第4話 クルトの日常

 神託を受けてからしばらく時は流れて、自分の足で歩けるようになると行動範囲も一気に広がって、言葉を話せるようになったら村の人達と会話して色々と知れるようになった。


 自分の住んでいる国の名前は、オルデナム王国という名前で間違いなかったとか。僕が住む村は王都から遠く離れた場所にあるという事とか。ネットワーク上にアップロードされていた世界地図から確認してみると、確かに僕が住んでいる村は王都から遠く離れた辺境の地にある場所だということが分かった。


 それから、赤ん坊の頃になぜあんなにもレベルアップする程の多量な経験値を取得していたのかも分かった。どうやら、この世界ではモンスターを倒して経験値を得る方法以外にも、知識を学ぶことによって経験値を得るという方法が存在しているらしい。


 ネットで調べてみて、レベルアップについて解説しているページを読んで分かった事だ。


 それから僕は、頭の中のネットワークから様々なサイトにアクセスして、この世界の知識を学んでいった。赤ん坊で一日中ベッドの上で身動きがとれないから、暇つぶしだと思ってネットサーフィンをしていたら、知らぬ間に経験値を稼いでレベル上げに繋がっていたようだった。


 そして今も僕は、目を閉じてネットワークに繋がったサイトを巡回しながら知識を学んでいる。これだけでレベル上げになるのだから、命を危険に晒してモンスターと戦って経験値を稼ぐ必要なんて全く無い。


「ねぇ、クルト。また寝てるの?」

「寝てないよ。どうしたの、ロジー?」


 木の根元に腰掛けていた僕は、声が聞こえて閉じていた目を開く。すると、目の前には女の子が立っていた。


 鮮やかな金髪のショートヘアで勝ち気そうな目、背は僕よりも少しだけ大きいけれど小動物な雰囲気がある。ちょっと猫っぽい感じもあった。そんな女の子の名前はロジーナ。同じ村に住んでいる、2つ年上の女の子だ。


 彼女が声を掛けてきた。どうやら僕は彼女に気に入られていて、いつも一緒に居るような子だった。


「トルベンが朝の仕事が終わって特訓するから、また教えて欲しいだって」

「分かった。知らせてくれてありがとう、一緒に行こうか」

「うん、一緒に行くっ!」


 可愛らしい声で返事をするロジー。そして、トルベンは僕より一つ年上の男の子。身体が大きく、腕っぷしも強くて将来は国に仕える騎士になるのを夢見て、日々戦うための特訓を続けている子だった。僕は、彼に戦いを教える先生と呼ばれていた。


「トルベン、来たよ」

「クルト遅い。もう皆で特訓を始めてるんだぞ」


 トルベンの取り巻きをしている男の子の軍団が集まっていて、手には木の棒を持ち斬り合いの練習をしていた。容赦なくお互いを棒で叩きあっている。子供の力だし、武器も棒切れだけれど当たると痛そう、打ち所が悪かったり下手すると怪我もしそうなほどだ。彼らは、それ程に本気で強くなろうとしているみたいだった。


「早く、ドラゴンに勝てるぐらいの強さになれるよう俺たちを特訓してくれ」

「僕が君たちに教えられるのは剣の振り方とか、戦いの動きじゃなくて戦い方だよ」


「? どう違うんだよ」

「僕の剣術は独学だしな。できれば、ちゃんとした師匠が居たらいいんだけど」


「この村にクルト以上に強い奴は居ないぞ。だからお前が俺に教えてくれ」

「村の自警団をしてるベンさんは? 村一番だとしたら、あの人でしょう」


「ベンには戦いを挑んで勝ったぞ」

「うぇ!? 村の大人を相手に戦いを挑んだのかい?」


「そんな事はどうでもいいから、早く強くなる方法を教えてくれよ」

「仕方ない。じゃあ、僕の知ってる方法を教えるよ」


 知っていると言うか、サイトから仕入れた知識を教える。こればかりは、絵と文字だけ見ても全部は学べない。インターネットで得られる知識の限界だから師匠となるような存在が居ればいいのに。


 でも、僕の知識を教えてあげて、学んでくれたらトルベン達は経験値を得られる、ということは実証済みだった。


「でもやっぱり、ドラゴンに勝つ程の力を得るのは無理だから。逃げ方とかを学んだほうが良いんだけどな」

「国を守るために、俺達は逃げる事はできない」


 トルベンの気持ちは、既に愛国心を持った騎士となっていた。時には逃げることも必要だと思うけどなぁ。僕ならそうする。


「わかった、それじゃあ僕の知っている簡単な動きだけ教えよう」

「よし、それを教えてくれ」


 そして特訓を始めようとした時、近くでジッと僕らの様子を見守っていた彼女にも声を掛ける。


「ロジーも一緒に教えよう」

「ダメだ! 女子供は戦いに出ちゃイケナイだぞ!」


 それに猛反対するトルベン。


「自衛できるように、少しは学んでおいたほうが良いよ。教えるだけで戦いに出さないからさ。それに仲間外れは可愛そうだよ」

「いいの?」


 離れた場所から、遠慮しているのか小さな声で許可を求めてくる。しかし彼女の目はキラキラと輝いて、一緒に戦い方を学びたいという意欲に満ちていた。悩んだ末にトルベンは答える。


「……勝手にしろ」

「ほら、こっちに来てロジー」

「うんッ!」


 僕が呼ぶと、トコトコトコと彼女が近寄ってきたので合流した。そして、トルベンと彼の取り巻きとロジーもまとめて皆で一緒に。ネットワーク上にある戦い方を解説してくれているサイトを参考にして、学んだ知識を教えていく。

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