第3話 村の英雄は隠された

 落ち着きを取り戻した老人は、再び僕の身体に手を触れて何かしら確認していた。どうやら見間違いの可能性を考えて、もう一度僕のレベルを確認しているようだ。


「間違いない、この子は英雄だ」


 老人の震える声。冷静になったと思われた彼の手が、尋常じゃない震え方をしている。触れられた肌から感じ取れた。


 そして僕は、英雄認定されたらしい。レベル100を超えているなんて、そんなになのか。ちょっとレベルについて調べてみよう。検索すると、この世界における成人男性の平均レベルが30から50ぐらい、らしい。


 そしてレベル100は、兵士や冒険者等のような実戦に立ち続けて鍛えてきた人間がようやく辿りつくような境地らしい。それが、生まれたばかりな赤ん坊の僕が既に100レベルを超えていると判明したら驚くのも無理はないだろう。


「この子は……、この子は、どうなるのですか?」


 心配そうな表情と不安そうな声で母親が問いかけると、神託の儀式を行った老人は答えた。


「通常は、才能のある子については王国に報告する。そして、優秀だと認められたら王都に招集される。質の高い教育を受けさせてもらえて、将来は国のために働く人材として育成される」

「そんな……この子は私達の子です。誰にも渡しません!」


 才能に優れた子供を集めて、教育を施して、行く先は国のために働く優秀な人材にされるらしい。生まれたばかりなのに、勝手に将来が決まってしまいそうな勢いだったが、話を聞いた母親は拒否してくれた。祭壇から僕の身体を抱えあげて、ギュッと抱きしめながら。彼女から深い愛情を感じた。


「どうにかなりませんか?」


 父親も僕らを守るように前に出て、反対する姿勢を見せる。僕も両親から離されて、国のために生きる未来なんて面倒そうで嫌だと思うから、もっと強く拒否してくれると助かる。


「……うむ、ワシも上に報告するつもりは無い」


 しばらく考え込んだ後に出した答えがソレだった。どうやら、老人も国に僕という存在を報告するつもりは無いと告白した。その理由を彼は、こう語る。


「生まれたばかりの赤ん坊が、しかも初めて受けた神託でレベルを100超えたと、そんな話は誰も信じないだろう」


 それ程に信憑性がなく有り得ないことらしい。老人の話はそれだけではなく、報告した場合の最悪な予想について説明する。


「万が一にも、この子の神託が真実であったと知られた時が厄介じゃ。王国の機関で研究対象として酷い扱いを受ける可能性もある」

「そんな……」

「それはダメです!」


 王国の機関ってなんだろう、ちょっと調べてみる。どうやら魔法やレベルアップ等について調べているオルデナム王国の研究組織の事らしい。サイトに記載されている情報によれば、人道に反した研究も多数実施されているという悪評が噂で国民に知られているという。


「報告しないで秘密にするとしても、注意しなければならないことがある」


 どうやら、ありがたい事に僕のことは秘匿されて報告しない方向で決着がつきそうだが、注意しなければならない問題があると老人が両親に忠告する。


「この子は、レベル100という並外れた力を身に付けた。それを村の人間に悟られないように、村人に牙を剥かないよう常に目を向けておく必要がある」

「私はこの子から目を離しません、絶対に。誓います!」


 確かに神託の儀式を受けた後からずっと、身体の奥底から力が湧いてくるかのような感覚があった。レベルアップすると肉体が強くなる、ってこういう事か。


 都合がいい事に、転生した赤ん坊の僕はしっかりと意識がある。老人の忠告も理解できるし、僕自身が力を発揮しないで隠して生活すれば良い。そうすれば、他の人に知られる心配もないだろう。


 僕がしっかりと意識があってよかった。まぁ、そもそも転生者じゃなければレベル100を超える事なんて無く、平穏に暮らしていたかもしれないが。


「よろしい。夫である君も、常に子供と彼女から目を離さずに気をつけてほしい」

「もちろんです。私の妻と子ですから」


 老人が母親だけでなく、父親の方にも念押しした。


「この子の存在は他言無用だ。この場にいる三人だけが知る事実」


 最後に、釘を刺すかのように口に出す老人。この場には両親と老人の他に、四人目の僕が居るけれど赤ん坊だし、今は話せないけどね。


「ありがとうざいます」

「私達は、誰にも言いません」


 こうして、初めての神託を受けてレベルアップで100を超えた僕の存在については、この場にいる者たち以外には隠された事実となった。僕としては面倒な事に巻き込まれないで済んで、本当に良かったと思った。

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