第3話 授けられた力

「願い事は3つ、叶えてくれるんだよな?」

「えぇ。3つ、特別に叶えてあげます」


 再度、間違いないことを確認する。彼女は3本の指を立てて、分かりやすく示す。せっかく貰えるのならば全て、有り難く貰っておこう。まぁ、これはただの会話だ。話を終わらせて、元の世界になるべく早く戻るだけ。


「じゃあ、まず1つ。病気や怪我に無縁な、とにかく丈夫な身体にしてくれ」

「はい、良いですよ。……健康な身体、っと」


 俺が生きている世界では、とにかく身体は頑丈な方が良い。病気や怪我に無縁ならなお良し。そんな感じで願いを叶えてくれと頼んでみると、彼女は軽々とした様子で了承する返事。


 俺は続けて、彼女に願い事を頼んだ。


「2つ目は、世界で活躍できるほどの特殊技能を身に付けたい」

「なるほど。スキルですね!」


 生きていくためには様々なスキルが必要だった。力だけでなく、何か特殊な技術を身に付けていれば、どこかで活躍できるような場が必ずあった。だから、特殊な技術というのは大切である。それも彼女は、軽々と了承する。


「どんなスキルを望みますか?」

「種類か? それは別に、指定はしない。適当に決めてくれ」


 彼女から質問を返された。どんなスキルを所望しているのか。適当に会話していたので、俺はそこまで深くは考えていなかった。勝手に選択してくれとお願いする。


「分かりました! それでは、私のオススメを」

「じゃあ、それで」


 どうやら、彼女のオススメというものがあるようだ。気にせず適当にスルーして、話を先に進める。


「最後の願いは、自分で治療できるようにする医療関係の知識を身に付けたいな」


 万が一に備えて、薬などを自分で処方できるようになれば本当に助かる。わざわざ高い金を払って、闇医者に診てもらう必要がなくなる。闇医者を利用するだけでも、かなりの危険を伴う。その危険を減らせるだけでも、大きい。


 抗争や戦争で負った傷を治せる傷薬。風邪などの病気に罹ったときに使える治療薬。意外と必要になるのが性病の薬だったりする。それら全て、薬を用意してもらうだけでも莫大な費用が掛かっている。その費用を削減できれば、大助かりだった。


「それでは、貴方の願いごとは丈夫な体、特殊能力、それから医療の知識という3つですね」

「そうだ」


 間違いがないかどうかを念入りに確認される。まぁ、思いつきで言っただけの意見なので、適当に頷いて返事をしておく。彼女も満足そうに頷いているので良かった。これで、ようやく開放されるのかな。


「じゃあ、願い事を叶えますね。えいっ!」


 そう言って彼女は人差し指をピンと立てると、指揮棒を振るかのようにして空中で指を振っていた。アレは一体、何をしているのだろう。まぁ、わざわざ気にすることでもないかな。早く会話を終わらせたいから、黙って彼女の様子を眺めていた。


「はい、終わりました」


 指を一度振っただけで終わったと告げられる。身体が変化したという実感はない。やはり、単なる妄想だったか。


「もう終わったのか?」

「はい。成功です」


 まぁでも、これでようやく開放されるのかな。


「新たな力を実感できるようになるのは、向こうの世界に行ってからですよ」

「? そうか。じゃあ、もう行っていいのか?」


 よく分からないことを言っているが、質問して話が長引いてしまうのは嫌だった。なのでそのまま、気になったことも聞き流して話を先に進めていく。


「はい。このゲートの先に向かって歩いて行けば、貴方の目的地に到着をしますよ。ありがとうございました」

「なんだ、そんな簡単なルートがあったのか」


 女の指差した先にあったのは、白い光を放つ人が軽々と通れるぐらいの大きな丸。あそこを通って先に進むと、俺は目的地に到着できるらしい。先に進めば、俺は目を覚ますことが出来るのかな。


「そうか。まぁ、世話になったな」

「はい。頑張って下さい」


 頑張ってという声援を背中に受けながら、俺はゲートを潜る。その先にあるという目的地に向かって、俺は歩くことにする


「貴方には、様々な力を授けました。その力を使って思ったとおりに、自由気ままに生きて下さい」

「……あぁ、そうかい」


 俺も、出来ることなら自由気ままに生きてみたいよ。今のままでは組の事を第一に考えて生きてきた。本当なら、自分を一番に優先した自由な生き方をしたいのだが。


 そんな事を考えながら、白い風景の道を歩き始めた。




「この先に歩いて行けば、本当に元の世界に戻れるのかよ?」


 真っ白な空間が続いている。ゲートの中に入った時から、景色が変わっていない。時間感覚も、おかしくなっているような気がする。歩き続けて、どれくらいの時間が経ったのか。もう分からない。




「ん?」


 ずっと歩き続けていると、目の前に強く光が輝いているのが見えてきた。あれが、俺の目的地なのだろうか。ようやく終わるようだ。


 俺は慎重に、光の中に近付いてみる。その先に進んでみるけれども、光が眩しくて先が見えない。


 眩しすぎる光に、思わず目の上に手をかざして光を遮る。だが、まだ眩しい。


 そのまま目を閉じて、前に進む。ようやく、足に何かを触る感触があった。そして俺の身体は吸い寄せられるような感覚を味わう。


「うわっ。なんだ!?」


 目を閉じていたので、何が起きているのか把握できなかった。地面から足が一度、離れたようだ。フワッと、身体が宙に浮いたようだ。


 足の裏に地面の感覚が戻った。どこかに降り立ったようだ。さて、俺はどこに来たというのか。俺の知っている場所なら、良いのだが。


 かざしていた手を下げて、周囲を観察しようとする。だが。


「ようこそ、マンドスシリアへ。勇者の皆様、歓迎致します」

「……」


 見知らぬ女の次に現れたのは、微笑みを浮かべるジジイだった。

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