第4話 潜伏の天輪
堕天界、堕ちた天使が棲むもう一つの天界。
神に知られる事も無く、闇にも光にもなり物や家の類は何も無い。居るのは天使とも人ともいえぬ概念の影が数体、それら総て世界そのものを引っくるめて統括するのがこの少年
「僕も前は天界の天使だった。
果実を口にして堕とされたけど、それよりも前から創造の力自体は持っていてね。それが果実によって形作れるようになったってワケ。」
「その力が今でも残っているの?」
「そうだよ。」
ユスリカは首を傾げる、下へ堕ちたという事は確実にアダムも神の雷を受けている。
「‥君、宝物や聖遺物に手を出したでしょ?」
「うっ..」
「やっぱり、落ちて来たとき酷い有様だったから直ぐに気が付いたよ。」
まんまと図星を突かれた、勘がいいというよりはユスリカの行動に大胆が過ぎる。それ程までに宝物の持つ力は凄まじく危険なものなのだ、身につけて遊ぶなど自ら身体を焼き切っているようなものだ。
「僕のは小さい果実だからね、ゼウスの雷は罪人を咎めても神の一縷は砕けない。あくまでも罪人に宿った力を大幅に削ぐだけだ」
果実を口にしたアダムの力は潜在的な創造力を更に引き出し昇華させたのみ、比べてユスリカは力無き天使として膨大な神の力を取り込んだ為、剥き出しの力を〝罪〟として裁かれ殆どを失った。
「さっきまで君は亡骸に近かった、正直僕の力でも形を創れるかどうか。」
「…一応は生きてる。」
天使と呼べるの輝きは無いが、人に近い綺麗な形状へとなんとか修正されている。
「苦労したけどね、でも大丈夫。
なんとか上手く〝施しといた〟からさ」
アダムが指を鳴らすとユスリカの頭の上に見慣れた輪状の塊が浮上する。
「天使の輪が..!」
「時間が経てば翼も生えてくるよ」
「天使に戻してくれたの?」
「まぁね、但し〝堕ちた天使〟だけど。」
浮き出たばかりの輪は脆く、まだ何も力を与えない。完全に元に戻ったとき宿るのは、以前とは異なる堕天使の力。
「感謝してよ、普通ならユグドラシルを追われた天使は人間界にまで堕とされて廃人になる。君は女天使だから魔女になるね」
「魔女に?」
「僅かな憎しみという魔力を残したこれまた廃人だよ。そうならないのは途中で僕が君を掬い上げ、どうにか手を施したからだ」
生きながら死ぬ寸前を、無限の余暇にまで留めた。長きに渡る暇を持て余せば僅かなりにも愉しみを見出す事が出来るだろう。
「…有難う、助けてくれた事には感謝するわ。
だけどこれからどうしようかしら..」
「決まってるでしょ、やる事は一つ。
僕も数が集まるのをずっと待っていたからね」
「…え?」
何かを創造するものは、例えそれが気紛れの暇潰しであったとしても無意味なものを決して創る事は無い。
「君の他にもいるんだよ、上から堕ちてきた大いなる連中っていうのがね。」
噴き出した闇の中で、幾つかの瞳が鋭く光っていた。天の輝きを失った堕天の眼光が、懐に引き込むようにユスリカを誘っていた。
「でもまだかなー、数がもう少し欲しいんだ」
「目星があるの?」
「天界にもう一人ね、こっちに堕ちそうな可能性のある奴が残ってるんだ。」
指を目元にカメラのようにフォーカスし天を見つめる。アダムの視線の先には、最も忠実な神の右腕の姿が映し出されていた。
「あと少しだけ力を馴染ませよう、そしたらコトの始まりだ。愉しみだね〜..。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます