第8話 夜が明けて

 昨夜の出来事についておくびにも出さず、朝になったので畑仕事に出かけていく。今日は畑に種を植えていく。そしてお昼頃まで仕事をしてから、戻ってくると村の中が何やら騒がしくなっていた。


 何事だろうと向かって確認してみると、村の中央に兵士たちが居た。昨夜、見た者たちとは違う鎧だ。あれは、オルデナム王国の兵士だろうか。昨日の夜、調べた時に見た覚えがあった。


「クルト!」


 兵士たちの周りに、村人が集まっていた。そこに父親が居るのを見つけた。彼らは集まって何をしているんだろうと見ていると、向こうも僕を発見したらしい。父親に呼ばれたので、近づいていく。


「どうしたの?」

「この人達が話を聞きたいと」


 オルデナム王国の兵士が、一体何を聞きたいのだろうか。まぁ、薄々予想は付いているが、僕は知らないフリをする。兵士たちの中から一人が、前に出てくる。目立つ格好をしていてリーダーらしい者が、僕の目の前に立った。


「私はオルデナム王国騎士のテルムだ。少し君に聞きたいことがある」

「はい、なんでしょう?」


 テルムと名乗る男の口調は優しいが、鋭い視線を向けられて詰問されているような会話が始まる。


「この辺りにビサイン帝国の兵士が潜んでいると情報を得たのだが、お前は何か知らないか? 森の中でなにか見ていないか?」

「いいえ? 特に何も、見ていないですよ」


 男がジッと瞳を覗き込んできて何かを確認してきたのだが、僕はとぼけてテルムの瞳を見つめ返す。


「わかった、ご協力ありがとう。下がっていいぞ」


 そう言うと、彼はもう僕から興味を失ったのか後は適当にあしらわれて、兵たちのもとへ戻っていった。まぁ、開放されたのなら良いかと思って僕も父親のもとへ。


「いったい何ごと?」

「ビサイン帝国の兵士が攻めてきたらしい」


 緊張したような表情を浮かべて、父親が答えた。あれ? 昨夜のうちに全部を処理しておいたと思ったけど。見落としがあったのかな。


「近くの村が襲われたらしい」

「そうだったんだ」


 近くにある村に襲撃があったようだ。それで、オルデナム王国の兵士が僕らの住む村にも確認しに来たという。だが、僕らの村がまだ無事だったので、今は村人に聞き込みをして敵を捜索しているらしい。


「オルデナム王国の騎士様も居るから、今は村を襲われても安心だろうな。お前は、シッカリしているし大丈夫なんだろうが、村の外に行くときは一応気を付けておくんだぞ」

「わかった」


 森の中にビサイン帝国の兵士が潜んでいる可能性があるから。父親の注意は聞いておく。


 彼は、赤ん坊の頃に出た神託の結果から僕のレベルが100を超えているという事を知っているので、大丈夫だと言ったんだろう。今では、もっとレベルが上っているのは知らないだろうし、昨夜の出来事にも気付いていないと思うが。


 それから、しばらくの間オルデナム王国の騎士と兵士達が村に滞在する事に。彼らは、村の近くにビサイン帝国の兵士が隠れていると確信していて、森に入って行って捜索を続けるようだ。


 その様子を見ながら、僕はいつものように畑仕事をしてロジーと秘密特訓をする日々を過ごした。



***



 それからまた、しばらく経ったある日のこと。オルデナム王国の兵士が、森の中を捜索しているとビサイン帝国の兵士が川辺に倒れていたのを発見したらしい。捜索に手がかりが見つかったという。


 あぁ、アレが見つかってしまったのか。川に放り投げて証拠隠滅したけれど、流れきらず川辺に打ち上がったのかな。もう少し、ちゃんと処理しておいたら良かった。でも多分、僕の仕業だという事は気付かれていないだろうから大丈夫かな。


 本当に、村が襲われる直前だったのかもしれないと発覚して、村人が大騒ぎした。

そして、オルデナム王国の兵士たちには村を守りに来てくれたことを感謝する。


 それから、次々にビサイン帝国の兵士の死体が発見された。


 僕らの住む村を襲うために、彼らは国境を超えて侵入してきたのだろう。装備していた鎧や武器の準備具合から、形だけでなく本気だったと予想された。


 それなのに彼らは村を襲う前に何があったというのか。村を襲われる前に、誰かが守った。そして話し合いの結果、ビサイン帝国の兵士を倒したのはトルベンの仕業だという結論となっていた。


 村の中で一番レベルが高く、兵士と戦えるのが彼ぐらいしか居なかったから。


 濡れ衣を着せてしまったかもしれないと申し訳なく思っていたけれど、本人が特に否定もしていなかった。なので、僕は真実を打ち明けずに彼に背負ってもらう事にした。


 村人の誰もが真実を知らないまま、村を救ってくれたのはトルベンだった、ということが事実となった。

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