「完了だ」
「な、な……」
綾華も結香と同じく後ろを向き、大きく目を開き美咲輝を見る。
彼は気を失っているのか動かなくなってしまつた。いつもはキメているオールバックが崩れ下がっており、スーツは破れ血がにじみ出ている。一目見ただけで危ない状態なのはすぐにわかるほど、酷い状態になっていた。
二人が駆け寄ろうと足を踏み出した時、地響きがなるほどの咆哮を魔妖が上げ、耳を塞ぎ顔を歪めた。
そんな中、魔妖がとうとう狙いを夜狐達に向けてしまった。
彼らはまだ、先程の体勢から動いていない。無防備状態なため、今狙われてしまえばひとたまもなりもない。
魔妖は、余裕そうな笑顔を浮かべ、夜狐達にゆっくりと近づきながら、人を握りつぶせるほどの大きさになっている手を伸ばす。
「「や、やめてぇぇええええ!!!!!!!」」
女性2人の声が赤黒い空間に響き渡った瞬間、黄色く輝いている刀が放たれ、魔妖の手に突き刺さる。
「────3分、稼ぎましたよ」
美咲輝が頭からどくどくと血を流しながらも、顔を上げた。左手で刀を投げ、鋭く光っている瞳を夜狐達に向け、静かにそう口にした。
「あぁ、礼を言うぜ。ここからは、俺達に任せろ」
魔妖が自身に刺さった刀を抜き取り、地面へといらただしげにたたき落とした。それにより、刀がまっぷたつに割れてしまう。
そして、そのままもう一度右腕を振り上げ、夜狐達を潰そうと叩きつけた──……
──────魔妖には、魔妖をぶつけてやるよ
今までの夜狐の声には到底聞こえないほど低い声で、そのような言葉が響いた。すると、なぜか2人を叩きつけようとした魔妖の片腕は、大量の黒いモヤを噴水のように出し吹き飛んだ。
「時間は1分だよ。それ以上は何があっても、私が君の魔妖を封印するからね」
「あぁ」
雀は険しい顔を浮かべ、今目の前にいる夜狐にそう伝えた。
今の夜狐は、今までとはまるっきり雰囲気が異なっていた。
見た目は変わらないが、纏っているオーラがどす黒く、声が低い。目が開かれており、狂ったように赤黒く染っている瞳は、ただ一点を見つめ続けている。
今まで持っていた鞘は横へと放り投げ、刀の柄を両手で持ち腰辺りで構えた。
「始めるぞ」
その言葉に答えるように、雀は口に咥えていた煙草を手に持ち直し夜狐へと向ける。すると、徐々に紫色の煙が立ち上り、それが赤い炎へと変貌する。
その炎は勢いよく燃え上がり、なぜか夜狐の刀へと向かっていく。そのまま刀か炎に纏われ、炎の剣が出来上がった。
そのことに対し、口が裂けそうなほど広げ、膝を折り姿勢を低くする。赤黒く染っている瞳は、吹き飛ばされた腕を見ている魔妖に注がれる。
夜狐の背中からは黒いモヤが立ち上り、彼らが口にしている魔妖と呼ばれるものが姿を現した。それを見て、美咲輝は目を見開き驚きの表情を浮かべ、雀に説明を求めた。
「夜狐は、魔妖を内に住まわせているんだよ。だけれど、それを普段から制御するのは不可能。そのため、私が魔妖を封じている。やり方は企業秘密だから、教えることは出来ないよぉ」
軽くそう説明する雀だが、それ以上何も言わない。
美咲輝はそれ以上何も聞かず、夜狐を見る。
心配そうに眉を顰め、祈るように手を胸あたりで組んでいる。
背中から現れたモヤは、吸い込まれるように夜狐の背中へと戻り、彼の額には五芒星が刻まれた。
やっと、何が起きたのか理解した巨大な魔妖は、怒りの咆哮を上げた。
怒りで顔を赤黒く染め、斬られていない方の腕を頭の上まで勢いよく振り上げた。
強い突風が吹き荒れ、雀達は吹き飛ばされないように腕で顔を覆っている。
そのまま魔妖の手は、夜狐を押し潰そうとした──……
「終わりだ」
腰辺りで構えた刀を、振り下ろされている腕へと刃を向け、刀を振り上げた。
指先、手首、腕と。何度も切り刻み巨大な魔妖の腕を粉砕し、木っ端微塵に吹き飛ばした。
魔妖が次の動作に入る前に、夜狐は魔妖の腰に狙いを定める。
膝を折り、腰を低くし、白く光る八重歯を見せ、地面を蹴った。
迅雷の如く速さで、胴も真っ二つにし、すぐさま流れる体を立て直し、魔妖の背中へともう一度振り返る。そして、再度地面を蹴り、今度は首元を狙った。
追いつくことが出来ないスピードで攻められ、魔妖はどうすることも出来ず、頭が斬り飛ばされた。
黒いモヤが赤黒い空間に撒き散らされ、空を覆い隠す。
それでも夜狐の怒涛の攻撃は止まず、地面に着地した瞬間、今度は魔妖の頭上へと跳ぶ。
胸を広げ、刀を持っている両手を頭の上まで振り上げた。
炎に包まれた刀は赤く揺らめき、きらりと光っている。
見下ろしている瞳は、なぜか悲しげに揺らいでおり、口をゆっくりと開いた。
「これにて、魔妖討伐、完了だ」
三分割された魔妖を、重力に従い、両腕を振り下ろし縦に斬った。
銀髪を揺らし、右手に刀を持ち替え両足で地面へと着地した。その後ろで、力尽きた魔妖が崩れ落ち、姿を徐々に消していく。
雀は歩きながら、異様な雰囲気を醸し出している夜狐の近づき、額に人差し指と中指の2本を指し、小さく何かを呟いた。
「……──」
すると、その呪文に答えるように、夜狐を纏っていた黒いオーラは身を潜め、完全に姿を消した。
額に刻まれた五芒星も綺麗に無くなり、全ての気力を使い果たしたかのように、夜狐は雀の胸へと倒れ込む。
まるで、電池の切れた玩具のように倒れてしまった夜狐を、雀は「よっこいしょ」と言いながら横抱きにし、美咲輝へと近づいた。
「はやく病院に行こうかぁ」
「…………はぁ」
そんな短い会話を交わし、異空間から抜け出した。
その後はそれぞれ雀の指示に従い、解散となった。
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