4 大剣使いと大リザードマン
「もぉ! また話を聞かないっ!!」
「いいからミュレット、オレ達は後ろの雑魚どもの相手だ、構えろっ!」
いつものこととは言えど、いつも通り特攻するノールにミュレットは憤慨し、それをアースカが抑える。
アースカは背中に背負っていた弓を構えると、片手で背中の何もない空間を掴まえる。
まるで矢を手に取るような動作。
そして現れる、紫の光を発する矢。
構えた弓、強く引かれた矢、解き放たれる紫電。
先陣を切るノール達を追い越して、巨大なリザードマンを横切って、突き刺さるはその背後で待ち構えていた草原で戦ったサイズのリザードマン。
その一体の額に見事に命中し、紫電は小さな爆発を起こす。
トカゲ人間を構成する魔素が弾け飛び、宙へと霧散した。
魔素を操ることによる弓術、それは一体の撃滅に終ること無く続く。
まさに紫電一閃、飛ばされた斧の返しとなった反撃の一撃。
巨大な斧に恐怖して攻めてこれないだろうと威圧をかまし、村の中で待ち構えていたリザードマン集団が攻勢に出なければと慌てだす。
そこへ飛んでくる、炎。炎。炎。
「村ごと燃やさぬよう気をつけなさい、ミュレット」
水晶が先端に付いた小型の杖を振り回すミュレット。
杖が回転する度に、水晶から炎が出現し大きく放物線を描きリザードマン達に降り注ぐ。
まるでバトントワリングの様相で、頭の中で奏でる音楽に合わせ舞うミュレット。
その心酔する様子に釘を指すヴィンド。
「ぐっ・・・・・・前回の件は反省してます」
ここに来る前にも一村、魔素に飲み込まれた村で戦闘を行った際、舞に集中していたミュレットは加減をつい忘れてしまい、山火事寸前までの惨事を起こしてしまっていた。
加減は大事、頭の隅にその言葉を起きながら、遠い故郷の童謡に身を委ねていく。
駆けるノールは、背負った大剣を片手で掴み軽く振り回すと、巨大なリザードマンの足元で急ブレーキをかける。
制止にと踏み込んだ左足を起点に、その強引な減速をバネにして、まるで大木を薙ぎ倒す木こりの様に、両手で構えた巨大な大剣を水平に振る。
巨木の幹のような太さのリザードマンの足に大剣がぶつかる。
刺さらない、か。
その大きく変貌した身体と比例するのか、皮膚の硬さも通常のリザードマンとは別物であった。
鋼鉄の大剣を弾き返す爬虫類の皮膚。
ならば、とノールは弾かれた反動を利用して腕を回し身を捻る。
手を逆に交差して、右を叩いたなら次は左だ、と言わんばかりの二撃目。
幹を左右から叩いていく。
弾いたということが、ノーダメージだったということとイコールではない。
大リザードマンはたまらず、ノールへと攻撃を仕掛けようと手に持った大斧を振り上げる。
そこへ──斧を振り上げて反れた大リザードマンの上半身へ、武志の飛び蹴りが決まる。
高さで言えば3メートル程度、まとわりつく何か、いや魔素と呼ばれるものの力を使った跳躍。
今まで闘った相手なら、風穴だって開けた威力を誇る飛び蹴りだったが、少し押した程度で硬い皮膚と硬い筋肉に弾かれる。
弾かれ地面に着地する武志は、想像以上の硬さに驚く。
しかし、注意は逸らした。
武志の一撃が生んだ隙に、ノールは三撃、四撃目と大剣を振る。
ぶつかり合う大剣と皮膚。
大リザードマンが再び、斧を構える。
既に振り上げた体勢に入っているので、後は振り下ろすのみ。
武志も再び、跳び跳ねる。
助走を必要としない強靭なバネ。
飛び蹴りが狙うのは、先程と同じ位置。
足を傷つけようとするノールには斧を、目の前に飛んでくる武志には、剥き出しに垂れ下がった舌。
身体の大きさと比例する、武志の身長ほどある大リザードマンの赤く長い舌。
武志の片足に巻きついて、僅かな首の動きで宙を跳ぶ武志の身体を大きく振り回す。
武志は巻きついた舌を剥がそうとするも、力強く振り回されるなかで身動きが取れずにいた。
「何やってんのっ!」
ミュレットが舞の向きを変える。
杖の水晶から放たれた炎が、大リザードマンの舌へと落ちる。
赤く長く太い舌を焼き切る炎。
解放された武志が地面に落ちる。
「ありがとう、助かった!」
援護を受ける、というのは非常にありがたいことだと武志は思った。
今すぐこの喜びを相手に伝えたいところだが、そんなことをしているタイミングではない。
振り降ろされる巨斧。
ノールの身体をぶった斬る一撃。
しかし、その一撃がノールへと辿り着く前に、ノールの五撃目の横薙ぎ。
硬い硬い皮膚を、太い太い幹を、ぶった斬る一閃。
「豪快っ!」
武志も驚嘆するノールの力任せの攻撃は、大リザードマンの左足の脛をぶった斬った。
足を失い崩れる大リザードマンの身体。
前かがみに落ちてくる頭部。
ノールは地を擦る様に大剣を振り上げて──
ズバッッッッ!!
弧月を描く大剣の一閃は、大リザードマンの顔を縦真っ二つに引き裂いた。
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