第4話 召喚された者たち

「私の名は、アルチバルド。以後、宜しくお願い致しますぞ」


 そう言って頭を下げながら、丁寧な挨拶をする老人。法衣のような衣装を纏って、頭には細かい意匠の凝らされた白くて長い帽子を被っていた。その老人は、宗教家のように見える。


 俺には、そのジジイが胡散臭く見えた。顔や手に刻まれているシワや老熟した目、真っ白で立派にたくわえた白いヒゲと、いかにも老人というような風貌だった。


 けれど、その目の老人の奥底に覇気を纏っているのが分かる。アレは、何かを企んでいるような目だ。


 そんなジジイの他にも、周りは同じ格好をして待機している老若男女。あいつらは一体、何者なんだろうか。


 観察してみたが、武器を持っていないようだ。ただ、服の中に何か隠し持っている可能性もある。俺と同じように。


 なので奴らの動きに注意しながら、周りを確認してみる。


 いつの間にか俺は、巨大な広間の中に立っていた。高そうな絵画が、ひときわ目に付く場所に飾ってある。石造りの建築物のようで、巨大な柱に支えられたドーム状の上には湾曲した天井がある。


 天井も壁も床も全て真っ白で、光が反射して眩しかった。何かの儀式を行うような場所に見える。ここは一体。


 日本ではないようだ。こんな場所があると知らなかった、これほど立派なら有名なはずなのに知らない。ということは、日本ではないだろうと考えた。


 とすると、ここは何処だろう。


 場所も、目の前にいる人物についても謎。どう動くべきか悩む。判断をするための情報が無い。




「ここは、何処なんだ!? 僕たちは、一体なんでこんな場所に連れてこられた?」


 周囲を観察していると、学生服を着た若い男が叫んでいた。優等生キャラのような若い男は老人を責めるようにして、大声で問いただす。彼も、俺と同じようなことを疑問に思ったようだ。


 俺の周りには学生服を着た若い男女や、スーツを着たサラリーマン風の大人たちが立っていた。合計で20人ほど集まっている。なんなんだ、この集団は。俺はいつ、こんな奴らの中に混ぜ合わされて集められたのか。


 ざっと見てみた感じ、同業者は居ないようだった。サラリーマンの男性は普通だ。学生も、ヤンキーのようにヤンチャな見た目をした者は居なかった。どういう基準で集められたのか分からない。


 直前の記憶を思い出してみる。たしか俺は、仲間に拉致られ地下に監禁されていたはず。その後、ケンジと彼の仲間たちにリンチされて、最後は頭を撃ち抜かれたようだった。


 その後にも、何かあったような気がするけれど思い出せない。走馬灯でも見ていたのだろう。なのに俺は、死んではいなかった。


 それどころか、身体には何の怪我もなかった。俺が着ていたスーツボロボロだったはずなのに、今は拉致られる前の元通りになっていた。


 むしろ、身体の調子は良くなっているような気がする。長年積み重ねてきた怪我や後遺症、身体の節々から感じる痛みがすべて無くなっていた。肩や腰に痛みを感じることなく自由に動かせる。


 それだけでなく、身体の奥からエネルギーが溢れ出るような感じもあった。そんな自分の身体の異変に戸惑う。


「先程も申しましたが、ここはマンドスシリアという国。貴方たちの知る場所とは、別の異世界から召喚しました」

「はぁ? 僕たちを異世界に召喚!?」

「……」


 老人と学生が口論している横で、俺は自分の身体を確認する。スーツの上から懐に手を当ててみると硬い感触があった。そこには、拳銃が入っていた。監禁された時に取り上げられたはずなんだが、何故か今は持っている。この懐に入った拳銃も、俺が仲間に拉致られる前の状態ということ。


 闇ルートから仕入れた拳銃、トカレフ。全弾入っているのなら残弾数はマガジンの8発と、装填されている1発の合計9発。流石に今は、懐から取り出して残りの弾を確認することは出来ない。こんな物を持っていると周りに知られたなら、警戒されるだろうから。


 しかし、異世界か。ますます意味が分からなくなってきた。老人の表情は真剣で、嘘を言っているようには見えない。彼の周りにいる者たちも、同じような表情で待機している。


 とはいえ、宗教家のような人物が語っているだけだから信用は出来ないが。


「貴方達は、選ばれたのです」

「はぁ? どういうことか、ちゃんと説明して下さい!」


 老人に掴みかからんばかりにヒートアップをする学生が、俺も聞きたかったことを代わりに質問してくれている。しばらく彼に任せて、様子を見ておこう。他の学生や大人たちも様子見している。皆、不安そうな顔を浮かべていた。


「ええ、もちろん説明をさせてもらいます。場所も用意しておりますので、そちらに移動しましょう」


 老人は、睨みつけてくる学生の視線を真正面から受けつつ、微笑みを浮かべて言い放った。やはり、どうも胡散臭い人物だな。


 けれど今は、抵抗はせずに彼らの言うことを聞いておく。タイミングを見ながら、どう行動をするのか決めなければならないな。




 機を見て反撃するか、どうにかしてここから逃げ出すか。だがまずは、情報を得ることが先決か。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る