第6話 それぞれの仕事
「ふぅ、こんなもんか」
目の前に広がった畑を見て、僕は満足する。木を切り倒して、切り株を掘り起こし取り除いてからクワで次々と土を掘り返していった。作物に適した土壌となるように整備してから、肥料と石灰を土に撒いて養分を調整する。ついでに畝を整えて水はけを調整すると、立派な畑が完成していた。
「ありがとうロジー。暑くなってきたから今日は終わろうか。疲れてないか?」
「大丈夫だよ。ちゃんと私はお手伝いできた?」
「うん、凄く助かったよ」
「良かった」
仕事を手伝ってくれたロジーナに、僕はお礼を言う。すると、彼女は役に立てたと喜んでいた。
僕ら2人で半日かけて作った畑は、結構な広さだった。おそらく村の大人だったら1週間ぐらい掛かる、かもしれない。しかし、僕たちは密かにレベルが上って肉体が強化されているので、常人の何倍もの力があったから作業スピードは段違いだった。あとは、ココに種や苗を植えて作物を育てていく。
父親が管理している畑は小さくて、僕が手伝いするとすぐに畑仕事が終わってしまう。なので、村から少し離れた場所に新たな畑を開墾した。これだけ広くしたら仕事も増えるだろう。それと、色々と実験してみたいこともある。この場所はロジーナと僕の2人だけの秘密の場所でもあった。
「村に帰ろうか」
「うん、帰る」
畑仕事を終えて、僕ら2人は家に帰ることにした。まだお昼前だが、これから暑くなってくるし、キリもいいので今日の仕事は終わり。村に帰って午後からはロジーナと特訓をする時間だ。
「楽しいの?」
「なんで?」
村へ帰る道中、ロジーナが僕に向けて突然そんな事を言った。彼女は、僕の顔を下から覗き込んでくる。
「顔が笑ってるから」
「うん、楽しいかな」
僕は笑っていたらしい。ゆったりとした平和な時間を過ごしていた。これがスローライフと言うような生活なんだろうと思う。今のような時間が僕の性格にはピッタリだった。ストレスも無くて、本当に生きやすい。だから自然と笑顔が浮かんでいたんだろう。
「おーい! クルト、ロジー!」
「やぁ、トルベン」
村の近くまで来た時、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。声が聞こえてきた方に視線を向けてみると、早朝から狩りに出かけていたトルベン達が戻ってきていた。
「今日は帰ってくるのが早かったな」
「獲物がいっぱい取れたから。今日の仕事は終わりだ」
確かに、トルベンも取り巻きの男連中も背中に大きな獲物を担いでいた。
「処理はしてきたか?」
「それが、やっぱり出来なかった。お前が代わりにやってくれ」
村の大人たちは、そのまま狩ってきた肉を食べている。けれど僕は、獣の臭みに慣れなかったので、トルベン達に血抜き処理の方法を教えていた。
ただ、トルベン達には何度か処理の方法を教えているけれど、彼らは覚えることが出来なかった。結局は、村に持ち帰ってきた獲物を僕のもとへと持ってきてもらい、僕が血抜き処理をする。
「分かったよ。すぐに終わらせるから、狩ってきた獲物をこっちに」
「おう、皆も血抜きが出来てない肉をクルトに渡してやれ」
どんどんと、僕の目の前には狩られた後の肉が集まってくる。時間が経過すると、死後硬直が始まり面倒になるから村に持ち帰る前にココで処理しておこう。
「ほら、こうやって、こうやるだけだ」
「なるほど、だが覚えられん」
改めて処理の方法を彼らの目の前で実践してみせるけれど、トルベンは作業を少し見ただけで無理だと判断した。本当は、覚えるのが面倒くさいだけじゃないのかな。
「ならせめて、狩った獲物はすぐに魔法か何かで冷やしてくれ。それだけでも、十分な処理になるから」
「分かった、獲物を冷やして持ち帰れば良いんだな。それなら覚えられる」
次々と処理していく。ほんの数分で処理は完了した。
「ほら出来たぞ。村に持って帰ろう」
「助かった、クルト」
そして、合流した仲間たち皆で村に帰る。合流する前は農業するチームと狩猟するチーム、その二手に分かれていた。子どもたちの中では僕とロジーナの2人で農業をして、トルベンと彼の取り巻き達が狩猟に出かける。
実は、トルベンから何度か狩猟に出かけるお誘いを受けたけれど僕は断っていた。狩りよりも、のんびりと農業している方が僕の性に合っているから。そして何度か彼のお誘いを断っているうちに、もうトルベンから誘う言葉を聞かなくなった。僕を狩りに連れて行くことを諦めたようだ。
こうして僕らは役割分担して、それぞれの仕事をこなしていた。
村に戻ってくると、外から獲物を狩って戻ってきたトルベン達は囲まれて村人から称賛の声が飛ぶ。僕は関係ないので、さっさと彼らから離れた。
「いいの?」
「いいの、ってなにが?」
ロジーナがまた、何やら意味ありげに問いかけてくる。一体何のことなのか分からないので聞き返してみると、こう言われた。
「クルトの方が本当は強くて凄いのに」
「僕はそんなに目立ちたくないから、これでいいのさ」
「ふーん、そうなのね」
ロジーナに僕の本心を答えると、彼女の方から質問してきたのにあまり興味がなさそうな言葉が返ってくるだけだった。そして、それ以上ロジーナから質問されることは無かった。
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