「聞いてやるよ」
「え、あ、ごめんなさい」
「人のもんを勝手に触ろうとするなんてな。教育がなってねぇんじゃねぇの?」
「忘れ物かと思って……」
彼が言うと、大事そうに竹刀袋を手にし背中に背負う。そのまま歩き去ろうとしてしまったため、綾華は慌てて彼の裾を掴み止めた。
「あの! 私の話を聞いてください!」
「だから!! 願いを叶えるなんて不可能だと言ってんだろうが!」
「それはわかりましたが、それでも貴方に話を聞いて欲しい。もう、私には頼れる人が、いないんです……」
震える手で裾を掴み祈願する綾華を、彼は横目で確認し眉を顰めた。
顔を俯かせ、涙を堪えている彼女を目にし、さすがにほっとけなくなった彼は、頭を掻きながら溜息を吐く。
「はぁ……。なら、まずは俺の願いを聞け。話はそれからだ」
「え、貴方の、願い?」
「おう」
その時、マスク越しでも分かるくらい嫌味ったらしい笑顔浮かべたのがわかり、綾華は冷や汗を流し苦笑いを浮かべた。
「あぁ。俺の名前だけは今、教えといてやる。俺の名前は、
※※
綾華が夜狐と出会ってから一週間。
「おい、飯」
「は、はい」
「おい寝る」
「こちら、枕になります……」
「喉が渇いた」
「飲み物買ってきます……」
このようなパシリな状態が続いていた。
それでも、話を聞いて欲しい、助けて欲しいという想いが強い綾華は、従い続けていた。
今は彼のために飲み物を買いに購買に向かっていた。その時、二人の女性が彼女に向かって歩き、そのまま勢いよく肩をぶつける。
「っ!」
「あらぁ? ごめんなさいね。貴方、影が薄いから気づかなかったわぁ〜」
「ごめんねぇ〜??」
くすくすと笑いながら二人の女性はその場から去っていく。その後ろ姿を、綾華は強く手を握り、歯を食いしばりながら見届けていた。
「っ、ふざけるな。悪いのは、私じゃないだろ」
だが、何も言い返すことが出来ず、何もせず購買へと向かう。
そんな彼女を、影から一人の男性が眉を顰め見ていた。
「彼女が
そう呟いた男性は、そのまま影の中に消えていった。
※※
綾華は屋上へと続く扉を音を立て開き、青空の下で柵に寄りかかり待っている夜狐の元へと歩いた。
「買って、来ましたよ……」
「遅い」
「あの、いい加減にしてくれませんかね?!」
ずっと我慢してきたがそれでも限界に達したらしく、綾華は苦笑いを浮かべペットボトルを渡しながら怒りの声を上げる。だが、彼は気にする様子を見せず、お茶の入ったペットボトルを受け取り飲み始めた。
「ぬるいな」
「冷蔵庫に入っていたわけじゃないんですから仕方がないでしょうよ!!!」
「冷やしてからもってこいや」
「今より遅くなりますけど?!」
「はぁ? ふざけんな、俺を待たせるなよ」
「どうすればいいのよ!!!」
もう言い合う気力が無くなったらしく、彼女は肩を落とし脱力してしまった。
「…………やっと、確信をもてたらしいな」
「え、確信?」
綾華が問いかけた時、屋上の扉が音を立て開いた。そこから現れたのは、気崩されたスーツを身にまとい、大きめな白衣を羽織っている長身の男性。
茶髪が腰まで長いらしく、後ろで一つにまとめている。眼鏡をかけており、レンズ越しに藍色の瞳が二人へと向かれていた。
「あれ、
「どうもぉ〜」
気だるげに返事をしたのは、理科を担当している
低音ボイスで、いつも面倒くさそうにしている。口には火の付いていないタバコが咥えられていた。
「
「持っているだろうねぇ。その魔妖の名前は、嫌悪。話を聞いてあげてもいいと思うよぉ」
夜狐と雀はそう話しているが、当事者であるはずの綾華はなんのことか分からず、ハテナを浮かべていた。
「まぁ、そんな気はしてたけどな……。お前が以前ここに来た理由。今なら聞いてやるよ」
柵に寄りかかりながら腕を組み、偉そうに口にした彼に綾華は目を輝かせる。
「あ、ありがとうございます!!」
「おうおう、もっと言え。どうにかしてやるとは口にしてねぇけどな」
「…………え?」
夜狐の最後の言葉に、綾華はそのまま何も言えず固まってしまった。
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