第4話 冒険者仲間と修道女
「こんにちは、みなさん」
3人がダンジョンに向かって歩いていると、彼らの姿を見かけた青年が優しく声を掛けてきた。
「よー、ジョゼ」
「こんにちはジョゼフくん」
「おはよう! ジョゼにぃ」
ベリル、シャルロット、ミラベールの順に挨拶をする。ベリルは特に親しそうに、冒険者仲間でもあるジョゼフに声を掛けていた。
「これからダンジョンですか?」
「そうだぜ」
ベリルはジョゼフの質問に頷いて答えてから、こんな提案をした。
「何だジョゼ、1人で暇なのかよ。お前も、俺達と一緒にダンジョン行くか?」
「あ、行きたいな! 僕も一緒に行っていいですか?」
ジョゼフはベリルの提案に乗り気だったが、一旦冷静になり他の2人にもちゃんと確認をした。
「そうね、ジョゼフくんは実力もあるし問題わ無いわね。一緒に行きましょうか」
「ジョゼにぃも一緒に行こ?」
問いかけられたシャルロットとミラベールも歓迎して、ジョゼフの同行を快く承諾した。
「それじゃあ改めて今日は、よろしくおねがいします」
こうして朝出会ったばかりなのにもかかわらず、ダンジョンに潜る仲間として急遽誘って、4人パーティーを組むことになった。
***
「おはようございます、皆さん」
再び、朝の挨拶が聞こえてきた。シャルロット達に声を掛けてきたのは、修道女。ダンジョンの近くにある修道院の前で掃除をしていた少女だった。
「マリアさん、おはようございます」
「マリアちゃん、おはよう」
4人組パーティーの女性達が挨拶をする。そして、少し離れた場所に立つベリルとジョゼフ。
「ん? どうしたの、ベリル」
「い、いや? どうもしてねぇよ」
修道院の前に来た時から、普段と明らかに違う様子のベリルに気付いたジョゼフが問いかけてみるが、彼は強がって答えなかった。
「今朝、やっとあのお花が咲いたんです」
「やったねマリアちゃん!」
「はい! ありがとうございます。ミラちゃんのお陰だよ」
「ううん、マリアちゃんの努力あってこその結果だよ。とにかく、やったね!」
「やりました!」
マリアとミラベールの2人が盛り上がって会話している横で、ニコッと笑顔を浮かべて嬉しそうに見守っているシャルロット。そんな女子3人の更に遠く離れた場所に、ベリルとジョゼフがポツンと立っていた。
「……」
「女子たちは楽しそうなのに、僕らは静かだねぇ」
「……」
ジョゼフの指摘に、口を閉じたままのベリル。話そうとしていない。
「「ベリルも、ちゃんとマリアちゃんに挨拶」」
「う」
存在を消してやり過ごそうとしていたベリルは、シャルロットとミラベールの2人に見つかってしまった。呼び出される。
「どうも」
「お、お、おはようございます。ベリル様」
仕方なく近寄っていって、そっけなく挨拶を済ませるベリル。対して、顔を真赤にして何とか挨拶をしたマリア。
「……」
「……」
シャルロット、ミラベール、ジョゼフが見守っている中で黙って見つめ合う2人。
「怪我、大丈夫ですか?」
「え? 怪我? あ、いえ、あの時は何も無かったので大丈夫です。ありがとうございます」
「そうっすか」
「はい」
「……」
「……」
何とか会話を繰り広げようと挑戦したベリルだったが、すぐに会話は終わってしまう。2人の間に、気まずい雰囲気が流れる。
「じゃあ、俺は行きます」
「は、はい。気を付けて、行ってらっしゃいませ」
結局、ベリルはその場から立ち去るという選択肢を選んだ。
「「はぁ……」」
「なるほどね」
がっかりした様子のシャルロットと、ミラベール。そして何かに気付いたジョゼフが居た。マリアと別れて、皆よりも先にダンジョンへ1人で向かっていったベリル。遠ざかる彼の後ろ姿を、ぽーっと見つめ続けるマリア。
「それじゃあ、マリアさん。私達も行ってきます。修道院のお仕事頑張ってね」
「あ!? は、はい。みなさん、お気を付けて。怪我のないように」
「マリアちゃん、行ってくるねー」
「うん。ミラちゃんも、怪我しないように気を付けてね」
「おはようございますマリアさん、僕も行ってきます」
「え、あ!? い、いらっしゃったのですねジョゼフさん。ごめんなさい、気付かなくて。ジョゼフさんもダンジョンには、気を付けてください」
シャルロットに呼びかけられて我に返るマリア。直前までずっと、一緒に居る事に気付いていなかったジョゼフの存在に、ようやく気が付き慌てながら3人を送り出した。
***
「それじゃあ、みんな。これより先は気を引き締めてね」
「うい」
「はーい」
「はい。シャルロットさん」
ダンジョンがある、古代遺跡の前に到着した4人。ここから先、危険なモンスターも出現するダンジョン内部だった。
シャルロットの忠告を聞いて、ちゃんと気持ちを切り替えるジョゼフ。まだまだ、楽観的な様子を見せるミラベール。気が引き締まっているように感じない、軽い返事で済ますベリル。
「じゃあ、行きましょう」
シャルロットは特に彼らの態度を指摘することもなく、皆で一緒にダンジョン内に足を踏み入れようと指示を出した。
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