第7話 夜の出来事
「ん?」
新しい畑が完成した日の夜、僕は不審な気配をキャッチした。出来たばかりの畑をモンスターや野生動物に荒らされないようにと思って、念の為に仕掛けておいた警報のスキルがいきなり役に立った。
こんな夜中に何者かが僕の畑に侵入してきているらしい。野生の動物か、近くから寄ってきたモンスターだろうか。ちょっと確認しに行ってみよう。
夜なので寝ている両親を起こさないように注意して、音も立てないように息を潜めながら家を抜け出す。外には、村にモンスターが近づいてこないように見張りを立てていて、自警団員が明かりを焚いている。彼ら以外の村人は皆寝ているから、辺りはシンとしていて静かだった。
そっと村から出てきて、暗闇が広がる森の中をスイスイと進んで行く。畑の場所はしっかりと把握していたので、視界のきかない暗い森の中でも迷わずに進んでいけた。
完成したばかりの畑がある場所の付近に到着。まだ、種とか植えてないので作物に被害はないだろうけれど、出来上がったばかりの土を荒らされていたら気分が悪い。何も破壊されていなければいいけれど。
こんな夜中に侵入してきた何者かがイノシシとかであれば、狩って焼いて美味しく頂いてやる。
「そう思っていたんだけど……」
僕の視線の先には、明らかに人間の形をした者が居た。しかも、何十人も暗い森の中で明かりも点けずに彼らは息を潜めている。僕と同じように誰にも見つからないように、森の中に隠れている。
鎧も身に付けていて武器を手に持って完全に武装している。敵か味方か、判断するにはまだ情報が不足しているが、直感でコレはちょっと良くない予感がする。
「……とおりに……おそって……きょてんに……」
遠いし小声で聞こえにくいから、彼らが話している内容までは分からない。だが、なにか作戦会議をしている会話のように聞こえた。もう少し、集中して声を聞こうとした時だった。
「何者だ?」
「っ!?」
武装した鎧の男たちの方に集中していたから、背後から近づいてきた敵に声を掛けられるまで僕は気が付かなかった。
「ほう、子供のくせに中々筋が良い身のこなしだ」
「……」
何かされる前に一気に距離を離して、立ち上がり後ろに立っていた男の方へ向かい合う。男は顔を黒い布で隠して、黒のマントを身に着けて暗闇に紛れていた。暗殺者のような格好をしていた。
「この先にある村の子か。残念だが、死んでもらわねばな」
「なぜ?」
男は平坦な声で、僕の正体を言い当ててくる。しかも、いきなり殺されそうという状況。
「教えるわけにはいかない」
まぁ当然か。年のために聞いてみたけど、あまり答えが返ってくることは期待していなかったし、残念とも思わない。すると目の前の男は含み笑いをして、何かを語り始めた。
「フフフ、良いことを思い付いた。これから起こる残虐な行為を目の当たりにして、それを近隣の村に伝令する役目を与えてやろう。そうすれば貴様は生き残れるぞ」
「……」
これは、完全に敵なのかな。話し合いで解決しようとしたけれど、不可能だろう。だから仕方がないし、やってしまおうと考えた。
「っ、どこに行っ、ガッ!?」
僕は素早く身を屈めて、相手の視線を切って見失わせる。そして、一気に目の前に立っていた男の懐に飛び込んで、下から掌底を突き上げる。パワー全開で振り上げたのでバギッという音と、何かを砕いたような感触が手のひらに伝わった。
「意外と大したことなかったな」
背後を取られるという先手を打たれてしまって、主導権を握られていると思ったのに案外あっさりと倒せてしまった。黒衣装の男の他に、潜んでいる敵は居ない。今度は、背後を取られる心配はないだろう。
辺りへの警戒をちょっと強めてから、改めて鎧の男たちを観察する。アイツらは、一体何者なのか知りたい。
見えている状況から分かる情報、ちょっと鎧について調べてみよう。ネットで各国の装備一覧を検索して調べていくと、あの男たちが身に付けている鎧の紋章から隣国にあるビサイン帝国の兵士だ、という事が分かった。
こんな夜に紛れて、完全に武装して、国境を超えて侵入してきて、僕らの住む村を襲おうとしている。
ネットのニュースサイトを確認してみたけれど、僕が住んでいるオルデナム王国と隣国ビサイン帝国で戦争が始まった、というような記事はまだ出ていないか。でも、関係が悪くていつ戦争が起こってもおかしくない状況についての記事はある。
戦争は起こるだろうと言われているが、まだ起こったという事実はない。これは、宣戦布告をしないで奇襲によって戦争を仕掛けてきたのかな。僕は、そういう事だろうと予想した。
「いくぞ」
色々と考えて観察を続けていると、リーダーらしい兵士の号令で武装した兵士たちが動き出した。このまま放っておくと奴らは村を襲いに来る。だから僕はココで奴らを処理することに決めた。
側で倒れている男から黒マントを頂いて、自分の身体に巻きつける。これで暗闇の中に紛れるだろう。
「ガァッ!?」
「隊長!?」
号令を出した兵士に一息で飛びかかり、兜の上からガツンと頭を殴ってまず一人を仕留める。金属を素手で形が変わるほど強く叩いたので、大きな音が森の中に響いた。倒れた兵士が地面に落とした剣を奪い取って、装備する。武器を手に入れた。
「敵がいる、気をつけろ!」
暗闇で火を点けていないから、兵士たちは僕の姿を捉えられていない。そのまま、闇に紛れて奪った剣を振って、敵を倒していく。
「これで最後かな」
「グァッ!?」
時間にして三分ほどで27人の兵士を倒し終えた。こちらは傷も負わず損害なし。これが敵国の兵士かと呆気なく感じたが、レベルによる能力差が大きいのだろう。
倒した敵は、そのままにしておく訳にもいかず。近くに流れている激流の川まで、運んでポイポイポイと放り込んでおいた。遠くに流れて、後はモンスターとかが処理してくれるだろうから。
他に兵士は潜んでいないか、村の周りをぐるりと見回ってみて安全を確認した後。何事もなかったかのように、僕は家に帰って眠りについた。
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