第6話 協力拒否

「俺は、戦いへの参加を拒否します」

「「「え?」」」


 召喚された者たちが一斉に振り返って、俺の顔を凝視する。魔人種を倒し、人類を救おうと盛り上がっている最中に水を差すような発言を口にしたから、彼らは驚いたようだ。


「戦うのは嫌なので、俺はパスで」


 どうやら俺は異世界に召喚されたらしい。異世界というものが何なのか、イマイチ把握できていなかった。ただ、元の世界に戻れないということだけは理解していた。


 そんな異世界に召喚された俺たちは、とある国の鉄砲玉として働かされようとしている。人類の危機だか何だか知らないけれど、よそ者を召喚するという強引な手法で連れてこられて、見知らぬ敵と戦うようにと指示される。そんな勝手な都合に、従う必要なんて無いだろう。


 召喚して偶然手に入れた人材だから、戦いに負けて死んだとしてもマンドスシリアという国は何も困ることがない。死んでも、よそ者だから損害はないという理屈だ。人材を損失することなく、勝負を仕掛けることが出来る。それで戦いに勝てたのなら万々歳という訳なんだろうな。


 引き受けても何のメリットもないような仕事だ。そんな仕事を受けるはずもなく。俺は召喚された者たちの中で唯一、魔人種という敵との戦いを拒否した。


 だが、そんな俺の選択を許さない者が居る。


「なぜですか? この世界に生きる人達が危険に晒されているんですよ?」

「別世界の人間の危機だ。俺には関係ない。だから、戦いには参加しない」


 いつの間にか、召喚された者たちのリーダー的な存在になっている結城という名の青年が、参加しないと言う俺に責めるような視線を向けてくる。しかし、そんな目を向けられても参加するつもりはない。


「どうしても貴方は、魔人種との戦いには参加しないつもりですか?」

「そのつもりだ。すまないが、俺は誰かと殺し合うだなんて怖いから出来ないよ」


 敵と戦うのが怖いからという理由で、戦いには参加しないと拒否し続ける。何度か説得して、どうにか俺を戦いに参加させようとする。だが全て拒否した。


 結城が召喚された者たちを扇動して、魔人族と戦うという流れになってしまった。彼に対する印象は最悪になった。そんな青年に影響されて、この先何が起こるのかをロクに考えもせず、戦う気になっている者たちも馬鹿だとは思うが。突然の出来事に混乱しているから、判断力が鈍ってるのかな。それなら仕方がないかもしれないが。


「僕たちでも戦えるような力が備わっているのに、それを人のために役立てようとは思わないのですか?」

「なんと言われようと、俺は参加するつもりはない」


 その強力な力というものも、後でちゃんと確認しておかないといけないだろうな。異世界に来たことによって、強力な力が身に付いているらしいが。何が出来るようになったのか、しっかりと自分の能力を知っておかないと。




 結城という青年が繰り返し、しつこく説得してくる。そんな彼の言葉を何度聞いたとしても説得に応じるつもりはなかった。青年側についている学生やサラリーマンの大人たちも、全員で俺を責めるような視線を向けてくる。だが、それだけでは自分の意見を変えようとは思わない。


 そもそも、この世界の人間とは何の縁もゆかりも無い。ただ、勝手に召喚をされて連れてこられただけだ。むしろ、俺たちは被害者だろうに。俺たちを助けるために、この世界に来る原因となったアルチバルドが、俺たちが元の世界へ帰還できるような方法を見つけようと働くべきだろう、と思う。


 それがなぜ、この世界を救うために戦って、元の世界への帰り方でさえ自分たちで見つけ出せ、と言われる始末。


 そんな無関係で、無遠慮な人間たちを助ける義理なんて全く無い。それでもなお、俺を戦いに参加させようと説得してくる生意気なガキに、そう言い放ってやりたいと思った。だが、それを言ってしまうと色々と面倒な事になるのは目に見えているので黙っておく。


 無駄な争いは、なるべく避けておこう。俺の知っている世界で長く生きていくためには極力、無駄な戦いを避けて生きることが大事だと学んできたから。


「他人よりも自分の命のほうが大事ですから。俺は、もっと生きていたい」

「それでも大人なんですか? 学生である僕たちが参加しようとしているのに」


 やりたい奴だけで、勝手にやってろよ。俺を巻き込むな。そんな乱暴な言葉が頭に思い浮かんだが、俺は曖昧に笑って口を閉じる。


「彼がこれだけ言っているのに、参加しないってマジ?」

「そうだぞ! 臆病者!」

「ここは、皆で協力するべきじゃないですか?」

「空気を読めない男だな」


 ついには、結城と同じく戦いに参加する気になっている者たちからの罵声が飛んできた。それでも結局、俺は魔人種との戦いへの参加を拒否し続けた。


「戦いに参加するつもりは、一切ないです」


 場が荒れている。そんな状況を変えたのは、アルチバルドの言葉だった。


「死ぬのが怖いのなら、仕方ありませんよ。戦えないなら、元の世界に帰れるようになるまでは雑用係として働いて下さい。それなら、戦いに参加する事もありません」

「……あぁ、分かった。それなら引き受けよう」


 雑用係を任命された。アルチバルドの言葉に俺は頷いておく。これは早いうちに、ここから逃げ出したほうが良さそうかもしれない、と思った。


 こうして俺は雑用を務めることになった。召喚された初日は協力するような姿勢を見せつつ、裏では逃走をする準備を進めようと決めたのだった。

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