第6話 休憩

「はぁ、はぁ、さ、さすがに、疲れました」


 戦い続けたジョゼフは、膝に手を付き額からは大量の汗を流しながら限界だと白状した。


「ハハッ。まだまだ弱いねぇ、ジョゼフく~んは」

「っく……」


「コラ! 煽らないの。そうね、一旦休憩にしましょうか。ジョゼフくんは、休んでおいて」

「すみません」


「良いの良いの、心配しないで」


 そう言われたけれど、最初に自分が音を上げないと休憩なんてなかったと感じて、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。そして、ベリルから容赦なく煽られる言葉を聞いて若干イラつく。


「ジョゼにぃ! コッチに来てー」

「ふぅ、ありがとう」


 聖域を築いて、モンスターが入ってこられないようにする特別な休憩場所の用意をしてくれていたミラベール。彼女が呼んでいる場所まで、なんとかたどり着いて腰を下ろすジョゼフ。


「はい。飲み物を飲んで、休んで休んでー」

「ありがとう、ミラちゃん」


 飲み物まで用意してもらって、何から何まで至れり尽くせりだった。ダンジョンの中で、こんなにリラックス出来るのはシャルロット達とパーティーを組んで潜った時ぐらいだけだ。


 他の冒険者では、こんなに周囲への警戒を解いて落ち着くことは出来ないだろう。それが普通だった。ここに居る3人が異常だった。5年も冒険者をやってきた経験があったジョゼフでも、彼女たちのペースについていくのがやっと。


 彼らと一緒にダンジョンを潜っていければ、一つ大きくレベルアップできるような気がしたから、ジョゼフも必死だった。


「ジョゼフくんが休んでいる間に、ミスリル金属の回収をしましょう」

「えー」


「回収するの。夕飯も、美味しいご飯を作ってあげるから、ね」

「はーい、わーったよ」


 シャルロットに言われて、渋々働くベリル。2人は粉々にしたモンスターの残骸をアイテムボックスの中に次々と収納していった。並の冒険者なら、一生かけて集めるような量が数時間で集まっていた。


「お疲れ様、ベリル、ミラ。後、ジョゼフくんも」

「うーっす」

「おつかれ、ママ」

「お疲れ様です、皆さん」


 ミスリル金属の回収が終わると、2人もミラベールの築いた聖域まで退避してきて休憩に入る。


「丁度いいから、お昼ごはんにしましょうか」

「ごはんー!」「メシっ! 腹減った」


 今度はアイテムボックス内から取り出す。朝の支度で作っておいた、手間を掛けず短時間で食べることが出来る食事。早速、ミラベールとベリルの2人が遠慮なく食べ始める。


「あ、しまったな。食料を持ち込むのを忘れてしまった」

「大丈夫、ジョゼフくんの分もあるからね」


「本当ですか? ありがとうございます」

「いえいえ、私達が誘ったのも急だったしね」


 シャルロットから分けてもらった食事に感謝しながら、皆で昼食の時間を過ごす。ジョゼフは再び、ダンジョンの中だとは思えない落ち着いた空間に違和感を覚えつつ昼飯を食べた。



***



「それにしても、やっぱり便利ですよね。そのアイテムボックスって魔法」

「そうねぇ。この魔法が使えなかったら、ダンジョンから地上へミスリル金属を持ち帰るのは大変だものね」


 ジョゼフは羨ましがる。


「僕に、その魔法を教えてもらう事って可能ですか?」

「うーん、これはねぇ、ちょっと」


 アイテムボックスという魔法を使いこなすには、非常に多くの魔力が必要だった。人間では決して有し得ない、膨大な量の魔力が。勇者であるシャルロットは、特別なスキルによって人間でもアイテムボックスの魔法を使うことが出来ていた。


 そして、悪魔であるベリルは大量の魔力を有していたのでアイテムボックスの魔法を使いこなす事ができていたのだ。


 ちなみに、ミラベールとバハドゥートの2人も使い方を習ってアイテムボックスの魔法を覚えていた。2人とも人間ではなく、ドラゴンと天使だったから魔力を大量に有していたので使いこなすことが出来ていた。


 残念ながら、ジョゼフは勇者じゃない人間なのでアイテムボックスの魔法を覚えたとしても使いこなす事が出来ないだろう。


「流石に、無理ですよね」


 アイテムボックスという便利な魔法、シャルロット達に出会うまでは知らなかったジョゼフ。ベリルはさっきミスリル金属を回収している時に使っているのを見たし、ミラベールが使っている場面を彼は目撃した事があった。つまり、アイテムボックスという魔法は一家相伝の秘術なのだろうと彼は理解した。


「普通の人間には使いこなせねぇよ。残念だったな、ジョゼフ」

「コレでも、そこそこ名の知れた冒険者なんだけどね……」


 ベリルに指摘されて、流石に落ち込むジョゼフ。


「ちょっと、ベル! しー、だよ」

「あ、う、そうだったな……」


「う、ミラちゃんにも気を遣われてしまったか。……もっと、強くないたいな」


 悪魔であるベリル、天使であるミラベールの2人は種族を隠して普通の人間として振る舞って生活していた。ミラベールが慌てて、ベリルに向けて口に指を当てて黙るように伝える。


 ベリルは普通の”人間”という意味で言ったのだが、聞いたジョゼフは”普通”の人間だと言われて煽られたと勘違いしていた。


「きゅ、休憩もそろそろ終わりにして、ミスリル金属の回収を再開しましょうか!」

「そうしよう!」「行こうぜ」


 シャルロットも慌てて話題を変えようと、モンスター狩りの再開を提案する。全力で賛成するミラベールとベリルだった。


「はい、今度はもっとお役に立てるよう頑張ります」


 ジョゼフは意気込んで、モンスターとの戦いに立ち上がった。そして4人は、再びミスリル金属製のモンスターとの戦いを開始した。

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