第4話 ギルド受付との対話
「へ? あれ、私……」
「大丈夫ですか? 目を覚まして下さい」
椅子に座り直させてからすぐ、気絶から覚めた女性は目をパチパチとさせていた。そして混乱しているのか周りを見渡してから、僕と目線が合った。その瞬間に先ほどの出来事を思い出したのか、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして黙ってしまった。
「大丈夫ですか?」
「っ!?」
僕がそっと声をかけると、彼女は身体をビクつかせて反応をした。再び、気絶する様子は無くて安心したけれども、今度は悲鳴を出さないようにする為なのか口を固く閉じていて会話にならない。
彼女が両手を僕に向けて突き出してくる。最初どういう意味なのか分からなかったが、どうやら離れてというジェスチャーのように見えた。僕は立っていた位置から、一歩二歩と後ろに下がってみる。するとようやく彼女は、口を開いて応えてくれた。
「本当にゴメンナサイ。私エルフの男の人とは話すのが初めてで、えっとその、男の人と話すのも実は数回しか経験がなくて。えっと、それで、全然慣れてないって話なんですが。顔もすっごく近くにあって、そのすごくて」
「大丈夫、落ち着いて」
彼女は僕の立ち位置から斜め横に視線をそらしながら、必死に説明してくれようと話してくれた。支離滅裂になりつつ、若干早口だが必死さが伝わってくる。
そんな彼女の様子を見ていると、本当に慣れてないんだな、というのが分かった。このまま放置していると、いつまでも続きそうな説明を遮るようにして、僕は優しく話しかけた。
「突然目の前で気絶したんで驚きましたが、大丈夫ですよ。僕の方こそ、突然フードを取って顔を見せたから、びっくりさせてしまいましたね。ごめんなさい」
「あの、いえ、コチラこそ申し訳ないです。この記載が嘘じゃないということを確認したかっただけで、その本当にビックリしました」
冒険者証明書の備考に書かれた性別:男性という文字。証明書には性別の欄が無くて、備考に書くぐらい男性の冒険者といのは珍しいこと。僕が昔、冒険者になった頃も居なかったし、証明書を取得するのに苦労した思い出がある。
「それで、先ほど話したリーヴァダンジョンの入場許可を頂けますか?」
「それが、その……」
このまま話していると時間が掛かって、冒険者ギルドへ来た目的を達成できそうになかったので、受付嬢との会話を強引に戻した。
僕がダンジョンの入場許可について再び尋ねると、さっきまで慌てた様子で会話をして目を白黒させていた彼女の表情が一変して、眉の間にシワを寄せて困ったような顔になった。どうやら、何か問題があるらしい。
「えーっと……。一つお聞きしたいのですが、ダンジョンへはお一人で行かれる予定ですか? 同行するパーティーや仲間は居られませんか?」
「え? そうですね。1人でダンジョンに潜る予定です」
今まで殆どソロで活動していたので、ダンジョン探索も1人で行くつもりだった。そもそも僕は王都で暮らしてきたけれど、魔法の研究で殆ど研究所の一室で過ごしていたから研究所以外には知り合いが居なかった。少なくとも、今からダンジョン探索に付き合ってくれそうな人物に思い当たりはない。
「そうなりますと大変申し訳ないのですが、リーヴァダンジョンの入場許可を出す事が出来ません。現在、男性の方がお一人のみでダンジョンに入る事は規則により禁止されているんです」
本当に申し訳無さそうに彼女が告げる。
「え? そうなんですか?」
思わず声を出して聞き返してしまった。詳しく話を聞いてみると、近年では男性の人口が更に減っているから、男性を保護する為に国が定めた法律という決まりが出来たらしい。その法律の中には、男性が一人でダンジョンへ入ることを禁止するという規則があるという。
そういう理由から、先ほど彼女が言ったように僕一人ではダンジョンの入場が許可できないという事らしい。
「そんなルールがあるんですね」
「私も、ダンジョンに1人で入ろうとする男性が存在するとは思ってなかったです。あ! いえ馬鹿にした訳ではなくて、凄いというか予想外の展開というか」
「えぇ、そうですね。僕も予想外でした」
「で、ですよね!」
どうやら男である僕は、1人では制限があって全てのダンジョンに入れないという事らしい。ルールだから仕方ないけれど。
「女性の仲間、どなたか一緒に行かれる人が居るのなら入場許可を出せるんですが。その他に、冒険者に依頼を出して護衛を付けて潜る、という方法もあります。どうしますか?」
「えーっと、どうしょうかな」
ダンジョンに入るためには、どうしても女性の仲間が必要らしい。しかしギルドに依頼を出して新しい仲間を集めてまでダンジョンに潜るのも、やはり面倒だと思ってしまった。
そもそもを考えると、僕がダンジョンを潜る一番の目的は金稼ぎであった。お金が必要になった理由は、魔法研究所に置いてきた研究用の道具や生活用品を買い直す為に。
しかし、その道具や生活用品について空間魔法で万が一の場合に備えて用意した、代用品もあるので今すぐに必要となるも物もない。なので、よくよく考えると絶対にダンジョン探索に行かなければならない、という訳でもない。
禁止されているのならば、今回のダンジョン探索は諦めることにとしようかな、と決心しかけたその時。
「なぁ、そのダンジョン私達と一緒に潜らないか?」
受付嬢と僕が向かい合って会話している最中。反対側の方向、つまり僕の背後から力強い女性の声が聞こえてきた
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