第7話鬼畜

鬼畜



「私の最初の相手はお父さんなの…」


「冷えたキールとバーボンソーダ18禁」の中で、貴子と言う女に合わせたセリフだ。


実はこのセリフには、元になった裏ビデオがある。


「私は11歳です。私の初めての相手はお父さんです」


と言う告白から始まる裏ビデオが有った。


今は児童ポルノ禁止法が厳罰化され、この様なビデオを観るだけでも処罰の対象となったが、DVDが世に出始めた頃、この様なビデオは街角で幾らでも手に入った。


裏を返せば、この様なビデオに出演させられる幼気な少女も山ほどいたと言う事だ。


呉々も言っておくが、私はこの様なビデオには興味は無い。


男である以上、女の裸や男女の絡み合いに興味が無い…と言えばまったく嘘になるが、年端も行かない少女に大人の男が汚い逸物を押し込む事には吐き気さえ覚える。


ならば何故…こんな話を始めたのかと言えば、私はこの少女を…この父親を知っているからだ。


その昔、小学生の娘のランドセルに覚醒剤を隠し、学校に通わせていたとしてその父親が逮捕された事件がある。


覚醒剤事件は例え家に警察のガサ入れがあろうとも、現物が見つからなければ逮捕はされない時代があった。


毎朝学校に行く娘のカバンに覚醒剤を隠せば、警察の目を誤魔化せると考えたのだろう。


事件が発覚し更に捜査を進めるうち、その父親は覚醒剤欲しさに薬の売人に自分の娘の身体を差し出していた事が判明した。


その娘が17歳になった時…私はこの娘と知り合った。


当時、青少年保護育成条例も全国に浸透していない時代、17歳の少女と関係を持ったとしても刑法に拠って罰せられる事はなかった。


シルバーファックスの毛皮のハーフコートにブランド物のバックを下げ、その少女は覚醒剤を買いに来た。


濃い目の化粧、小柄で色白の良い女だった。


とても十代だとは思えない色気が有った。


聞けば、中学生になると同時に夜の街に出始めたと言う。


何度か関係を持ち警戒心の薄れた頃、少女の告白が始まった。


「あの事件は私なの…」


そして父の名前…それほど遠く無い昔、何度か覚醒剤を渡した事のある男だった。


父との関係の始まりは僅かに9歳だったらしい。


10歳の時には、覚醒剤欲しさに自分から身体を開く様になったそうだ。


十年ひと昔と言うなら、これは遠い昔の話だ…。


しかし、私が見聞きした話が昔の話であると言うだけで、今も世の中に覚醒剤は氾濫している。


今はもう、こんな不幸な出来事がある訳が無いと誰が言えるだろう。


娘さえ食い物にしようと言う、いや…自分の娘にさえみさかいなく性の玩具として自分の欲求を満たそうとする、人間としての正常な判断をさえ奪い鬼畜の所業を生み出すのもまた、覚醒剤がもたらす深刻な効能だ。


今、自分が50歳を過ぎ、過去を振り返ってみれば、17歳の女の子を性の玩具として遊びとしてのセックスに明け暮れていた事も鬼畜の所業に違い無い。


しかも、それは私の頭の中に深く刷り込まれた覚醒剤の型でもある。


今を持って私は、覚醒剤を使った瞬間から、女は自分の性の欲求を満たす玩具としか考えられなくなる。


逆に言えば、玩具となり得る女が居なければ、覚醒剤をやりたいとも思わない。


それもまた一つの現実なのだ。


何時も言うが、全ての人が同じ行動を取るとは言えない。


我が娘を食い物にする親も絶対数で言うなら僅かだろう。


だとしても、覚醒剤が世の中になければ、起こり得ない不幸な出来事が数多くある事も知るべきだと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る