第8話 戦力確認

「僕、魔法を使えるんですよ」

「へ?」「え?」


 驚く2人の目前に手を広げて見せて小さな炎を発現させる。発現させた炎を回転させたり、素早く移動させてみせたりすると目を白黒させて見入る彼女達。


「本当に魔法が使えてる!? 凄いじゃないか!」

「魔法を使える男の人なんて、実在していたのね。出会ったのは初めてだわ……」

「まぁ、珍しいと思います。僕も自分以外には会ったことがないので」


 フレデリカさんは純粋に驚いて、シモーネさんはしみじみとつぶやくように感想を言う。彼女たちの驚きようについては理解できる。なぜなら、男性で魔法を使える人間はとても珍しくて、ひとつの国に1人居るか居ないかと言われるぐらいに希少な存在であるとされている。僕も今まで生きてきた中で1人とだけしか出会っていない。


「ダンジョンに稼ぎに行くよりも、魔法を使って何か仕事をしたほうが安全だし簡単だと思うのだけれど?」


 シモーネさんの言うとおり、珍しい男性魔法使いには一定の需要があるために仕事を探せば直ぐに見つかるだろうし、ダンジョンに比べて死の危険は無いだろう。

だけど僕は出来るだけ直ぐに、そして後腐れなく金稼ぎをしたいと考えていたので、仕事に就くとまたしばらく王国で生活しなければならない可能性が高いので、自分の考えで働ける冒険者のほうが都合が良かった。


「そういえば、この国には有名な魔法研究所が有るだろう? あそこに行ったら雇ってもらえるんじゃないのか?」


 名案を思いついたという風にフレデリカさん顔を輝かせて言うが、僕は苦笑を浮かべる。


「実は今日の朝までフレデリカさんの言う魔法研究所で働いていたんですけど、クビにされちゃいまして」

「え? あ、その、そうだったんだ。……ごめん」


 フレデリカさんは僕の言葉を理解すると、頭を下げて謝った。僕にとってはそんなに深刻なことじゃなくて丁度いいぐらいに思っていたので、そんなに深刻に考えられると逆に困ってしまう。


「いえ、全然だいじょうぶですよ。クビになったと言っても、困っているわけではないですし、魔法研究所でやりたかった事は全部させてもらいましたから、向こうから辞めるように言われたのは丁度いいキッカケになったと思っていますから」

 

 しかし、自分で言うのも何だが希少な男性魔法使いの僕が在籍していた事をフレデリカは知らなかったのだろうか。疑問に思っていると、考え中だったシモーネさんが話しだした。


「魔法研究所に居たって本当? 私、あそこに男性の方が居たなんて聞いたことがないんだけれど」

「えぇ、本当です。雇われたのは随分と昔のことですが。それに、最近はずっと研究室に引き篭もって研究を続けていたんで、表に出てくることがあまり有りませんでした。だから、外の人が知らないのも無理はないと思います」


 男性魔法使いは狭小な存在、普通は大事に守るために秘匿するか王国の象徴として大々的に公表するか。僕の場合は王国の首都防衛を目的とした研究を続けていたので、暗殺や襲撃を防ぐためにも存在は表に出されなかったのだろうと推察する。

僕の考えをシモーネさんに話してみても、あまり納得はしていない様子だった。


「でも貴重な男の魔法使いを辞めさせるなんて信じられない。もしかしたら、上の人に掛け合ったらクビは取りやめてもらえるかも」

「交渉する事も考えたんですけど、やっぱり研究所でやりたい事がほとんど全部出来たんで今辞めるのは丁度良かったんですよね」


 色々と考えてくれているシモーネさんにはありがたい気持ちでいっぱいだが、自分の考えをあくまで変えない。


「そう? 貴方がそれで良いと思うのなら私がとやかく言うべきではない事ね。私達は貴方のダンジョン探索を全力で手伝わせてもらう事にするわ」

「そうだぜ! シモーネの言うとおり、力いっぱい手伝ってやるから旅の資金は安心しな」


 互いのことを多少は知ることが出来たので次は、ダンジョン内でのコンビネーションを確認するために、自分たちが使用する武器について話し合った。


「私の武器はコレだ!」


 フレデリカさんは後ろに背負っていた大剣を右手だけで担ぎ上げると、そのまま天に向かって掲げる。大剣は僕の身長と同じぐらいの長さが有るから多分170cm~180cmぐらいの長さがあると思われる。


 そんな長さだから重さも相当だろう。ソレを感じさせずに剣を片手で持ちあげるなんて、フレデリカさんには凄い力があるのだろう。


「どうだ? カッコイイだろう!」

「はい! 良いですね」


 めちゃくちゃカッコ良かった。前世の頃から大剣を振るうオーソドックスな戦士キャラが好きだったので、叶うならば僕も同じように大剣を振り回したいと思っていた時期もあった。しかし、今世の僕は全然筋力が足りないので普通の剣すら満足に持ち上げることが出来なかった。だから、魔法使いの道を選んだという理由もある。


 だから結局は適正があった魔力の能力を鍛えて魔法使いになった。今では魔法も結構好きなのでこっちの道に来て良かったと思っているが、やはり大剣を掲げる彼女がとてもかっこ良く見えた。


「私は弓」


 次にシモーネさんは右手に弓を左手に矢筒を持って見せてくれる。矢筒は無属性の魔法矢を生成してくれるものみたいで、ダンジョン内でも弾切れの心配はないだろう。


「後はコレも」

 シモーネさんが弓と矢筒を肩に戻してから、腰にレイピアのような細身の剣を指さして見せてくれる。どうやらシモーネさんは剣術も使えるようで、フレデリカさんの豪快さとは逆に技巧的な感じだった。


「僕はさっき言ったように魔法を使います」


 幾つか使える技を彼女たちに説明して、ダンジョン内での3人の動きについて話し合う。結果的に、フレデリカさんが大剣で前衛を担当、僕が魔法で後衛から支援。そしてシモーネさんが弓を使いつつ状況を見て前衛と後衛を使い分けるという事になった。


 話し合いが終わり互いの事を多少知り合えたので、遂に僕たちはダンジョンへと向かうことにした。

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