第16話 街の中

 街を発見した彼らは、近寄っていく。街の名前は分からないが、なかなかの規模。人も多く居るようだし、これは情報集収が捗りそうだとバハドゥートは思った。


「検問を行っていますね」


 シャルロットは馬車が並んでいる様子を発見して、皆に報告する。そして、こんな提案をした。


「色々と事情を聞かれるとマズイですから、別の場所から忍び込みましょう」


 ということで、4人は街の検問所を通らずに別の場所から街の中へと入り込んだ。裏通りの、静かで薄暗いような場所に出た。


「シャルロットさん、先ほど手に入れた戦利品をココに出してくれないか?」

「え? あ、はい。どうぞ」


 バハドゥートが突然、戦闘して得たモンスターの素材を出すように行ってきたのでシャルロットは言われた通りにアイテムボックスから、彼の目の前に取り出した。


 取り出されたモンスターの素材を、腕に抱えるバハドゥール。


「3人とも、チョット待っててくれ。すぐに戻ってくるから」

「どこにいくの?」

「お金を稼いでくるよ」


 そう言って、ミラベールの質問にも曖昧な答えだけ返して、3人をその場に残して居なくなってしまったバハドゥート。


「彼は、どこに行ったんでしょう?」

「逃げたんじゃねーか?」

「でも、戻ってくるって言ってたよ!」


 シャルロットは疑問に思う。彼も初めてきた街だと思ったが、慣れた様子で歩いていく様子を見て、もしかして知っている場所なのかもしれないと。


 ベリルは離れていくバハドゥートを見て、俺もあんな風にして逃げたら良かったと思った。


 ミラベールは、純粋にバハドゥートが戻ってくると信じていた。


「街の中、見に行こーぜ」

「ここで待ってないと、戻ってこれないよ」

「そうでねす、もうちょっと待ちましょう」


 律儀に、バハドゥートが戻ってくるのを待とうとするシャルロットとミラベールに付き合わされるベリルだった。


「なんだ、テメェら」

「おうおう、可愛い姉ちゃんが居るねぇ」

「……」


 しばらくバハドゥートを待っていると、ガラの悪い男たち数人が、ベリル達の目の前に現れた。男達は現れるなり、美人のシャルロットや美少女のミラベールに目線を向けて品定めをしていた。


「なんだ、兄ちゃんはビビって声も出せねぇか」

「今なら、痛い目を見る前に見逃してやるから。さっさと女だけ置いて、立ち去ってもいいぜ」

「気前が良いねぇ。俺なら、持ち金も全部置いて行かせるぜ」

「おっと、そうだった。金も大事だよなぁ」

「なんだ、忘れてただけかよ。馬鹿だねぇ!」


 何が面白いのか、ギャハハハと笑い出した男たちをしれっとした目で見るベリル。


「おい、何だテメェ。その目は」

「ハァ……」


 ベリルの目が気に食わなかったのか、因縁をつけて一発殴ってやろうと握った拳を振り上げて、接近してくる1人の男。


「ガハァ!?」

「ベル!」


 もちろん当たってやるつもりのないベリルは、身体を少し横にずらし近付いてきた男の首を掴んだ。ミラベールが制止する声も無視して、そのまま近くの壁に男を押し付けた。


「グウァォ!?」


 首を捕まれ呼吸が出来ない状況で、壁に押し付けられた衝撃で男は気絶していた。ベリルが手を離すと、ズルっと地面の上に座るような状態になっていた。


「テメェ!」

「おい、全員で掛かるぞ」

「女を確保しとけ」


 仲間が1人やられて、一気に殺気立つガラの悪い男たち。


「ベル!」

「先に仕掛けてきたのは、コイツだろうが。それに今回は気絶させただけで、十分に手加減してるだろう!」

「偉いよ! ベル」

「褒めるのかよ。それと、俺の名はベリルだ。さっきから何度も間違えてるぞ」


 そんな状況の中、和気あいあいと会話をするベリルとミラベール。ちゃんと手加減したベリルを、しっかりと褒めるミラベール。名前は間違えているが。


「おい、女!」

「チッ」


 シャルロットの方に男が1人接近して、強引に腕を掴もうとする様子を見たベリルは、仕方ないから助けに入ろうとしたけれども必要なかった。


「い、痛えッ!? な、なんだこの女。力がヤバいっててててて!?」

「これに懲りて、もう人を襲っちゃ駄目ですよ」

「わ、わかったから……」


 腕を取られて、地面に倒れ込み上から押し付けられる男。ガッチリと捕らえられて逃げ出すことが出来ないまま、忠告される。痛みで涙目になりながら、離してくれと訴える男。


「コイツら、やべぇ。逃げるぞ」


 シャルロットが男の腕を離した瞬間、パッと立ち上がって距離を取られる。そして恐怖した視線をシャルロット達に向けながら、仲間に逃げようと言う。まだ何もしていないミラベールにすら、怖がっていた。


「おい、逃げるならコイツも一緒に連れてけよ。邪魔になるから」


 地面に座り壁に背もたれ首をガクンと垂らした男を指して、持って帰るように言う。


「……」「……」「……」


 ガラの悪い男たちは現れた時の騒がしさが一切なくなって、口を閉じてあっさりと退散していった。ベリルが言った、気絶した男もちゃんと担いで行く。


「おい、まだかよアイツは」

「もうすぐ、帰ってくるよ」

「もうちょっとだけ、待ってあげようね」


 そして、何事もなくバハドゥートの帰りを待ち続ける3人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る