第2話 神託による新事実発覚
「クルト、今日は神託の日よ。どんな子に育つのか将来が楽しみだわ」
「俺たちの子だ。きっと素晴らしい才能に溢れているさ」
僕は名前を呼ばれて、母親の腕に抱きかかえられていた。これから、どこかに連れて行かれようとしている。普段は畑仕事等をして家に居ないから姿を見ない父親も、今日は一緒に並んで歩いている。笑顔で語っているので、めでたい事が始まるのだろうと思うけれど。
母親が口にしたキーワード。神託について、ちょっと調べてみよう。目を閉じて、頭の中でブラウザを開く。検索エンジンで”神託”という文字を入力して、検索をしてみた。ズラズラズラと約400,000件の候補となるサイトが並ぶ。
神託とは?
検索結果から一番上に表示された、調べるのにちょうど良さそうなページを見つけたのでアクセスして解説を読んでみる。ふむふむ、なるほど。
神託とは、神官により今までに得た経験値を神に告げてレベルアップを行う儀式の事を言う。この儀式を行わないと、いくら経験値を積んでいたとしても人間はレベルアップすることはない。
レベルアップすれば、肉体は強化され特殊な能力を得ることが出来る。
また、生まれたばかりの赤ん坊は生後二ヶ月以内には神託を受けさせるのが風習となっている。
乳児は病気に対する免疫が未発達で、ひとたび病気にかかってしまうと重症化してしまう恐れがあるから、レベルアップして赤ん坊の肉体を強くしておく必要がある。そうしないと命に関わる場合もあるので、なるべく早めに初めての神託を受けるのが望ましいから、そのような習慣が生まれたという。
なるほど、僕は今からレベルアップするために神託を受けに行くらしい。これで、身体が強くなって病気もかかりにくくなる。ありがたい事だ。
でも、一つ疑問がある。僕は生まれてから今までに、経験値を得た記憶がないんだけど。
それでも、ちゃんとレベルアップ出来るのかな。モンスターとか倒さないと経験値を得られないんじゃないか。経験値が足りないからレベルアップしなかった、という事態にならないかどうか心配だった。
だけど、他の赤ん坊もモンスターと戦えるわけ無いだろうし、経験値を得る機会は無いのか。赤ん坊に神託を受けさせる事が習慣になっているぐらいだから、生まれた瞬間から幾らか経験値を持っていてレベルアップできる、という感じなのかもしれない。
いろいろと可能性を考えてみるけれど、ハッキリとした答えはない。とにかく神託を受けてみて、その後にどうするか考えてみよう。
***
ということで、連れてこられた建物は教会のような厳粛な雰囲気を醸し出している場所だった。
僕の母親以外にも、同じように赤ん坊を胸に抱いている女性が何人か並んで待っている。その横には夫婦だと思われる男性陣が立っていた。その後ろに同じように僕の両親も並んで、順番が来るのを待つ。
「さてと、ちょっと持とうか」
「楽しみ」
めちゃくちゃ母親から期待されているが、その期待に沿えるかどうか心配だった。順番を待っている間に、どんどん不安が大きくなっていく。大丈夫だろうか。
列に並んで待っている赤ん坊と夫婦達が前から順番に案内されて、部屋に入っていく。そして暫く経ってから喜んだ顔を浮かべた男女が部屋から出てきた。あの部屋の中で、神託の儀式というモノを行っているのか。
儀式と聞くと大層なモノを思い浮かべるけれど、部屋の中に入っていった赤ん坊と夫婦は思ったよりも早く部屋から出てくるみたいで、時間はそんなに掛からないようだ。
「こちらです」
そして僕らの順番が回ってきた。頭巾を被り、全身を隠すローブ状のゆったりとした衣装を身にまとう、若いシスターのような格好をした女性に案内される。何を信仰しているのか分からないけれど。
甘い香りが漂っている部屋の中に入ると、そこに老人が一人で待ち受けていた。彼の手によって神託という儀式が行われるのだろう。
「赤ん坊をこちらに」
「よろしくおねがいします」
緊張した声でお願いしながら、母親は僕の身体を老人に渡した。喋れないから、僕も心のなかで同じように願っておく。よろしくおねがいしますよ、老人!
そして老人の腕から次は、部屋の中央にあった石の祭壇のような場所に置かれた。ゴツゴツしてて背中が痛いし、直ぐ側で何か燃やして炊いた煙が目に痛い。早く終わってくれ。
「この子の名は?」
「クルトです」
「XXX、XXXXXXXXX、XXXXXXXXX」
僕の名前を聞いた老人は、何やら聞いたことのない言葉を口に出す。意味は分からないけれど、これが神様に今まで僕が得た経験値を告げる儀式、ということなのだろう。
「おぉ」
「お願い」
父親が期待する目で僕を見て、母親はギュッと目をつむり、両手を目の前で組んで祈っていた。さて、結果はどうだろうか。
「な、なんと……こんな事が……」
突然、老人が腰を抜かしたのか床の上に尻餅をつき驚いた表情を浮かべていた。
「神官様!」
「大丈夫ですか」
両親が床の上に倒れた老人に駆け寄り、安否を確認していた。もしかして、そんなにダメだったのか。僕が普通の赤ん坊ではなく転生者だから、なにか問題が有ったのかもしれない。
「ぉぅ、ぁぇ」
言葉を話せないことがもどかしい。何が起こっているのか、僕の口から理由を問いかけられない。父親か母親、どちらか僕の代わりに老人が何に驚いているのか理由を早く聞き出してくれ。
「神官様、私達の子が何か……」
「こんな事、とは一体何なのですか? 教えて下さい!」
両親に問いかけれた老人は、沈黙を続ける。そんなにヤバい結果だったのか、しばらく黙っていた老人が、ようやく口を開いたら思いも寄らない答えが返ってきた。
「有り得ないことだが、この子のレベルは既に100を超えておる」
「な?!」
「そんなに!?」
両親が絶句している。彼らの期待に応えるために、レベルは低くないようにと願っていたけれども、逆にレベルが高すぎてヤバいかもしれない。
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