第5話 村の実力者

「XXX、XXXXXXXXっと、コレで皆のレベルアップは完了したかな」

「おう、ありがとなクルト」


 僕はトルベン達に神託を授けて、彼らを順番にレベルアップさせていった。


 本当は神殿に行って、ちゃんとした人から神託を受けないといけないけれど、僕も神託を授けられるようになったから、彼らはレベルアップに必要な経験値が貯まったと思ったら気軽に僕のもとにレベルアップのお願いをしに来る。


 ネットで神託の為の言葉を検索して、検索結果で出てきた言葉を唱えてみると神官でも何でもない僕でも、ちゃんと儀式を行うことが出来てしまった。というわけで、特別な技能が無くても、いつでも気軽にレベルアップの儀式を行えるようになった。しかも、自分自身もレベルアップが出来るようになったので非常に便利。


 そして今回の神託によってトルベンのレベルは44に上がり、取り巻き達のレベルもみんな30を超えていった。辺境の地にある村の戦力としては破格。しかも、まだ子供だし成長する見込みもある。村の防衛は完璧だった。


「特訓は? どうする」

「特訓はいいや。俺たちは皆で森に行ってモンスターを狩ってくる、じゃあな。オイお前ら、行くぞ!」


「「「おうっ!」」」


 僕は特訓しないかと提案をしてみたが、トルベンからは断られてしまった。最近の彼らはもっぱら、村の近くにある森に行き出会ったモンスターを狩って経験値を取得している。だから神託だけ受け取りレベルアップすると、彼らはすぐに僕らを残して行ってしまった。


「もう、クルトがせっかく特訓してくれるって言ったのに!」

「まぁまぁ、そんなに怒らないでねロジー。彼らは自分に見合った特訓方法を見つけたみたいだし、僕らは僕らでやろうか」


 一緒に居てくれたロジーナが、代わりに怒ってくれる。彼女はトルベン達に付いて行かずに僕の特訓を受け続けている。そして今日も、二人で特訓を始めた。


「よろしくおねがいします、クルト先生」

「うん」


 僕はロジーナに、いつものようにネットサーフィンして発見してきた色々な知識を教え込んでいく。どうやら知識は記憶するだけじゃなくて、しっかりと理解して学ばないと経験値にならないらしい。


 例えば、僕の前世の記憶によって知っている現代知識、経済学やIT技術についてロジーに教えてみたけれど、当然理解できなかった彼女は経験値を僅かしか得られなかった。


 それから農業の基礎知識や食べ物の基礎知識とかを教えてみると、ロジーナは普通に経験値を得られた。生活に関係する身近な知識だからなのか、彼女でも理解しやすかったみたいだ。


 この結果から考えると、しっかり教えを受けて知識を身に着けないと経験値にならないという事が判明した。ロジーナは、いつも僕の話をしっかりと聞いてくれて学んでくれているから、今でもしっかりと経験値も取得できている。


 しかし、トルベン達は最近になって僕の話を聞かないようになってきた。学びが出来ていないから、僕が教えても経験値を少ししか得ることが出来ない。


 そうしているうちに、モンスターと戦って経験値を得たほうが、より多く稼げると思ったらしい彼らは、森に出向いてモンスターを倒していき、レベル上げをするようになっていった。


 まぁ、それでも経験値は確かに稼げるし彼らにとって良いのかな。村の周りに居るモンスターも彼らのお陰で駆除できているし、村に住む人達にとっては助かっているから良いかと僕は結論付けた。


 今やトルベンのレベルは44となっていた。辺境の地で満足な生活を送るのも困難で、王国に行ってしっかりとした教育も受けていないのに、そんなレベルに達するのは称賛される程の結果だった。


 僕たちの住んでいる村にいる大人の最高レベルは、ベンの33だった。大人の彼を大きく上回って、子供のトルベンがレベル44に達して強くなっている。


 だから村の人達も子供だけれど実力のある彼を頼るようになり、頼られているトルベンも期待に応えようとしてモンスター駆除を頑張って働いていた。


 実を言うと、僕の特訓を受け続けていたロジーナのレベルが61に達している事は内緒だ。トルベンとロジーナが戦ったら絶対にロジーナが勝つだろうと、簡単に予想が出来てしまうぐらいの能力差があったりする。


 そして僕も、あれから鍛え続けてレベルが521という数値に達していた。今まで、モンスターとは数回ぐらいしか戦った経験がないのに。


 小さな頃から実力を見せないように生きてきて、今もごく一部の人しか僕の実力は知られていない。トルベンも、この事実は知らないだろうな。


 生まれた時に色々とあったから実力を隠して生きてきた僕のマネをして、ロジーナも本来の力を発揮しないで普通の女の子を装っていた。だから、この村にいる本当の実力者である二人について皆は知らない。


「今日は、この世界の歴史について続きを学ぼうか」

「わーい、楽しみ!」


 だって傍から見ても知識を学んでいる様子は、楽しく会話している、ぐらいにしか見えないから。戦う姿も村人達には見せていないし、やっぱり村の実力者はトルベンだと認識されているようだった。それは、僕が望んで出来た状況でもある。

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