第7話 普段の生活と訓練風景
召喚された者たちには、それぞれに生活するための部屋が用意されていた。そこで寝泊まりしてくれと案内された。
ベッドとテーブルに、イスだけ置かれているような殺風景な部屋だった、生活するために必要最低限だけを揃えたというような、とても簡易な部屋だった。まぁでも、広さはそこそこある。小さいけれど窓もあったので、生活していくのには十分な空間だった。
それから、異世界に召喚された者たちの生活が始まった。
魔人種と戦うことを決めた者たちは、戦えるように訓練することになったらしい。俺は戦いを拒否したので、訓練にも参加はしなかった。外野から、彼らが訓練をする様子を眺めている。彼ら、かなり厳しそうだ。召喚された者たちのリーダー的存在の結城が皆を鼓舞して訓練に励んでいる。
剣の持ち方や振り回し方を教えられていた。その他に、弓の扱いや魔法の使い方について学びながら何人かでパーティーを組んで、チームワークを鍛えている。
彼らは本気で戦うつもりのようだった。この世界の住人を助けるつもりで、必死に訓練に参加している。ご苦労なことだ。
俺は戦うことを拒否したので雑用係に任命されたのだが、雑用の仕事があるというわけでもなかった。
召喚された者たちが訓練をしている間、俺は自由行動をとることを許されていた。というよりも、魔人種との戦いでは戦力として期待できないから放置された、という方が正しいだろうな。
そんな感じで俺の生活は、朝から晩まで好きなようにしていい、自由時間だった。
あまり美味しくない朝飯を食べた後、その辺りを散策しながら情報収集をしつつ、訓練している様子を眺めてみたり、書物を読む許可を得て色々と調べたりしていると時間が経過していった。
マイアドナという異世界、マンドスシリアという国について、その他にも人間種と魔人種との戦いの歴史などなど。本から得られる知識を、順調に吸収していく。
ただ、勝手に読んでもいいと許可を出された書物は全て、人間にとって都合が良いように書かれすぎているように感じた。マンドスシリア以外の国については、印象が悪くなるように書かれている気がする。
ここで得られた情報だけを信じるというのは、かなり危なそうだと感じた。
もっと他の場所へ行って、色々と調べてみたい。他所で得た情報と今現在の知識を照らし合わせて、マンドスシリアという国についての評価を下したい。
そういう事情を隠しながら、せっかく異世界に来たのだから他国に行ってみたい、旅に出たいというような要望を老人アルチバルドに伝えてみると、即却下された。
「この世界は、非常に危険です。他国に行く旅も危険が伴います。戦うための訓練に参加していない貴方を、外の世界に出すことは許可できません」
召喚された者たちを、大事に扱っているというアピールのように聞こえる。勝手に外に出ていったら駄目だ、ということらしい。外へ行くことを制限されているので、軽く監禁されているような状況。
かと言って、何も言わず勝手に飛び出すのはタイミングが早いか。もう少し準備を進めてから、機会を伺って姿をくらまそう。そう考えていた。
「外に行きたいのでしたら、貴方も訓練に参加してみたらどうですか?」
「遠慮しておくよ」
まだ俺が戦いに参加することを諦めていないようで、アルチバルドは事あるごとに訓練への参加を促してくる。俺は、何度言われようとも参加を断り続けた。
魔人種との戦いには参加しない、という強い意志を貫き通した。そんな俺を異世界から召喚してしまったアルチバルドは、非常に面倒だと思っているだろうな。けれど関係ない。
夜になると、訓練で疲れた様子を見せる召喚された者たち。彼らは夕食後、すぐに寝る。こちらの世界だと夜ふかしするほど楽しめる娯楽は少ない。インターネットもテレビもゲームも無いから。明かりも少ないので、外は真っ暗。日本に居た頃の夜と全然違う。
それに彼らは、魔人種と一日でも早く戦えるようにと訓練を頑張って、疲れた夜はぐっすりと眠って癒やす。そういう生活を送っていた。
ちなみに俺は、夜になったら部屋から無断で抜け出して、誰にも知られないように注意しながら隠れて、自主練していた。
異世界でも生き残れるようにするため、密かに戦えるようにと自分を鍛えていた。魔人種との戦いは拒否したけれとも、今後の展開によっては色々と巻き添えを食らう可能性がある。その時に備えて、戦えるようにしておいたほうが良いと思ったから。それに姿をくらませた後、世界各地を巡るためには力が絶対に必要らしいから。
昼間に訓練している様子を眺めながら、色々と参考にさせてもらっている。そして最初は、自分の能力を確認してみるところから自主練を始めた。
異世界に来て驚いたことの1つは、なぜか俺は20代頃の俺の姿に若返っていた、ということ。どういう理屈でそうなったのか分からないけれど、顔の皺が消え去って若々しい見た目に変化していた。
身体も非常に軽くなった感じがある。この世界に召喚された瞬間、身体の奥底からエネルギーが溢れ出ているような感覚があった。それは今も変わらず。
昼間見て学んだ剣の振り方も、少しだけ練習すればすぐに習得することが出来た。もしかすると、若くなったおかげで知能も若い頃に戻っているのかも。
それから、異世界に来て驚いたことがもう一つ。理由は分からないけれども、俺は魔法を使いこなすことが出来るようだ。魔法に関する知識について、訓練で見たり、書物などで学習する前に理解していた。
身体が若返ったこと、知らない間に魔法の知識が完璧で使えるようになったこと。これはアルチバルドの言っていた、上位の世界から召喚された者たちが強力な能力を持っているということなのだろう。
俺の場合は強靭な肉体と、魔法という特殊能力を得たらしい。
そんなの能力があるとバレたら、強引に魔人種との戦いに巻き込まれるだろうな。こんな力があるんだと周りの人間には知られないように、しばらくの間はおとなしくしておくかな。
そして今日も辺りは真っ暗で誰も来ないような場所を選んで、一人で黙々と訓練を積み重ねていった。
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