第5話 圧倒的な力
地上にある古代遺跡の奥に進んでいくと、ダンジョンの入口がある。地下に永遠と続いている迷宮。そこにモンスターが無限に発生して、ダンジョンと化していた。
「お、お疲れさまです! シャルロットさん、ジョゼフさん」
「入っても良い?」
「ど、ど、どうぞどうぞ! ご自由に入って下さい。はい!」
ペコペコと頭を何度も下げる、入口で警備をしている兵士の青年にシャルロットが許可をもらって、4人はダンジョンの中に足を踏み入れた。
シャルロット達の目的は、ダンジョンの奥に進んでいってミスリル製のゴーレムを倒して残骸を持ち帰ること。このミスリルという素材が、非常に有益で需要が高い。ミスリル製のモンスターは、上階層には出現しないので地下へ続く階段を見つけては一気に下へと潜っていく。
彼女たちは、日が暮れる前にはミスリル製モンスターが発生する階層まで進んで、大量にモンスターを倒してから、地上に戻ってくるつもりだった。普通の冒険者ならこんな危険な事はしない。この4人組のパーティーだからこそ出来る事だった。
「最近、このダンジョンに潜る冒険者が増えましたよね」
「そうみたいね。私達が知ってる頃は、人がぜんぜん居なかったから驚きだわ」
途中で遭遇する冒険者達を見て、ジョゼフが言う。それに答える、シャルロット。彼女は、このダンジョンに人が居る光景を見るというのが新鮮だった。数ヶ月前までは、人が全く居なかったから。
「このダンジョン攻略に冒険者達が戻ってきたのも、シャルロットさん達のお陰ですもんね。もっと言うと、ウィシュトシュタの都市に冒険者が戻ってきたのも」
「偶然、そうなっちゃったけれどね。でも、主に貢献したのはバルさんなのよ」
ジョゼフの褒め言葉に対して、謙遜して夫のバハドゥートを立てるシャルロット。
「バハドゥートさんも、すごい人ですよね。今も色々と、商業都市を発展させる為に働いている。今日は、一緒にダンジョン攻略には来れなかったんですね」
「今は、都市の偉い人と話し合いをしていると思うわ」
「へぇー、やっぱり凄いなぁ」
「うん、あの人は凄いわよ」
少し自慢げになって言うシャルロット。素直に夫の事を自慢する彼女の姿を見て、羨ましそうな目を向けるジョゼフだった。
「おい、皆。あそこに次の層へ進める階段を発見したぞ」
「ベリル、ナイス。了解した」
「すぐ次に降りましょう」
「いこーいこー!」
ベリルの報告を聞いて、進む道が決まった。皆、どんどん臆さず先に進んでいく。
ごく普通の冒険者が見れば、無謀だとハラハラするような猛スピードでダンジョン内を突き進んでいく4人組パーティーだった。
***
「いたわね。それじゃあ、いつも通りに突っ込んでいく!」
「頑張ってママー!」
「年だから、無理すんなよー!」
金属の見た目をしているのに、機敏に動くモンスターを発見した。今まで、子供達の見守り役だったシャルロットが、最初から一番前に突っ込んでいった。応援をするミラベールの声と、煽るベリルの声を背中に受けながら猛スピードで接近する。
背負っていた大剣を振って、集団の狼型をしたモンスターの中に突っ込む。外殻を覆うミスリルを叩いて粉々に砕き次々と絶命させていく。
「わーい、倒したー」
「よっしゃあっ!」
一番中央に立って暴れまわるシャルロットを援護するように、ミラベールとベリル2人は集まってくるミスリル製モンスターに向けて魔法を放って破壊していった。
(やっぱり、この家族とんでもないな……)
目の前の光景を見て、ジョゼフが抱いた素直な感想。
女性でありながら、重そうな鎧を身にまといながら機敏に動き、ミスリルを大剣で叩き割れるほどの筋力を持つシャルロット。しかも、一瞬たりとも動きを止めず剣を振り続けるスタミナは驚異的だった。
魔法反射の性質がある筈のミスリルを、お構いなしに魔力で押し切って破壊する、ミラベールとベリルの超強力な魔法。それを軽々と連発していく2人を見ていると、恐怖すら感じる。
「って、どうしたジョゼフ? 戦わないのか?」
「……ぁ、うん。今行く」
シャルロット達が戦っている様子を観察していたジョゼフは、ベリルに呼ばれ気を取り直して戦いに加わった。
集まってくるモンスターは次々に倒されて、辺りには粉々に砕けたミスリルの山が出来上がっていった。今日、ダンジョンに潜ってきて手に入れようと目標にしていた品物だ。
冒険者として、そこそこ名も通っていて実力があると思っていた自分の能力と比較してみても、この場にいる3人には勝てないと思う。圧倒的な力の差に畏怖しながらモンスターとの戦いに参加した。
「気を付けてね、ジョゼフくん。疲れたら、休んでいいから」
「ありがとうございます」
一番前に出ていって、戦闘で活躍しているシャルロットから気遣われるジョゼフ。友人の母親でもある人に気遣われて、ちょっとだけ情けない気持ちになる。
「頑張って、ジョゼにぃ!」
「ありがとう、ミラちゃん」
可愛い声で応援してくれるミラベール。彼女の声を聞いていると、ちょっと元気が出てきた。
「へい! もう音を上げるのかい、ジョゼフくぅ~ん」
「っ!? イラつく奴だぜ。全くっ!!」
ベリルの煽る言葉を聞いて、普段は沈着冷静なジョゼフも珍しく怒りがこみ上げてきた。怒りをパワーにして、モンスターを倒していく。
余裕綽々の3人と、ちょっと余裕がないまま戦い続ける1人という4人パーティーでミスリル製モンスターとの戦いは、しばらく続いた。
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