25 包囲網と厄介な事

 デトハーの北門で起きた爆発は、街の東側にいる武志達も知ることになった。

 遠くから聞こえる爆発音に、夜空を照らす閃光、そして地を僅かに揺らす振動。


「クソッ、次から次に、何だってんだ!?」


 悪態をつくのはギルド員の一人。

 腰にぶら下げていた小さなナイフを目の前に立つヴィンドに向けて構えてはいるものの、視線は爆発音の鳴る先に向けたり、周りを囲む魔狼に向けたりとキョロキョロとしている。

 次々起こる事態を飲み込むこともままならぬまま、周りを囲む事態のどれが危険優先度が高いのかすら判断できず、狼よりはジジイの方が対応しやすいだろうとヴィンドに向けてナイフを構えてる始末だ。

 普段からギルドの仕事も小間使い程度のものしかやってきてなかった男としては、なんでこんな事に?、という愚痴が頭を埋め尽くすしかなかった。


 対して隣に立つもう一人のギルド員の男は、危険優先度が高いものとして鉄製の剣をヴィンドに対して向けていた。

 後ろからジリジリと近寄る魔狼よりも、魔素に飲み込まれた大国ソルからやってきた一行が何を企んでいるのかを探る方が重要だ。

 目の前に立つ老人、その後方には弓使いも控えていて、そして魔素を全身に纏う狂人がいる。

 遠い北国の被害など風の噂に聞く程度で目で直接見た訳では無いが、魔素に飲み込まれた村がどうなってしまうかはギルドで仕事を請け負う上で嫌という程見てきた。

 生まれて物心がつく前より身近なモノとして存在する魔素、ただ便利な道具のようなものにしか考えてなかった魔素が動物を、人々を、家屋を飲み込んで化け物として成り代わる。

 そんな恐ろしい事が起きた果ての荒れ崩れた光景を見て、魔素を使うことを止めようと考えたこともある。

 恐ろしい光景を国単位で起こしてしまった者、それだけで最重要危険人物だと剣を構えるギルド員は考えていた。

 少しでもヴィンドに動きがあれば、躊躇することなく斬りつける。

 その覚悟を持ってギルド員の男は鉄製の剣を構えていた。


 厄介な事になった、とヴィンドは状況について考えていた。

 北の大国ソルの第一王子であるノールのことは、別の国でも知られているであろうとはわかっていた。

 他国であろうと王族の者である、その認知度は調べなくてもある程度あることは考えられる。

 しかし、名前だけならば、の話だ。

 魔素を扱えぬノールは忌み子として王家からは迫害されていて、表立って姿を見せたことは無かった。

 軟禁に近い形の隠蔽が生まれた頃より行われており、僅かばかりの情けとせめてもの汚名をそそぐ為に、一部の者から教育を受けていた事が数少ない他人との接触であった。

 その一人が教育係を任されたヴィンドであり、ノールの顔を知るものとなると指で数える程も居ないと言える。

 故にこのマークリウス王国に来てからもノールは顔を隠すなどの警戒を行わなかった。

 例えソルから逃げ延びた者がいたとしても、ノールのことを知るものなどいないと判断したからだ。

 それを知る者がいるというのならば、追いかけてでも話を聞かなければならない相手だ。

 この襲撃の犯人をノール達に擦り付けると言うならば尚更だ、今すぐにでも姿を消した女の後を追わなければならない。

 しかし、厄介な状況になっている。

 女の虚言を真に受けたギルド員たちは今ヴィンドに向かって、警戒というその矛先を向けている。

 舌なめずりしながらジリジリと近寄る魔狼の事など二の次と言わんばかりにヴィンドの事を睨みつけている。

 偽情報に惑わされて自分達を捕まえようとする者を助ける道理は無いのだが、みすみす見過ごすわけにもいかない。

 そもそも宿を出てきたのは街で起こった襲撃から人々を守る為である。


 厄介な事になった、そう愚痴を一つ零したくもなるなとヴィンドは思いつつ、戦闘慣れしていないギルド員には到底捉えきれない速度の踏み込みで、ギルド員二人の間を横切るとその後ろから駆け寄り迫る魔狼を一匹、杖に仕込んだ刃で水平に薙ぎ払った。

 獲物を捉えた、そう感じさせる威勢のいい音で吠えたまま一匹の魔狼の身体が横半分にズレていき、魔素の粒子となって宙に溶けていった。


 一瞬の出来事、なのかすらも理解出来ずにいたナイフを構えたギルド員の男は目の前に立っていたはずの老人の姿が消えて呆然としていた。

 自分がキョロキョロと視線をあちこちにと移してしまった隙に見逃したのかと慌てて老人の姿を探していると──


「狼が来ますぞ、油断なされるな!」


 後ろからヴィンドの声が聞こえ、横──やや高い位置から聞こえる狼の咆哮。

 飛びかかる魔狼の巨躯が、ギルド員に影となって被さった。

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