「協力してやるよ」
青空が広がる屋上。
優しい風が吹いており、柵に寄りかかっている綾華の髪を揺らす。
「ん……。あ、あれ……」
風に誘われるように、綾華は閉じられていた瞳を開けた。
何が起きたのか理解できないらしく、その場から立ち上がり周りをキョロキョロと見回している。
「え、あれ。東雲君? 梨晏先生?」
先程までいたはずの二人の姿がなくなっており、不安げに2人の名前を呼ぶが、返答はない。
「どこにっ──」
再度名前を呼ぼうとしたが、その瞬間に突風が吹き荒れ呼ぶことが出来なくなってしまった。
咄嗟に顔を覆い、目を閉じる。
「んっ、一体、何が……あ」
突風が落ち着き、少し苛立たしく文句を口にしようとしたが、その言葉が最後まで繋がることは無かった。その理由は──
「………よぉ。気分はどうだ?」
「っ、東雲君!! その怪我……」
鞘に戻している刀を片手に、夜狐と雀が何も無い空間から姿を現した。
彼の右腕からは、未だに血が溢れ出ており腕を伝い地面に落ちる。
黒いパーカーは乱雑に斬られており、そこが赤黒く染まっていた。それを見た綾華は顔を青くし慌てた様子で近づき触れようと手を伸ばす。
「おい、触れんな」
「で、でも、血が出ているし、早く止血しないと」
「確かに、止血はした方がいいね。とりあえず座ろうか」
その言葉に従い、夜狐は柵へと寄りかかりパーカーを脱いで、ワイシャツのボタンも外し始める。
「あ。あ、いや、なんでもない……」
「なんだよ。俺の引き締まったボディを見て顔を赤くしたか? おめぇ、処女か」
「…………私が止血してあげます」
「え、あ、おっ──いっでぇぇえ!!! おい、てっ、もっと優しくしやがれや!!!」
「今のは夜狐が悪いからねぇ。どんまい」
綾華は雀から包帯を奪い取り、乱暴に怪我をしているところに巻つけようとした。だが、痛みで暴れられるため、うまく巻けていない。
「大人しくしろください」
「…………はい」
笑顔で夜狐に言いつけ、その圧に負けてしまった彼は思わずよそに顔を向ける。
その後は、もっと優しく止血をし、包帯を巻き直した。
「終わりです。結構深かったですけど、大丈夫ですか?」
「問題ねぇわ」
「そうですか……」
手当が終わった綾華は、残った包帯を巻き直し雀へと返した。
夜狐もワイシャツを着直し、パーカーは手に持ち立ち上がる。
そよ風が彼の銀髪をふわりと揺らし、いつの間にか真紅の瞳は、いつもの黄蘗色に戻っていた。
今まで隠れていた素顔が露になり、その姿を改めて見た綾華は、整った顔に少し頬を染める。
「んで、お前はどうだ。気持ちはスッキリしたか?」
「え、あ……」
いきなり話しかけられたことにより、少し驚いた様子を見せたが、その後すぐに安心したような優しい瞳を浮かべ、右手を胸元に持っていく。
無意識になのか、口元には薄く笑みが浮かび、自身を見下ろしている彼を見上げお礼を口にした。
「ありがとうございます。なんか、色々スッキリしたみたいで、心のつっかえが取れたような感覚があります。なんだか、今ならなんでも出来るような気までしてきました」
「そこまでは知らねぇよ。だが、変わるきっかけは与えた。あとはお前次第だ。せいぜい足掻けよ」
「はい。私、もう我慢するのは辞めます。自分に自信を持って、これからを生きます!」
「そうかよ。まぁ、また何かあれば屋上に来ればいい。気分が乗れば、また協力してやるよ」
「っ。ありがとうございます!!」
その会話を最後に、綾華は笑みを浮かべながら屋上の扉を開き、去っていった。
「あんなことを言うなんて。珍しいじゃないか。何かあったのかい?」
「いーや。ただ、まだ問題は解決していないように感じてな。次はもっと、めんどくさい事になりそうだが、それをほっとくという選択肢は俺達にはない」
「なるほどねぇ。なら、その前に応援を呼んでおくかい?」
「そうだな。めんどくせぇけど、もう一人ぐらい呼んでおくか。援護射撃が得意な奴をな」
「なるほどねぇ。
「真面目すぎてめんどくせぇけどな」
そんな会話をしながら、夜狐はズボンのポケットから携帯を取りだし誰かに電話をし始めた。
「お、出たでた。おい美咲輝、これから大きな魔妖が出る可能性がある。俺の担当している学校へ来い。もしかすっと、今まで出会ったどんな魔妖よりも、めんどくせぇかもしれねぇぞ」
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