23 伝達とキナ臭さ
デトハー中央通り、赤髪の女性──クルバの肩に伝書フクロウが舞い降りる。
クルバは伝書フクロウが伝えた情報をそのまま口に出して、その場にいた者達に伝達する。
すなわち、ギルドの傭兵であるブッレヤクサとスバード、それにノールとミュレットにもだ。
「キナ臭ぇ話だな、情報の出どころはわかってるのか、クルバ?」
ブッレヤクサは縮れた黒い髪をかきあげると、情報の伝達を終えて飛び去っていく伝書フクロウを目で追いかけた。
「フクロウからの情報によると、そこの青鎧の騎士がソルの王子様だって話は三箇所から出てるみたいね。あと、見かけない服装の男が放火の首謀者だって話も混ざってるみたい」
「三箇所、か。魔都の生き残りからの情報にしちゃあ、ちょっと多いかもな。ソルから逃れてきた者がこの街にいるだなんて俺様は小耳にも挟んじゃいねぇなぁ。なんか噂は聞いてるか、スバード?」
ブッレヤクサに話を振られ、スバードは自分を指さしながら驚く。
「オ、オレは何も知らないッス、ブッレヤクサさん!」
まるで隠し事がバレたかのような反応を見せる少年に、ブッレヤクサは、だろうな、と言い笑った。
「こんなキナ臭ぇ話に素直に従うつもりはねぇんだが、しかしよ──」
ブッレヤクサは手に持つ大きな斧をノールに向けて構える。
「──話を聞いてから何処かへ行こうとしてる気がしてるんだが、気のせいかあんちゃんよぉ? 逃げようなんてしてくれるなよ、捕まえなきゃいけなくなる」
構えた大斧の柄の部分に、ブッレヤクサの手のひらから発生した糸のように伸びた魔素が絡みつく。
「ソルから逃げのびた者がいると言うなら、確かめなければならない」
「王子様扱いは誤魔化す気もねぇんだな。なんだ生き残りに会って、口封じでもするつもりか?」
北の大国ソルが魔素に飲み込まれた大事件の原因は第一王子にあるというのは、他国にも伝わる話であった。
それがどれほどの信憑性があるのかは定かでは無いが、大事件が起きてから数年経った今はむしろその話しか聞かないほどであった。
「馬鹿な、そんなことはしない!」
ブッレヤクサの言葉にノールは睨み返した。
魔狼にも向けなかった鋭い目つき。
「俺はソルを、魔素から解放したいんだ。逃げのびた者がいると言うのなら・・・・・・」
どうしたいのだろうか、とノールは自問して言葉が詰まってしまった。
謝罪したい、という気持ちはある。
多くの国民が魔素に飲み込まれた。
その原因となったのは、王家だ。
それを謝罪したとして、逃げのびた者に何の救いになるのかとも思う。
言葉を尽くしたところで、あの日ソルにいた者達は魔素に飲み込まれたままだ。
許してくれなどと言うつもりはない、けれど罰してくれと頼むには今はまだ事をなす前で早すぎた。
「・・・・・・今夜、いやそれ以前からあんちゃんのこの街での働きを考えるによぉ、こんなタイミングで安易に夜襲を仕掛けるなんてなぁおかしな話なんだ。ギルドの仕事をコツコツとこなしてから仕掛ける必要なんてねぇわな、そこで積み上げた僅かな信頼なんて一発で吹っ飛ぶ立場だもんな」
「嫌な言い方するね、斧のオジサン。ノールは悪の魔王じゃないんだからね!」
斧を向け、睨み返す。
そんな二人の緊迫した状態に口を挟むミュレット。
手に持った杖をブッレヤクサの後ろで構えるクルバに向ける。
静かに立つ赤髪の傭兵は、ブッレヤクサが動いたならいつでも続くことが出来ると言わんばかりに棍棒を構えていた。
「国一つ、しかも大国のソルを魔素に陥れたと噂のヤツだ。素性がバレれば信頼もクソもねぇって話よ」
「アンタらとやり合う気なんて無い。斧を下げてくれ。ミュレットも、あまり刺激するな」
ノールはブッレヤクサとミュレット双方に、矛を収めろと手を伸ばす。
「オイオイ、俺様を舐めるなよ、あんちゃん。俺様の話をちゃんと聞けってんだ。俺様はあんちゃんが疑われてるこの状況を疑ってるってんだよ。キナ臭ぇと何度も言ってんだろ? だが、下手な動きを見せてくれるなとも言ってるんだぜ。ギルドとしては動かなきゃならなくなるって話をしてるんだ。冷静に判断してくれよ、勝手に動くな」
制止する側はこちらだと圧をかけるブッレヤクサ。
その意図を汲んでノールは手を下げ、視線を送りミュレットの杖も下げさせた。
「話がわかるヤツで助かるぜ、あんちゃん。余計な混乱を招かねぇように近くにいててもらうぜ。俺様達がやらなきゃならねぇのは潰し合いじゃねぇ。協力しての魔狼退治とキナ臭ぇ情報をバラ撒いてる犯人探しだ──」
街に響く魔狼の咆哮。
そこに気を向けた途端、街の北側で大きな爆発が起こった。
「あ、あれは、北門の方ッス、ブッレヤクサさん!」
夜の街を火事の明かりよりも照らす閃光。
驚きの声を上げるスバードの頭に手を置いて、ブッレヤクサは舌打ちを鳴らす。
「クソ野郎共の動きが速ぇな。火事場泥棒狙いなんて、読みが甘かったか」
行くぞ、とブッレヤクサが言葉を続け駆け出したので、クルパとスバードもそれについて駆け出す。
ノールとミュレットは互いに視線を合わせ頷くと、遅れぬようついていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます