24 前方の狼と後方の狼

 デトハーの四方にある通り門は、商人が使う馬車の高さも考慮して5mある大きな造りだった。

 造りのしやすさから木造ではあるものの、魔獣対策にと建物と同じく魔素によるコーティングがされており頑丈な防壁となっていた。

 しかし、ノール達が辿り着いた北門はその防壁の役目を担えないほど破壊されていた。

 焼け焦げた破片が地面に散らばっている。


「これは・・・・・・爆破、されたみたいね」


 北門の無惨な残骸と、近くに倒れる門番役のギルド員達を見てクルバが呟く。


「魔獣対策の門に対しての準備まで周到にしてるとなると、いよいよ単なる野盗とは思えねぇな」


 ブッレヤクサは周辺を見回していた。

 北門の近くにある空き家から火が上がっているという報告は、伝書フクロウ伝いに襲撃当初から聞いていた。

 すぐに消火活動にとギルド員が回ったとも聞いていたが、火事は鎮火するどころか他の家にも燃え広がっていた。


「な、なぁ、お姉ちゃん、水の魔法でさぁ消火手伝ってくれないッスか?」


 燃え盛る家を指差しスバードが弱々しい表情を浮かべ、ミュレットにすがるように頼み込む。

 近くの店から水を運び込んできてぶっかけるなんて人力じゃとてもじゃないが太刀打ちできる火の勢いでは無かった。

 しかしそう頼まれたミュレットは眉をひそめ首を横に振った。


「あの、私、その・・・・・・」


「な、なんだよ、お姉ちゃん、アルブの民なんスよね? 耳のその尖がり具合、オレだって知ってるッス。アルブの民は魔法使いとして長けてるんスよね? だったら、滝のような水で、ほらバァッと──」


 言葉を濁すミュレットに大魔法をイメージしたスバードが手を広げ言い詰める。

 見かねたノールがミュレットの前に立ち、スバードの眼前に手を出し制した。


「ミュレットは、火の魔法以外、ちょっと苦手なんだ」


「は? アルブの民なのにそんな──」


「スバード、無理なものは無理だ、諦めなよ。それより私たちはギルドの魔法使いが来てくれるまで少しでも火の広がりを食い止めるんだよ」


 スバードの抗議をクルバが遮る。

 それでいいだろ?、とブッレヤクサに了承を得るとスバードを引っ張って近くの店に向かっていった。


「消火活動に避難誘導、魔狼退治に加えて門を破壊されたことで外からの魔獣の侵入にまで対応しなきゃならねぇ。ギルド所属のヤツに、傭兵、旅人と合わせたところで人手不足だな、コイツは」


「俺とミュレットはアンタについていく。ブッレヤクサ、アンタはどう動く気だ?」


 人手不足という状況であれど、ノールにかかっている疑いが晴れたわけではない。

 都合よくここから勝手に動くというわけにはいかないだろう。


「仕掛けてきやがったクソ野郎共をとっととやっつけてやりてぇ、てのが一番なんだが、ただがら空きのこの場所を放ったらかしにするわけにもいかねぇ」


 ブッレヤクサはそう言い、空に向かって口笛を鋭く鳴らした。

 その音に答えるように、暗い夜空に舞う一匹の伝書フクロウが羽ばたき降りてくる。

 ブッレヤクサはフクロウの止まり木になるよう腕を伸ばすと、その手の甲に伝書フクロウが降り立つ。


「誰か回せねぇか連絡取ってみるが、誰か来るまでは俺様達でここの防衛だわな。ほら見ろ、燃え上がる火事が誘い灯になっちまって、野生の魔狼達が来やがるぞ!」


 大破した門の外、燃え盛る火の明かりも届かぬ闇から轟く群れの足音。

 獲物を定め吠える声は前方から──のみに留まらず、街の中からも聞こえてくる。


「ミュレット、街に向かって魔法は放つなよ」


「わ、わかってるわよ。外の方なら問題ないでしょ。ノールは中、私は外、それで良い?」


 ノールとミュレットはそう言いあうと自分の担当の魔狼へと向かって構えた。


「おうおう、やる気充分で助かるぜ、まったくよぉ」


 割れた顎を擦りながらブッレヤクサは笑うと、大きな斧を片手で振りかぶり、駆け寄ってくる魔狼の群れの先頭に投げつけた。

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