。


「私達と組めば、男性でも問題無くダンジョンに入れるんだよな?」


 女性は、先程まで僕と話していた冒険者ギルドの受付に向かって確認する。


「えぇ、まぁ……。パーティーを組んだなら、男性の方でもダンジョンの入場許可は出せるという規則です」


 よどみなく答える受付の言葉に、より良い笑顔を浮かべた女性。


「じゃあ、問題なさそうだ。私達と一緒にダンジョンに行かないか?」


 再び僕に向かって提案し、イエスかノーかの確認を待っている。

 どうしたものか悩む。先ほどまでダンジョン探索は諦めようと思った。その瞬間に声をかけられた為に、気分的にはもうダンジョン探索に行くのは止めておこうと考えていた。でも折角、彼女たちから誘ってくれたので、断るのも悪い気がして気持ちが揺らぐ。


 今回を逃せば、次に王都に来るのは何時の事になるだろうか。この土地を離れて、旅に出たとしたなら、もしかしたら一生この街に戻って来ないかもしれない。


 そう考えると、一番の目的である金稼ぎの他にも思い出作りに行っておくのも良いかもしれないな。


 だけど、見知らぬ女性たちと即席のパーティーだとトラブルも多いかもしれない。何時もソロでダンジョンを潜っていた僕は、いきなり知らない人同士でパーティーを組んで果たしてダンジョン探索を上手く出来るだろうか。不安だった。


 色々な事を思い浮かべながら考えに没頭していると、パーティーを組もうと提案をしてきた彼女が慌てだした。


「あ!? これって、ナンパとかじゃないよ! 全然、貴方が困ってるみたいだったから、善意というか助けたいと思ったから声をかけただけで、本当に。善意だから、やましい気持ちとか無いから大丈夫だよ!」

「姉さん、落ち着いて」


 僕が直ぐに返事をしなかったせいで彼女は何か勘違いをして動揺してしまい、僕に弁解していた。どうやら彼女も、受付の女性同様に男性に慣れていない様子だ。慌てふためいている。


 慌てて言い訳している女性の側に立っていたもう一人の女性が、落ち着くようにと慌てた女性をなだめている。


 そんな様子を見て、僕は彼女たちが悪い人たちではなさそうと感じた。なので折角だから、ダンジョン探索を一緒にやってみようという気になった。


「誘っていただいたんで、一緒にダンジョン探索をお願いします」

「ほんと!? じゃあ早速手続きをしよう!」


 僕の了承する言葉を聞いて、とても嬉しそうな表情をして先を促す元気いっぱいの女性。


「姉さん、そんなにがっついたら下品に思われるわ」

「バカ! ただでさえ男性との出会いが少ないのに攻めないでどうする! そんなに呑気でいたら他の奴らに横取りされるぞ。一生、男と縁のない悲惨な人生を送る羽目になるんだぞ」


「それは嫌だわ」

「そうだろう!」


 笑顔の女性と真面目な表情をした女性たち2人が言い争いを始める。僕は彼女達に巻き込まれないように、女性達がヒートアップしている隙に受付で手続きを進める事にした。

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