旅に出る
第11話 騒動のスタート
トルベンが村に残していった幼い子供たちは、トルベン達を鍛えた時と同じように特訓を施した。勉強を教えて学びを得ることで経験値を稼いで、レベルアップできる量の経験値が溜まったらすぐに神託を行う。
育成も二度目だったからなのか、かなり順調に予定を立てた通りに成長させることが出来たと思う。
彼らは、日を追うごとに実力を上げていった。ネットの情報と今までの経験を駆使して、おそらく世界で一番と言えるぐらいに効率的な成長をした子供達だろう。既に、村の防衛を任せられるぐらいに育ってきている。
マリオンとラインホルトと言う名前の男の子2人が、特に成長著しい。ロジーナも一緒に加わって彼らを特訓させた結果、とんでもない成長を見せた。素直に言う事を聞いて特訓も真面目に取り組んでいたから、無事に成長してくれたことが嬉しい。
「もしも私に勝てたら、スザンネを紹介してあげましょう」
「絶対に勝ってやる!」
ロジーナとマリオンが木刀を構えて対峙している。スザンネとは特訓を受けている彼が恋い慕っている、村に住む女の子の名前だ。純朴で真面目な彼は、スザンネへの好意を自分から言い出せないでいると思い悩んでいた最中で、ロジーナの提案というのが願ってもない助けのようだ。
こんな風にロジーナは特訓する時に相手が喜ぶご褒美を用意しておいて、やる気を引き出すのがとても上手かった。
トルベンが村に居た頃は、モチベーションを高く維持してあげられなかったから、特訓から離れていったんだなと今更になって理解する。トルベンが自立型でリーダーの気質があったから、という理由もあっただろうけれど。
模擬戦でも、強者との擬似的な戦闘行為だったら経験値を稼げるようだから、特訓にはうってつけ。
模擬戦が始まると、ロジーナがマリオンを圧倒していた。レベル差によって能力がかけ離れているから、女のロジーナでも力いっぱい木刀を振るったら、男のマリオンが力負けして地面に膝が付いてしまうぐらいだった。
それでも何とか立て直して、マリオンが果敢に攻め続ける。それを軽々と受けて、躱して、反撃していくロジーナ。涼しい顔をしているロジーナと、汗だくのマリオンは模擬戦を続ける。
「とりゃっ! ッ!?」
「残念、遅い」
最後の力を振り絞って、マリオンが賭けの一撃に出る。それを一瞬にして、躱してマリオンの背後に回り込んでしまったロジーナ。
パワーだけでなく、スピードも圧倒的に早いロジーナ。背後に回って一撃を食らうまでマリオンは、ロジーナの姿を見失っていた。実力の差が著しい。
「負けました」
首筋に木刀を当てられたマリオンは、負けを認めるしかなかった。
「次。ラインホルトは、私に勝てたら特別に貯蓄してある特製の農作物を使った私の手料理をご褒美に食べさせてあげるわ」
「よっしゃ! やるぜッ!」
食い意地が張った子には、食べ物でモチベーションを高める。ちなみにロジーナの料理の腕前は、玄人と言っていいほどに高い。彼女の作った料理は本当に美味しくて、毎日食べさせてもらっている僕が周りから嫉妬され羨ましがられるほどだ。
そんな風に継続して子供たちの特訓を続けているうちに、レベルも上がっていったという訳だ。ただし、ロジーナも日々成長しているので彼女が実力で追いつかれる日は、かなり遠いだろう。
「私に勝つには、10年早いわね」
「ハァハァ、つえぇ、勝てねえよ」
「ゼーゼー、お、俺達では無理だよな」
両手を腰に当てて、胸を張ってハッハッハッと高笑いして勝ち誇るロジーナ。地面に仰向けになって倒れ込んで、ゼーハーと荒い息を吐きながら敗北感を味わう、子供たち。
「そして残念ながら、更に私の上にはクルトが居るからね。村一番の戦士になろうとすると先は長いよ」
ロジーナが、近くで見ていた僕を指差しながら子供たちに伝える。特訓を受けている彼らには、ある程度の実力は見せていたので、疑われるような様子はなかった。
「クルトさん、一体どれだけ強いんだよ。想像も出来ないや」
「だけど、いつか超えてやる」
子供たちから尊敬の眼差しで見られる。ちょっと気恥ずかしい。そんな様子を傍から眺めて、僕を強いと言い出したロジーナが嬉しそうに見てくるし。
成長意欲が高い子供たちは、どんどんと力を付けていって今や、村を飛び出ていったトルベン達を超える能力を手に入れる程になっていた。
もしかしたら、王都に行ったトルベン達も成長して、向こうで実力を伸ばしているかもしれないけれど、更に実力を伸ばした子供たちが居た。
王都に行ったトルベン達は、一応ネットで動向を探ってみたところ近況を知ることが出来た。
記事によれば、王都に最年少の騎士が誕生したらしく、それがトルベンらしい。彼は王都に行って活躍しているようだった。騎士にも成れたようだし、良かったと遠く離れた村から想っている。
いつか、彼らは村に帰ってくるのだろうか。戻ってきたら、王都での話を本人の口から聞けたらいいな。
***
そんな感じで、日常を過ごしている僕たちだった。そんな日常が続くと思っていたがしかし、また新たな騒動が始まろうとしていた。
「うっ、……んっ」
「さて、どうしたものか」
それは僕が、肩に農作業の道具を担いで畑に向かっている道中の事だった。
森の中を歩いていたら、地面に見知らぬ女の子が倒れているのを発見した。見つけてしまった瞬間、思わず僕はそう呟いていた。
倒れているけど、どうしようかな。勝手に手当をして、後から何か言われたら困るから。でも、倒れている女性を放っておくワケにもいかないか。一分間悩んで、周りには他に人が居ないのも確認して、助けることにした。
「おーい」
「うぅ……ぐぅ……」
何度か声を掛けてみたけれど、彼女の反応は呻き声を上げるだけ。
仕方がないので、僕は回復魔法を使って倒れていた女性を回復した。気絶したまま全く起きないが、少し彼女の表情が和らいだようにも見えた。
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